百拾.スーパーエリート
閣下(ん?)
俺(え?)
俺が無遠慮な視線で閣下と呼ばれる神さまを観察していたら、閣下の方もこちらに気付いたらしく目があってしまった。やばい、気まずい。
閣下(お前は?)
俺(あ、あの、かぐや姫と申します)
閣下(ああ、天照さまがご執心という話の。どうしてそんなものがここに来ている?)
俺(天児屋さんに入れて頂きました)
閣下(……、なるほど、あいつが気に入りそうだ。しかし、この辺りは客人の来るところではないぞ。早く戻るがいい)
閣下は俺の全身にちらっと視線をやってそう言った。どうやら天児屋の巨乳好きは今に始まったことではないらしい。っと、それよりも大事なことを聞かないと。
俺(あの、お手洗いを探しているのですが)
閣下(お手洗い? なるほど。案内してやれ)
閣下がおつきの人の1人に言うと、その人は閣下に会釈して俺の方へと歩いてきた。
付き人(ご案内いたします)
俺(はい。……、あ、ちょっと)
閣下(ん? まだ何か?)
俺(あなたは、もしかして
閣下(いかにも、私がそうだが)
俺(後でお時間を頂けませんか?)
武甕槌(ふむ。今日は予定が詰まっているが、明日なら昼前に少しだけ時間がある。それでいいかな?)
俺(はい。ありがとうございます)
目の前の神さまが武甕槌かもしれないというのは完全に勘だったが正解だったようだ。武甕槌は天児屋とは違ってすごく仕事ができそうなオーラな上にウルトラスーパー忙しそうな雰囲気を醸し出しているので、俺の個人的な話に時間を割いてもらうことにちょっと気が引ける。
その後、武甕槌のおつきの人にお手洗いに案内してもらい、墨に用を足させて元の部屋へと戻ると、天児屋がぷりぷりと怒って待っていた。
天児屋(ちょっと、どこ行ってたのさっ。せっかくお茶を飲ませてやろうと思ったのに)
俺(ごめんごめん。墨がおしっこしたいって言うもんだから)
墨「かっ、かぐや姫さまっ」
俺がおしっこの話をすると、なぜか墨が恥ずかしそうにアセアセとしている。昔は庭に穴を掘っておしっこをしていたくせに何を恥ずかしがってるんだか。あ、でも、昔からおしっこの時は神経質にあちこちきょろきょろしてたような気もするな。難しいやつだ。
対する天児屋の方は墨には全く興味がないようだ。まあ、こいつは巨乳以外のことはどうでもいいと思っているんだろう。
天児屋(まあいい。ちょっとこれから茶を点てるからそこに座って待ってろ)
そういうと、天児屋は用意した火鉢にやかんをかけてぐらぐらと煮立たせると、そこにお茶の葉をどばどばと放り込み始めた。
俺(ちょっ)
天児屋(何だ?)
俺(お茶の葉を直接煮るのかよ)
天児屋(何言ってるんだ? 煎茶といえばこういうもんだろう)
俺(急須はどうした、急須はっ!)
天児屋(はぁ。下等な人間の言うことはよくわからん)
俺(いや、わかれよ)
俺が横で騒いでいるのをあっさり無視して天児屋は淡々とお茶を煮出し、湯のみにお茶を注いだ。
天児屋(さあ、飲め)
猫って用を足しているところを見られるとなぜか恥ずかしそうにしますよね。可愛いからと近づいていって邪魔をすると嫌がられますが。
煎茶が今のように急須で淹れる形態になったのはかなり後になってからのことのようで、それ以前は煮出していたようです。だから、天児屋のやり方は間違っているわけではないのです。