感情的になって記事を書くのは、よくないと分かっている。だが、この事件の顛末を知ると、感情を押し殺すのが難しくなる。あまりに、切なすぎるからだ。新聞記事を読んで、久しぶりに泣いた

広島県府中町の自宅で、小学5年の長女・唯真(ゆま)さんに暴行し、死亡させたとして、母親の堀内亜里被告(28)が逮捕されたのは、10月1日のことだった。この日、母親は「娘の様子がおかしい」と交番の警官に告げた。すでに唯真さんは車の助手席でぐったりしていた。病院に搬送されたものの、唯真さんは間もなく死亡した。

母親の容疑は傷害致死。2012年10月8日付の中国新聞によると、「(娘が)うそをつくので、しつけのために殴った。30分くらい暴行した」「やり過ぎた」などと、母親は捜査関係者に供述している。唯真さんの頭を殴るのに使ったのは「練習用ゴルフクラブ」。死因は、殴打が原因の後頭部くも膜下出血と脳挫傷による出血性ショックだと言う。

母親は、「東広島市の高校を中退後、17歳で唯真さんを出産。3カ月後に離婚した」、いわゆるヤンママである。母親は自分では育てられないので、「唯真さんは生後5カ月で乳児院に入った」。母親のみならず祖母からも虐待を受け、2009年には児童養護施設へ。2011年に帰宅してからも、母親から日常的な虐待を受けていたようだ。

子育ての力がない母親。子どものことなど関係なく、簡単に離婚してしまう父親。暴力としつけを同じものだと勘違いする祖母。親元にとどまることのできない唯真さんは、「人生のほぼ半分の期間を、乳児院と児童養護施設で過ごした」。今となっては、施設で暮らし続けていた方がよかったのではないかと思ってしまう。しかし、自身が暮らす場所を、子どもが自分で決めることはできない。

10月23日付の同紙に、10歳の唯真さんが母親に宛てた手紙の一部が公開されている。そこには「…お母さん ありがとう …お母さん大好(き)です」と大きな字で書かれている。その「大好(き)」な母親に殴り殺された唯真さんは、何を思いながら殴られ、死んでいったのだろう。

ときどきしたり顔で「生んでくれた親には、無条件で感謝せよ」と述べる年配者がいる。とはいえ、生んでから育て上げたのならまだしも、まともに育てようともせず、挙げ句の果てに子どもを殴り殺すような親に対し、どうやったら「無条件で感謝」などできるのだろう。偉そうにそう言われる度、年の割には「親と子の関係にはいろいろなパターンがある、ということすら知らない無知な人だ」と思ったりする。

繰り返すが、子どもは自分の暮らす場所を自分では決められない。そして、自宅で暮らしているからといって、安心してはいられない。まわりの大人がしっかりと見守り、他人の子どもであろうと、SOSサインを見逃さないことが重要であろう。ひとりでも多くの、いま虐待を受けている子どもに、生き残ってほしいと筆者は切に思う。

(谷川 茂)