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【教育ニュース】

中学校 教科書検定 プログラミング拡充 現場手探り

プログラミングの基本処理について説明する東京都渋谷区立代々木中の村上慶彦教諭=渋谷区で

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 来春から採用される中学校教科書の検定結果が24日、公表された。プログラミング教育の拡大への対応や、ほぼ全ての教科書に映像や音声データにつながるQRコード、URLが掲載されるなど、新しい時代の学びを意識したつくりが目立つ。

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【技 術】 

 二〇二一年度から中学校で「プログラミング教育」が拡充される。新しい技術の教科書では、教育現場の助けになるよう、生活や社会の課題をプログラムによって解決するための手順などを、これまでより手厚く掲載。教員は新たな授業のあり方を模索するが、技術の授業時数は少なく、専門の教員の不足など課題も多い。

 「身近な題材に結び付けて考えることが大事です」

 東京都渋谷区立代々木中の村上慶彦教諭(39)の授業では、ロボット掃除機や車の自動ブレーキ機能などを例示しながらプログラムの役割を説明し、生徒に基本的な処理(順次、分岐、反復)の流れを理解させる。その上で、生徒は教材でプログラミングに挑戦。パソコンやタブレットに入力し、「オーロラクロック」という時計型の教材が赤、青、緑など自分の指示通りに点灯するのを体験する。

 毎回、生徒の反応は上々。ただ、技術の授業は中一と中二で週一回、中三で二週に一回しかない。ほかにも情報セキュリティー、木工作品制作、植物・水産生物の生産技術など、教えなければいけないことはたくさんある。手いっぱいな中で、二一年度からは新学習指導要領が全面実施となり、複数のコンピューター間でやりとりする双方向性のあるコンテンツを作るプログラミングも加わる。村上教諭は「授業時間も増えればいいのだが…」。

 地方では、教員不足も深刻な悩みだ。北海道の公立中の四十代男性教諭は「レゴマインドストーム」という教材を使い、車型のロボットを動かす授業に取り組んでいる。自動運転バスの実証実験をヒントに、地域の課題解決策を考えてもらおうと取り入れた。

 しかし「双方向性」まで教える体制が取れるのか。「イメージをつかみづらい」と打ち明ける。この教諭が勤務する地域では、十五年以上前から若い技術科教員が配属されていない。道内の別の地域では、一人が三校で授業を掛け持っている。「免許外教科担任」として美術や体育などの教員が受け持つケースも多い。教諭は「技術は大切な教科。魅力ある授業を若い教員に伝承していかなければいけないのに」と訴える。

 学校の情報通信技術(ICT)環境も不十分で、無線でインターネットとつながるWi-Fiやタブレット端末はなく、コンピューター室の隙間でロボットを走らせるのが現状だ。予算も少なく、新しい教材に費用はかけられないという。

 文科省情報教育・外国語教育課の担当者は「(生徒一人に端末一台を行き渡らせる)GIGAスクール事業を進める」と説明。「プログラミングの事例集を作成中なので、活用してもらい、全国の先生に指導力を高めてほしい」としている。 (土門哲雄)

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◆ページ25%増、教育環境の格差に懸念

技術の教科書に記載されたプログラミングのページ

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 中学の技術の教科書は、前回検定と同じ三社が合格した。平均ページ数は25・6%増え、全教科の中で増加率が最も高かった。

 「教育図書」の教科書では、児童生徒が扱いやすいプログラミング言語「スクラッチ」「なでしこ」などを紹介。双方向性のあるコンテンツの制作として「PTAバザーの案内マップ」「簡単チャット」を題材に取り上げた。別冊でハンドブックも作成。プログラムの画面や使い方などを詳しく載せた。担当者は「実際に生徒が見ながら作れるよう工夫した」という。

 プログラミング教育の重要性が高まる中で、東京都渋谷区は昨年六月、区内のIT企業サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー(DeNA)、ミクシィなどと協定を締結した。カリキュラム開発、講師派遣、教員研修で協力を得る。IT企業が集まっている立地の利点を生かした。

 ただ、こうした恵まれた環境は一部に限られる。学習支援システムに詳しい中央大国際情報学部の岡嶋裕史(おかじまゆうし)教授は「中学生向けの学習ツールはまだまだ手薄で、先生の負担も大きい。地域や経済力によって教育環境に格差が生じる恐れがある」と懸念する。「実際にプログラムを組む技術自体は全ての人に必要なわけではないが、論理的な思考力などを養うことは大事。技術など情報系の教員不足を解消する必要がある」と指摘している。

【QRコード・URL】 

 今回検定に合格したほぼ全ての教科書に、授業や家庭学習で役立ててもらう映像や音声データにつながるQRコードやURLが掲載された。子どもの理解を深めるため、紙上だけでは限界のあった内容が多く取り入れられている。

 理科のある教科書では、津波発生の仕組みを解説する動画など、QRコードからつながるコンテンツを三学年で三百以上用意。片腕のピアニストについて扱ったページで、演奏動画などを見られるようにしている道徳の教科書もあった。

 美術では、QRコードで見ることができるホームページに、見本となる立体作品を回転させながら撮影した動画を掲載。編集担当者は「いろんな角度から見られるよう工夫した」と話した。

<プログラミング教育> コンピューターに仕事を指示するプログラムを組むことで論理的な思考力を身に付けるもので、小学校で2020年度から必修化され、正多角形について学ぶ算数や理科などで取り入れられる。中学校ではこれまでも技術の授業で扱われ、プログラムによる計測、制御などに加え、21年度から新学習指導要領で「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」が盛り込まれ、拡充される。高校では情報の授業で扱われている。

【英 語】小学校教科化受け 会話重視

 来春から使用する中学校英語の教科書は、お互いの考えや気持ちなどを伝え合う会話をするといった活動を通じ「読む・聞く・書く・話す」という4技能について、より実践的な力を身につけられるようにすることを重視している。生徒同士が実際に言葉を交わしたり、意思を示したりする場面の設定など、従来よりも授業で英語を使う機会を増やす工夫を凝らしている。

 「What sport do you want to try?」。ある教科書は全ての学年で、挑戦してみたいことや住んでみたい都市などを相手に尋ねる文と、回答するのに役立つ言い方を掲載した。編集者は「授業の最初の5分で使ってもらうことを想定した。3年間で、即興でやりとりする力を伸ばしたい」と狙いを語る。

 「聞く」の学習では、美術館の音声ガイドを扱った教科書もある。

 こうした工夫の背景には、今春から小学校高学年で英語が教科化されることへの対応がある。小学校で主に音声で単語や表現に慣れ、それを基礎に中学校では文法なども含めて学習を深めるという流れの中で、編集者は「小学校で学んだことを、中学校でつまずかずに定着させることに気を配った」と説明する。

 この教科書会社では、新指導要領の内容を見た際に「今と同じような教科書では合格しない」という意見が多く上がった。編集者は「3年間学んだ時に、気付いたら英語を『使う』ことができるようになっているはず」と語った。

【原発事故】福島第一巡る記述減る

 今回検定に合格した教科書では、2011年の東京電力福島第一原発事故を巡る記述が現行教科書より減った。原発事故を取り上げながら、福島の事故の詳細に踏み込まないものもあった。

 福島の原発事故に触れた教科書は、合格した106点のうち29点。前回検定時は34点だった。ある公民の教科書は、帰還困難とされる地域の出入り口の写真を掲載。現在も多くの人が避難生活を送ると紹介した。

 「原子力発電所の事故」と題したコラムに、チェルノブイリ原発事故の写真を添えたのは理科のある教科書。ただ、福島第一原発については「原子炉を破損する事故が起こった」との短い言及にとどめた。教科書会社は「被災をした生徒がいる可能性も考慮した」と説明した。

【政権評価】「民主迷走」「自民安定」も

 「民主党政権は沖縄の米軍基地移設問題や東日本大震災への対応などで迷走」。歴史の教科書にこんな表現があった。

 「21世紀の日本」のテーマで、2009年の民主党政権誕生と12年の安倍晋三政権成立を説明する内容だった。

 検定意見は付かずに原文のまま合格。文部科学省の担当者は「教科書検定審議会でも指摘はなく、欠陥ではない」としているが、確立した歴史的評価とは言えないとの指摘も受けそうだ。

 別の公民の教科書では二大政党制を巡り、当初「自由民主党以外に政権を担える政党が形成されなかった」と記したが、自民党以外の政権が存在しなかったと誤解させる恐れがあると検定意見が付き「自由民主党以外に安定的に政権を担うことができる政党が形成されなかった」と修正した。

【藤井七段・大坂選手】 

 新たな教科書には、将棋の高校生プロ藤井聡太七段や2019年に女子テニス全豪オープン優勝の大坂なおみ選手ら、中学生の目標となる話題の人物も多く登場した。

 3年生の道徳では「日本の伝統文化 将棋」と題した文章を掲載。史上最年少プロとしてデビューした藤井さんと、トップ棋士として長く活躍し、「ひふみん」の愛称で親しまれている加藤一二三(ひふみ)さんとの交流などを紹介した。

 英語は、お気に入りの人物を伝える表現を学ぶページで、女子テニスの大坂さんを写真と共に例示。生年月日や出身地、英語と日本語を話すことができるといったプロフィルを載せた。

【タピオカ・厚底シューズ】 

 教科書も「タピる」時代に-。今回検定に合格した教科書には、若い世代を中心に一大ブームを巻き起こしたタピオカやマラソンの厚底シューズ、新元号の令和など、最近話題の流行や時事が題材として扱われた。

 「タピオカ飲料が、今再び注目されています」。地理では、世界を知る身近な例として、原料のキャッサバからタピオカミルクティーができるまでを写真付きで掲載した。

 保健体育では、スポーツの道具の進化を取り上げた中で、陸上界を席巻する「厚底シューズ」が登場。令和については、菅義偉(よしひで)官房長官が昨年4月に額を掲げて新元号を発表した際の写真が歴史や書写に掲載された。

◆全国7会場で資料を公開へ

 文部科学省は教科書検定での記述の修正過程が分かるよう、5月下旬から全国7会場で、申請段階の教科書と検定に合格した教科書、教科書検定審議会における検定意見書や議事要旨、修正前後の記述を対照した修正表などの関係資料を公開する。

 会場と公開期間は次の通り。開場時間や休館日は各会場で異なる。

 教科書研究センター(東京都江東区)5月26日~6月18日▽北海道庁別館(札幌市)6月16~26日▽茨城県総合福祉会館(水戸市)7月22~31日▽岐阜県図書館(岐阜市)6月5~16日▽和歌山県立図書館(和歌山市)7月8~19日▽オーテピア高知図書館(高知市)6月2~12日▽宮崎県立図書館(宮崎市)6月30日~7月10日

 

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