国際オリンピック委員会(IOC)が東京五輪の延期を選択肢として検討する方針を表明し、安倍晋三首相も延期容認の考えを示した。選手の立場などからも、一刻も早い決定を願いたい。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けてIOCが東京五輪の延期を検討課題に挙げたのは、歴史的な方針転換といっていい。
過去の近代五輪に中止はあっても延期はなかった。オリンピック憲章には「オリンピアード競技大会はオリンピアードの最初の年に開催され、オリンピック冬季競技大会はその三年目に開催される」と、あるからだ。
「オリンピアード」とは四年間を区切りとする古代ギリシャの暦を指す。古代オリンピックは紀元前九世紀ごろ、ギリシャの神々をスポーツや芸術でたたえて平和を願う宗教行事として始まり、そこからの四年間をオリンピアードとしたとされる。一八九六年からの近代五輪はその理念を受け継いでいるため夏季大会は「オリンピアード競技大会」が正式名称であり、四年ごとの開催を崩さず続けてきた。
一方で一九二四年に始まった冬季大会は、正式名称も「オリンピック」。直訳では「オリンピア的な」を意味する。そのためか中止となった四〇、四四年は大会数としてカウントされず、開催年の周期も変遷した。同じく戦争で中止となった一六、四〇、四四年の夏季大会が、いずれも大会数にカウントされているのとは対照的だ。
ただ、現在はスポーツが巨大産業化し、五輪も例外ではない。中止なら日本を筆頭に経済が大打撃を受ける。
そのためIOCは中止を選択肢から外し、総会で三分の二の賛成が必要となる五輪憲章の改正も視野に入れて、これまで禁断としてきた「延期」を俎上(そじょう)に載せざるを得なかったのだろう。
しかし、延期へのハードルも高い。何より、世界のウイルス感染拡大状況を見計らい、今夏に照準を合わせてきた選手たちの気持ちもくみながら、開催の時期を見極めなければならない。
また、開催時期を見定めたとしても、既にイベントなどの予約で埋まっている会場の確保、放映契約を結ぶ世界各国のテレビ局やスポンサーとの契約見直しなど、気が遠くなるほど多くの調整が短期間で必要とされる。
今はそれらの作業を早急に進め、可能な限り早く正式決定を下すことが求められている。
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