創世記『祝福の子』 第一節 ―サンソアとセレビノと―
遥か昔、古代の民《アンシエリザ》は栄華を極めていました。
しかし進みすぎた技術は、逆に人々を滅ぼしてしまいます。
世界が静まり返った頃、聖女《サンソア》がこの世に降臨されました。
サンソアは文明の滅びを嘆き、世界樹と箱庭とを創り、
そこへ我々新人類を生み出し、祝福の子《セレビノ》と名付けました。
この今の世界はサンソアによって守られ、循環しているのです。
とある王の日誌―禍罪の赤眼 ヴェルメルノ―
彼らはこの世界に蓄積される穢れを背負い、生まれた時からその双眸に罪の証を宿して生きる。
何とも哀れな種族だ。彼の者達の両の目には誰一人違わぬ深い赤が鈍く、うつろに光っている。
《禍罪の民》、またの名を《ヴェルメルノ》、
いつしかこの世に発生して以降多くの人々に忌み嫌われ続ける彼らは日に日に増加の一方を辿り、
まるでパンデミックを思わせるようなその現象にこの世の人々は皆、言いしれぬ不安を抱えていた。
世界樹《シナースケトラリア》を舞台に繰り広げられる壮大な物語
A.L.S.[After Liqueracith Syndrome]8931――本作は創世1万年以後のとある世界を舞台としている。
世界の中心にそびえる大樹の最上層には緑窓の聖女《Vertona=Liv=Sansoa》が住まうとされ、
数千年もの間変わることなく民達の深い信仰を集めている。
相容れぬ二種族 《持つ者と持たざる者》
✿祝福の民《セレビノ》
大樹に住まう聖女より祝福の魔力を授けられた第一種族。
様々な種類の精霊から力を借りて、日常的に魔法を使用しながら生活している。
✿禍罪の民《ヴェルメルノ》
「ペスキュイアの悪夢」と呼ばれる過去に起きた大災厄以後、着々とその数を増やしてきた第二種族。
生まれつき両の瞳が赤く祝福魔法が使えないという共通点から"聖女に見放された者"として忌み嫌われている。
歌と転生、《ディーナ=シナセリエ》の宗教観
8000年以上の歴史を持つ大国《レギンレイヴ王国》を中心として世界中の人々に強く根付いた《ディーナ=シナセリエ》と呼ばれる信仰は
第149代女王アリア=コンプレス=レギンレイヴを開祖としてここまで揺るぐことなく栄えてきた。
経典は「ペスキュイアの悪夢」以後発生するようになった禍罪の民《ヴェルメルノ》の救済を謳っており、
祝福の民《セレビノ》の中でも特に高位の術者である祝花(まいか)の乙女、通称《ニーフィア》の詠唱詩によって
その魂の穢れを祓われることにより穏やかに転生し、次の"生"は聖女の祝福を受けてセレビノに生まれ変わる事ができると言われている。
禍罪の民ら出現以降、大樹シナースケトラリアを支える屍(かばね)の大地は衰退の一途を辿っている。
"世界に充ちる魔力の減少"という原因不明の事象を起こす穢れた存在として
赤眼を持つ者は忌み嫌われているのだが、数百年に一度、そんな彼らの中にも奇跡の神子が生まれてくる。
赤幸(しゃっこう)の斎女、通称《イセミナ》と呼ばれるその大いなる御魂の宿主は必ず美しい少女であり、
齢十二の誕生日にその額に聖女の神託、神の種子《リーリエ》を授かるのが通例とされる。
この世界には奇跡の神子が十七歳になるとレギンレイヴ王国の《追憶の聖域》で大赤葬の儀《ヘリコニア》を行う習わしがあり、
誉れ高きニーフィアの歌声により大樹へと導かれた大いなる赤眼の御魂は、この世に溜まった穢れを浄化し、
衰退し続ける大地に一時の再生をもたらすのだ。
✿STORY✿
「ペスキュイアの悪夢」以降に生まれた数多の研究者達の果て無き努力もむなしく、穏やかに進み続ける世界衰退の脅威は留まる所を知らず。
原因の究明と世界の完全再生を目標に掲げたままに数世紀が経過したA.L.S.8931の世界の人々を描く。
増え続ける禍罪の子ら、原因不明の咎落ち現象…
現状には底知れぬ恐怖と焦燥感を抱いたまま、祝福の子らは大樹の聖女より与えられる魔力を今日も享受し続けている。
レギンレイヴ王国第二王妃ラシャクースが子《クッカ》は生まれついての強力な祝福を授かりし神童としてその人生を謳歌していた。
誉れ高きニーフィアとして、国の姫として、世界の安寧の為休むことなく穢れた民達の哀れな魂を浄化し続ける彼女の歌声に、誰もが《大赤葬の儀》の成功を期待する。
齢十二でイセミナとなり一躍奇跡の神子としてその地位を不動のものとしたヴェルメルノ、第一王妃ティラニーが子《カーラ》は
そのあまりにも悲惨な境遇を呪いながらも、自身に与えられた短き刻を懸命に生きていた。
親友クッカの詩に導かれて旅立つその日は近く、少女は穏やかな転生と来世の祝福を夢見ながら全ての民の望む世界救済の儀式に挑む。
だが、信じた先にイセミナの少女が見たものは、あまりにも残酷な真実と、存在するかどうかわもわからぬ大樹の聖女の記憶の濁流――。
異変を察知し駆けつけたクッカの弟、王位継承者《シャルル》の乱入により失敗に終わった大赤葬の儀が世界に与える影響は大きく、
元々不安定だった屍の大地は、聖樹シナースケトラリアの怒りを受け止めるかのように深刻な崩壊を始めるのであった。
世界滅亡を止めるべく、二人の少女は伝説の聖女に救いを求めて、それぞれの道を歩き出す――!
屍の大地《ドーンヨーアン》
✿シナースケトラリア
世界の中心にそびえる大樹。最上層には聖女が住まうとされている。
✿レギンレイヴ王国
北東に位置するこの世界一の大国。主人公達が暮らしている。
✿ヘルフヨトル共和国
北西に位置する寒国。レギンレイヴ王国とは現在友好関係にあり、第一王妃ティラニーの故郷としても有名。
✿骨董都市 アンティリカ
東方に位置する二種族が混在する不思議な街。資源宝庫テスロ鉱山を有する。
✿中立都市 アーカディア
世界樹の南東に位置する荘厳な学術都市。レギンレイヴ管轄の大図書館を有する。
✿霊泉都市 ウルジスカ
世界樹南方に位置する美しき水の都。ヴェルメルノ特有の医療が発達している。
世界樹へ唯一の直通陸路、虹の橋を有し、ヘイムダルの門によりその護りを固めている。
✿黒き虚無 シュバルツニッヒ
シナースケトラリアの周りを360度囲む大海。