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21時間前

「これ、見たいですよね?」

 私は昌子さんを取材したことはなかったが、NHK時代に同僚記者から「取材を避けている」と聞いていた。また事前に昌子さんから「質問には答えられないと思います。マスコミと職場(注・夫の職場、近畿財務局)がとても恐いです。そこを理解してください」と伝えられていたので、すぐに取材にはならないだろうと考えていた。

 ところが昌子さんはあいさつを交わしてまもなく、カバンから数枚の紙を取り出した。「これ、見たいですよね?」。それが俊夫さんの「手記」だった。存在は語られていたが記者は誰も目にしたことがなく、詳細がわかっていなかった「手記」。それが今、目の前にある。こんな時、記者は興奮を抑えられない。少なくとも私はそうだった。

 私は声に出して文書を読みながら「この部分、すごいですねえ。こんなことが書いてありますよ」と昌子さんに語りかけた。昌子さんが周囲を気にして「声が大きすぎます」と注意するほど。

妻に宛てたメモと死の2日前のメモ(左)

 ざっと読んだだけで内容の重大性はよくわかった。「これ、コピーを取らせて頂くことはできませんか?」「だめです」「写真は? メモは?」「どれもだめです。目で見て覚えてください」。最後に昌子さんは「手記」をしまうと「これは記事にしないでくださいね。相澤さんに裏切られたら私は死にます」と言い残して去った。

昌子さんは「手記」を託し、夫の後を追うつもりだった

 だいぶ後にご本人から聞いたのだが、実はこの時、昌子さんは夫が遺した「手記」を私に託して、そのまま夫の後を追うつもりだったそうだ。ところが興奮する私の様子を見て「手記」を託すのをやめ、同時に命を絶つのもやめた。つまり私は重要文書入手という記者の仕事をしくじったのだが、知らぬ間に昌子さんが自死を思いとどまるという“けがの功名”をあげていたことになる。人生何が幸いするかわからない。

 当時、私は『安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』という本を文藝春秋から出す直前で、発売日に合わせて12月13日発売の週刊文春で関連記事を書くことになっていた。赤木俊夫さんの「手記」の話を聞いて文春編集部は色めき立った。

「それはすごい。何としても出したい。ビッグニュースになります」

 その通りだが、私は無理だろうと感じていた。「出したら死ぬ」と情報提供者が話しているものを無断で出すわけにはいかない。そして昌子さんがそうすぐに考えを変えて公表に同意するとも思えなかった。

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