3月13日、台北の小学校では、新型コロナ対策として児童それぞれの机についたてを設置して授業を行っていた(写真:ロイター/アフロ)


(ジャーナリスト:吉村剛史)

 中国湖北省武漢市発の新型コロナウイルス感染症が全世界を揺るがす中、入境制限が強化されている台湾にタイから駆け込み入境した朝日新聞アジア総局(バンコク)駐在の女性編集委員。検疫のための14日間の隔離生活日記をSNS上で発信したところ、台湾在留邦人らから「レジャー感覚の体験談は不謹慎」と猛反発を受けた。

 朝日新聞社広報部は、筆者がJBpressにてこの問題を報じた23日、同じSNS上で「配慮に欠けた表現がありました。不快な思いをされたみなさまにご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます」と謝罪した。日記は在留邦人らの苦情殺到を受けて発信を停止しており、同社広報では「このまま打ち切る」と説明したが、編集員が入境目的としていた台湾での「4月の取材」については、「先方との約束もあり、現時点では予定通り行う方針」という。

(参考記事)台湾駆け込み朝日編集委員の「隔離日記」が大炎上
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59835

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新聞社・執筆者とも謝罪も、なお批判殺到

 この「隔離日記」はフェイスブック上の「The Asahi Shimbun Asia & Pacific 朝日新聞アジア太平洋」で3月19日、20日に公開。これについて朝日新聞広報は23日、同アカウントで次のように謝罪のコメントを発表した。

「朝日新聞社の吉岡桂子編集委員が19日、20日にフェイスブック上に、『台湾「隔離」日記』を投稿しました。4月に予定していた取材のために18日に台湾に入りましたが、新型コロナウイルスの防疫対策に当局が懸命に取り組んでいるなか、不自由な生活を強いられている台湾の方々や在留邦人の方々への配慮に欠けた表現がありました。不快な思いをされたみなさまにご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます。吉岡編集委員による『日記』の投稿は20日のものをもって終了します。なお、台湾入りについては台湾の正式な手続きを順守して入っています。取材相手との接触はございません。」

 また執筆した吉岡桂子編集委員も23日、自身のツイッターで「(略)『台湾「隔離」日記』を2回投稿しました。4月に予定していた取材のために台湾に入りましたが、新型コロナウイルスの防疫対策に当局が懸命に取り組んでいるなか、不自由な生活を強いられている台湾の方々や在留邦人の方々への配慮に欠けた表現がありました。不快な思いをされたみなさまにご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます」とほぼ同じ文面で謝罪。

 これに対し、「(新型ウイルスを)『ある意味で痛快』(とした朝日新聞の小滝ちひろ編集委員)とおんなじですね」「本人にも、出張命令者にも処分はないのですか?」と新たに批判が殺到。

「そのまま中国に渡って『武漢隔離日記』を始めてください。期待しています」「小滝ちひろ(編集委員)よりはましですね。謝れるなんて」などと、炎上は続いた。

記者としての能力を高く評価する声もあるが・・・

 今回、在台邦人らから非難の的となった吉岡編集委員とはいったいどんな人物なのか。面識のある各新聞社の記者らによると、1964年、岡山県出身。岡山大学法学部を卒後、地元の山陽放送を経て1989(平成元)年に朝日新聞社に入社、上海、北京特派員などを歴任。2017年からタイ・バンコクに駐在しているというベテランだ。

 著書『人民元の興亡』は人民元と中国の金融政策を独自の取材と視点で掘り下げたとして評価も高く、また2019年に北海道大学の教授が中国で拘束され、その後に解放されるまでは、「仲間を心配する中国研究者らの力になった」とも。

 その一方で、「キャリア官僚や企業トップ、有名人などには媚びるが、同僚の記者らへの態度は手のひらを返したように高飛車」「勘違いした特権意識がイタい典型的な朝日女性記者」とする声もある。

 2019年8月の自身のツイッターでは日本による米国産トウモロコシの大量輸入を喜んだ米大統領の発言を報じる朝日新聞のネット記事「トランプ氏『日本の民間、政府の言うことよくきく』」に対し、「言うこときいて、トウモロコシ食べたくない。食べたいときに食べる」などとつぶやいたため、「輸入するデントコーンが牛の飼料用であることを知らないのか」「朝日新聞社では牛が記者をしている」などと炎上した「前科」がある。有能だが権力者以外への配慮に薄く、SNS上での不用意な発言が目立つ人物のようだ。

台北支局があるのにタイから駆け込み入境する意味はどこに

 事実、2回にわたった「隔離日記」では、バンコクから出発した往路の機内で「大好きなシャーリーズ・セロンが出演する米国映画『スキャンダル(Bombshell)」』を観たことをはじめ、「1日目の朝はタピオカの入ってないミルクティーで始まりました」という危機感のない個人的エピソードを羅列。

 入境後の台湾では要隔離者への地元自治体からの支援物資を「プレゼント」と表現し、台湾の市民らのマスク購入が実名制で一人あたり週3~5枚に制限されているなか、支援物資のマスク14枚や、栄養食品など一式の写真をアップ。

 さらに隔離先ホテル選びでも「懐かしい台湾映画『非情城市』(*ママ=正しくは『悲情城市』)の舞台にもなった基隆の再訪も考えました」「せっかくなので台湾海峡の金門島は?」などとレジャー気分あふれる表現が、「防疫に必死の台湾に対し、税金負担だけでなく、人的面でも多大な迷惑をかけていることを自覚していない」「おなじ日本人として恥ずかしい」と槍玉にあげられていた。

 元来親日感情の強い台湾社会だが、今回の新型ウイルスに対する台湾の厳しい防疫姿勢と、初動で出遅れた日本の危機感の薄さが対比され、「憧れ」の日本社会に対する信頼感が大きく揺らぎ始めている。

 そんな中、台湾の防疫強化に足並みをそろえようとしている在台邦人らにとって、吉岡編集部員の「隔離日記」は「空気が読めていない」「台北には自社の支局長がいるのに、駆け込み入境までして書く意味のある情報なのか」と反感をもって受け止められた。それが炎上の原因になった。

 台湾で長く暮らす50代の邦人男性らは「この編集委員がいう『4月の取材予定』がどれほど大事なのかわからないが、台湾社会の空気も読めない状態で駆け込み入境して、どんな取材ができるのか疑問」と一蹴。「例えば蔡英文総統に今回の台湾の防疫姿勢について単独インタビューをするのだとしても、この編集委員が聞き手になったような記事に対し、少なくとも在台邦人社会は読む気もしないという人が大方だと思う」と切り捨てている。

筆者:吉村 剛史