沖縄に駐留する米海兵隊は本土やアジア太平洋地域に分散を-。沖縄県が設けた専門家会議の提言は、極めて合理的な内容だ。日米両政府は真摯(しんし)に耳を傾け、辺野古新基地建設を断念すべきだ。
玉城デニー知事にきのう、提言書を渡したのは、大学教授や元官僚で構成する「米軍基地問題に関する万国津梁(しんりょう)会議」。玉城氏の公約に基づき昨年五月から、沖縄に集中する米軍基地の整理縮小について検討してきた。
提言の柱は、基地負担の象徴となっている海兵隊の分散移転だ。
沖縄には、米インド太平洋軍の前方展開兵力である第三海兵遠征軍の司令部があり、有事即応の機動部隊、第三一海兵遠征部隊(31MEU)をはじめ遠征軍を構成する五部隊の兵員、最多で一万九千人近くが普天間飛行場など県内十カ所の基地に駐留している。
ただ、うち約九千人が早ければ二〇二四年にも、日米が合意した在日米軍再編計画に従いグアムなどに移転を始める。最後まで残るのは31MEUなど数千人規模だ。
中国の海洋進出やミサイル開発を念頭に基地の集中を避け、小規模で迅速に緊急対応を可能とする狙いがある。提言書はこうした米軍の戦略に着目。米軍が県外、国外で自衛隊との共同訓練を増やしている現状も踏まえ、在沖縄海兵隊の本土やアジアへの分散が可能とした。理にかなった考えだ。
重要になるのは、沖縄の民意を無視したまま政府が建設を進めている辺野古新基地の扱いである。
市街地に囲まれた普天間飛行場の移設が目的だが、建設地に軟弱地盤が見つかり、供用開始まで十二年かかる上、工費も九千三百億円に膨らむ見込みだ。提言書は「技術的にも財政面からも完成が困難」と指摘し、普天間の所属機訓練を分散させることで段階的に返還を実現するよう訴えている。
在沖縄海兵隊の運用見直しによって移設によらず普天間返還を図る考えは、日本のシンクタンクや米国の安保研究者も明らかにしてきたが、具体的に検討されることはなかった。
普天間を含む米軍基地の整理縮小に向けて提言書は、日米両政府と県の担当者、有識者らを交えた専門家会合をつくり、さらに論議を深めるよう求めている。
日米両政府は「辺野古移設が唯一の解決策」とする硬直化した態度を改め、進んで協力すべきだ。
提言書が、沖縄の米軍基地負担軽減を加速する呼び水になることを期待したい。
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