失踪した中国人研究者の「消されたコロナ論文」衝撃の全訳を公開する

中国政府は完全否定しているが…
時任 兼作 プロフィール

「血が皮膚についた」

WHCDCは研究の目的で所内に数々の動物を飼育していたが、そのうちの1つは病原体の収集と識別に特化したものであった。ある研究では、湖北省で中型コウモリを含む155匹のコウモリが捕獲され、また他の450匹のコウモリは浙江省で捕獲されていたこともわかった。ある収集の専門家が、論文の貢献度表記の中でそう記している。

さらにこの専門家が収集していたのがウイルスであったことが、2017年と2019年に全国的な新聞やウェブサイトで報じられている。そのなかでこの専門家は、かつてコウモリに襲われ、コウモリの血が皮膚についたと述べていた。感染の危険性が著しく高いことを知っていた専門家は、自ら14日間の隔離措置を取った。コウモリの尿を被った別の事故の際にも同じように隔離措置を講じたという。ダニが寄生しているコウモリの捕獲で脅威にさらされたことがかつてあった、とも述べていた。

(こうして)捕獲された動物には手術が施され、組織サンプルがDNAおよびRNAの抽出とシーケンシング(塩基配列の解明)のために採取されたという。組織サンプルと汚染された廃棄物が病原体の供給源だった。これらは、海鮮市場からわずか280メートルほどのところに存在したのである。

またWHCDCは、今回の伝染病流行の期間中、最初に感染した医者グループが勤務するユニオン病院に隣接してもいた。確かなことは今後の研究を待つ必要があるが、ウイルスが研究所の周辺に漏れ、初期の患者を汚染したとしてもおかしくない。

 

もうひとつの研究所は、海鮮市場から約12km離れたところにある中国科学院・武漢ウイルス研究所だ。この研究所は、中国のキクガシラコウモリが2002年から2003年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARSコロナウイルス)の発生源であるとの報告を行っている。