感染者の増加が続く新型コロナウイルスの感染経路について、複数の中国メディアは、上海市民政局が2月8日、専門家の意見として「エアロゾル感染の可能性がある」と述べたと報じた。せきやくしゃみによる「飛沫感染」、感染者に直接接触する「接触感染」に加えて3つ目の感染経路の可能性が現れた格好だ。ただし、中国国家衛生健康委員会が翌9日に「新型コロナウイルスがエアロゾルを介して伝染するという証拠はない」と発表するなど、中国国内でも情報が錯綜(さくそう)している。
そもそも「エアロゾル感染」とは何なのか。
日本エアロゾル学会によれば、エアロゾルとは、「気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子」を指す。ミスト、ヒュームとも呼ばれる。霧や煙霧、スモッグなどもエアロゾルの一種である。一般的に、粒径は分子やイオンとほぼ等しい0.001マイクロメートルから、花粉などと同等の100マイクロメートル程度までの広い範囲にわたるが、国立感染症研究所は5マイクロメートル未満と定義している。この粒径の小ささがポイントだ。
厚生労働省によれば、感染経路の種類は医学的に、「空気感染」「飛沫感染」「接触感染」「経口感染」の4つに大別される。
「飛沫感染」は、ウイルスが唾液や気道分泌物に含まれた状態で空気中に飛び出して別の人に感染することを指し、「空気感染」は水分を伴わない状態でウイルスが空気中に飛び出し、感染することを言う。飛沫感染はインフルエンザなど多くのウイルスの感染経路として一般的。一方、空気感染する感染症は、結核、麻疹(はしか)、水痘(みずぼうそう)など数種類のみだ。爆発的な流行を引き起こす感染経路として知られる。
感染者のせきやくしゃみで排出される多くの飛沫は5マイクロメートル以上で、1メートルから数メートルしか飛ばないが、5マイクロメートル未満の飛沫や空気中に含まれている霧のような微粒子であるエアロゾルは、すぐには地上に落下せず、ウイルスを含んだままふわふわと空気中を漂う。
エアロゾルは飛沫の一種であるが、空気中を漂うため、飛沫感染にも空気感染にも似る。
厚生労働省結核感染症課の担当者は「『エアロゾル感染』を空気感染の一種とする説もあれば、飛沫感染の一種だとする説もある。科学的に解明されていない部分も多く、かなり曖昧な用語だ」と話す。
医療現場では、気管挿管などの処置をする場合に大量のエアロゾルが発生する。その際、ウイルスに感染しないよう、医療従事者はゴーグルやN95マスク(0.3マイクロメートルの粒子を95%以上除去する効果があるとする米国労働安全衛生研究所の規格に準拠したマスク)などを装着する。この装備が空気感染を予防する場合と同一のため、「医療従事者の多くは、エアロゾル感染=空気感染だと考えているだろう」(厚労省)。
それでは、中国当局が言う「エアロゾル感染」は、爆発的な流行を引き起こす空気感染の一種なのか。
「ただし」と、厚労省の担当者は続ける。「中国当局が発表した『エアロゾル感染』は、医学的に言えば飛沫感染を指すと考えられる。中国メディアが当局の談話として掲載した『飛沫が空気中で混ざり合い、これを吸入して感染するもの』という表現は、そのまま飛沫感染のことを指している。専門家の間で使われるエアロゾル感染とは異なる内容だ」
こうした見解のもと、厚労省結核感染症課は「日本国内で分かっているデータを分析しても、空気感染したと証明できるに足る証拠は見つかっていない。あわてず、せきエチケットや手洗いなど、これまでも周知してきた飛沫感染、接触感染を防ぐ対策をこれからもお願いしたい」としている。
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コメント31件
Taro
コロナウイルスに関する情報については、発表された感染者数、死亡者数が信頼できるか否かそこからが問題…
死者の大半が病気持ちだったといってもその割合が多いと見るか少ないと見るか人それぞれ意見が分かれるところと思われます。
過去の中国での生活経
験から少なくとも私個人のものの見方は中国の標準とはかけはなれていると感じます。...続きを読む大本営発表については、まず疑うことにしています。
BANDIT
空気感染、飛沫感染、エアロゾル感染と今ここで定義云々を言っても始まらないでしょう。インフルと同じく、出来る対応をするだけです。が、マスク不足、アルコール不足ではその対応も煩雑になります。
発表される数字にしても、現状その数字の精度云々を言っ
ても始まらない。確かに、政治的な恣意性もあるかもしれないが、症状の振れ幅が大きく、大陸的な大雑把な行動特性、人員・施設の不足等で把握が難しいのではと思います。...続きを読む疑心暗鬼にならざるを得ない状況ですから、高齢・既往病者の身内にとっては早く収束することを祈るしかありません。
仲 宏
GHD
「証拠」云々というより、中国の感染の現場における「実感」なのではないでしょうか。
単なる所謂、飛沫感染ならば、その防備をしていた横浜の検疫官も感染することは防げたのではないかという気もしますが。
mino
「エアロゾル」という用語を使うのは適切ではないかもしれませんね。
「飛沫」より微細だが「空気」というにはちょっと影響が大きすぎるし(はしかや結核などに比べて)感染力も弱い…という思いがあるのかもしれませんが…工夫が必要でしょうね。
Rollei40S
無駄飯くい
「空気感染」と「エアロゾル感染」の定義はともかく、ダイヤモンドプリンセス号の各船室に隔離されていたはずの乗客の感染率が、チャーター便での帰国者と比べても尋常じゃないですよね。もう1割に届く勢いでは?
現象を見れば日々配膳されていた食べ物か
、各部屋を繋ぐ通気ダクト経由での感染拡大を疑うのが自然の流れだと思うのですが、そのことに触れる識者の方はあまり居ないような。
...続きを読むコメント機能はリゾーム登録いただいた日経ビジネス電子版会員の方のみお使いいただけます詳細
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