ニュースレター 2019 6月
鬱(うつ)とは、もともと東洋医学の言葉です。意味は…「感情がとどこおって通じない」。ですから、憂鬱で気分が晴れず、波及してさまざまな症状がみられます。もちろん、直接の原因はストレスが関与します。しかし、慢性化して回復しにくくなるのは、他の様々な原因が絡みます。
ここでは、うつの主な症状である「不安感」「体のだるさ」、また「イライラ」「クヨクヨ」に焦点を当てて考えます。また、躁と鬱が混在する双極性障害(躁うつ病)にも切り込んでみましょう。
イライラ→肝臓→イライラ²
東洋医学の肝臓は、端的に言えば条達機能です。条達機能とは、のびのびと若木が真上に伸びるような自由闊達さです。そういう働きが人体にはあります。循環や新陳代謝・精神機能は、この働きによるところが少なくありません。イライラという感情は、この働きを妨げます。肝臓が条達できなくなってしまうと、些細な事でもイライラしやすくなり、ますます条達できなくなるという悪循環になります。
滞りを伸びやかにする治療を行います。
証…肝気鬱結
ツボ…肝兪・百会・行間・後渓など
クヨクヨ→脾臓→クヨクヨ²
東洋医学の脾臓は、消化機能・吸収機能・栄養機能です。これらが一体となって人体の各細胞は栄養を受け、活動が可能になります。口から入った様々な複雑多様な飲食物は、小腸の壁を境に、不用な残滓物と、有用な栄養分に仕分けされます。この「不用と有用を分ける力」は精神面にも影響します。脾臓の強い人は、複雑多様な世事を把握したうえで、有用な本質のみを仕分け、単純明快に割り切って捉えることができます。脾臓の弱い人は、この仕分けができず、クヨクヨと思い悩みます。クヨクヨ思い悩むと、脾臓を弱らせ、ますますクヨクヨしやすくなり、些細な事なのに大きな悩みと感じてしまいます。
脾臓を頑強にし、有用・無用の仕分けを復活させ、心身をさっぱりさせる治療を行います。
証…心脾両虚
ツボ…脾兪・胃兪・外関・中脘・三里など
双極性障害(躁うつ病)
イライラ↔クヨクヨ 肝臓↔脾臓
肝臓と脾臓はシーソー関係にあります。イライラして肝臓の条達が滞り、渋滞が始まる(肝気鬱結)と、その分、脾臓が弱くなります。イライラするかと思えば、急に落ち込む。落ち込みがましになると今度はまたイライラする。
証…肝気鬱結・心脾両虚のどちらが中心かを診断し治療。
ハイテンション↔クヨクヨ
胃腸↔脾臓
イライラすると過食に走る場合があります。食べることでイライラが落ち着くからです。ただし、過食は胃腸(脾臓の一部)に熱を持たせます。つまり、肝臓の熱(イライラ)が肝臓を離れ、胃腸に移ったということです。ここで大便とともに熱が外に排出できると良いのですが、排出できないと熱が胃腸にこもります。熱が胃腸にあると、イライラではなく、ハイテンションで見かけが元気な「躁」の状態が目立ってきます。
胃腸の熱が長期に渡ると、それを支える脾臓が次第に弱ります。すると食欲がなくなり、過食が落ち着くとともに、クヨクヨする状態…「鬱」の状態に移行します。
証…胃腸の熱・心脾両虚のどちらが中心かを診断し治療。
胃腸の熱を取るツボ…上巨虚など。
焦燥感 火→心臓
肝気鬱結で、肝臓が条達できないと、条達を失った肝臓は、気滞を生みます。気滞が長期化してこじれると、邪熱に変化します。肝臓という働きを邪熱が阻害する状態のことを、肝火と言います。肝火もまた、イライラが特徴です。肝火は容易に心臓に飛び火します。その状態を心火と言います。心臓は家、「こころ」は家主に例えることができます。心臓は「家」なわけですから、心火があるということは、家が火事をおこしたようなもの。家主である神は、家にいることができず、焦燥感が生じます。怒りっぽかったり、暴れたり、眠れなかったりします。
熱を取り去る治療を行います。
証…气郁化火証
ツボ…手の十井穴・督脈上の要穴・肝兪・後渓など。
心火・肝火が長期化し、陰(クールダウンし落ち着かせる体力)を消耗すると、火を消し止める水が無くなったようなものなので、焦燥感その他の症状が慢性化します。
陰を補い、結果的に熱を取り去る治療を行います。
証…陰血不足
ツボ…照海・関元・腎兪・心兪・肝兪など
不安感① 血→心臓
肝臓が条達できない状態の長期化や、度重なる食べ過ぎは、脾臓を弱らせます。脾臓が弱れば、体力のストック機能である「血」が弱ってきます。血は栄養分から作られるからです。
心臓という家にとって、血は大切な柱のようなものです。それが弱くなるのですから、家主である「こころ」は、家で落ち着くことができず、不安感が生じます。この不安感はまさに地獄の苦しみで、何よりもつらいものです。不安があると、安眠もかないません。脾臓の弱りは、症状の慢性化につながります。
脾臓を強くして、血を補う治療を行います。同時に精神を落ち着かせ、無駄な血の消耗を防ぐよう治療します。
証…心脾両虚
ツボ…神門・三陰交など。
不安感② 湿痰→心臓
脾臓が弱ると、栄養分をめぐらせる運化機能が弱くなります。栄養分はよどんで、ネバネバ・ドロドロ・モヤモヤとした湿痰を生みます。これが肝臓の気逆と結びつくと、湿痰は上行し、「こころ」の家である心臓を覆います。「こころ」は湿気に覆われて落ち着きをなくし、不安感を生じます。「こころ」は雲に覆われた太陽のように、本来の輝きを失い、表情も考え方も陰湿になります。また、湿痰がノドに至ると、ノドの閉塞感・詰まった感じを生じます。脾臓の弱りがあるため、症状は慢性化します。
脾臓を強くしながら、湿痰を取り去る治療を行います。
梅雨の時期、救急車の出動数が増えるという話を、隊員の方から聞いたことがあります。うつの患者さんが救急車を呼ぶからだそうです。うつの患者さんの多くは脾臓の弱りによる湿痰を持っています。この湿痰が梅雨の湿気に助長されて増加します。また増加した湿痰は脾臓をますます弱らせ、血を生み出す力が低下し、うつ独特の耐えようのない不安感を生じます。深刻なうつは必ず脾臓の弱りと湿痰があります。これを治療で上手にとってやると、その場で気持ちが晴れ晴れしてくる…これは、決して珍しいことではありません。
証…痰気郁结
ツボ…脾兪・胃兪・膈兪・内関・公孫・豊隆など
体のだるさ
脾臓の弱りが強くなると、活動力の元である「気」が弱ってきます。これから弱くなると体がだるくて動けなくなります。「深い穴に落ち込んだように動けない」状態です。食欲もなくなります。食欲がないので動けず、動かないので食欲が出ない。こういう要素が不安感を余計に増大します。特に、食事がおいしく感じられなくなることは重大なことで、幸福感が得られなくなってしまいます。
少しましになって食欲が出だすと湿痰を生じ、その湿痰がまた脾臓の弱らせる…という悪循環となります。
脾臓を補い、元気を増強させる治療を行います。
証…心脾両虚
ツボ…神厥・中脘・下脘・足三里・太白・脾兪など
まとめ
いわゆる不安感には、不安感(クヨクヨ)と焦燥感(イライラ)が混在しています。上に述べた肝火・心火・脾虚・湿痰・胃腸の熱・血虚・陰虚が複雑に絡み合い、独特の心理状態をもたらします。それは経験した人でないと分かりづらい苦しさ。でも、一つ一つの原因を噛分け、それをキチッと片づけていけば、必ず心に光が差し込むはずです。
院 長