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【今は昔】転生!かぐや姫【竹取の翁ありけり】 作者:七師

閑話

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百伍.宴の後

 (眠れない……)


 かぐや姫の裳着の祝宴の最終日の夜、主人と別れた後、雪は自分の部屋へと戻って寝苦しい夜を過ごしていた。


 「雪。ごめん、独りにしておいて」


 別れ際、かぐや姫に言われた言葉が頭の中でリフレインする。


 (私はかぐや姫さまのお役に立てているのだろうか)


 眠ることを半ば諦めた雪は身体を起こして庭のほうを見やった。十七夜の月はすでに空にあって庭を鈍く照らし出していた。


 雪は寝苦しさに寝返りを打って乱れていた小袖の裾を整えると、月明かりに誘われるように縁側へと歩き出した。


 (暑……)


 部屋の中は居住結界によって真夏の炎天下の下でも汗1つかかない温度が保たれているが、一歩外に出ると夏の熱気が襲い掛かる。ついこの間まで当たり前だった熱気にいつの間にか不快感を感じている自分に気づいて、雪は改めてかぐや姫の存在に依存している自分が恥ずかしくなった。


 そのまま足音を立てないように外廊下を歩いて屋敷の角まで歩いて腰を下ろした。雪の部屋とかぐや姫の部屋は屋敷の違う辺に面していて、ちょうどその角は雪の部屋もかぐや姫の部屋も見渡せる位置にあった。雪はそこでかぐや姫が見るのと同じ庭の方を向いた。


 (私は、かぐや姫さまのことを誰よりも分かっていたつもりだったけど、実は全然わかってなかったんだ)


 かぐや姫の女房になり、心に触れ、秘密を共有し、一つ屋根の下で寝起きするようになり、一歩ずつ距離を縮めてきたと思っていたけれど、それも今日の歌会の事件ですべて幻想だったと思い知らされてしまった。初めて心から楽しそうなかぐや姫を見た雪は、その魅力に耐え切れずにそのまま失神してしまったのだ。


 考えてみれば、雪と会話をしているときのかぐや姫はいつもどこか雪に遠慮していた。もちろん、そんなことはずっと前から気づいていたことだったのだけど、そうであって欲しくない、自分が一番近い存在に違いないという想いが、そうでないと思い込ませていたのだと今にして思えば分かる。


 そばにいると思っていたかぐや姫が、実は手の届かないほど遠くにいたという事実は、雪の心をきりきりと締め付けていた。


 (こんなところで泣いたらかぐや姫さまに申し訳ない)


 雪は零れそうな涙を堪えるため目を大きく見開いて空を見上げた。生暖かい夜風が潤んだ瞳から水分を少しずつ奪っていく。


 かぐや姫は雪とは違いたった1人で孤独に耐えているのだ。かぐや姫との距離を感じて自尊心を傷つけられただけの雪が涙を流すなんて自分勝手過ぎる。


 涙をこらえて空を見上げていた雪は、空に光る何かを見つけた。


 最初は弱い光だったが、徐々に光が強くなって少しずつ雪の方へと近づいてきた。


 (天照大御神さま!?)


 庭へと降り立った光の正体は天照だった。天照は雪のことには気づいていない様子でかぐや姫の部屋の方へと歩き始めた。


 雪は反射的に立ち上がって天照を止めようと思ったが、実際には逆に柱の影へと身を寄せて天照から姿を隠した。今の自分が天照に何を言えるのか。数日前に天照に啖呵を切ったのと同じ人物とは思えないほど、雪は自信を失っていたのだ。


 あの時のかぐや姫の表情を思い出してみると、雪と天照のどちらに心を許しているのか、雪には一目瞭然のように思われた。天照の相手をしている時のかぐや姫の表情は本当に豊かで喜怒哀楽がはっきりしていて、それに対して雪に対して見せる表情はいつも変わらない。それは雪に対する心の距離を表しているのじゃないのだろうか。


 (なんで、私はこんなに胸が苦しいんだろう)


 大切なかぐや姫を傷つけた天照よりも心を許されていない自分。伸ばしても伸ばしても届かない手の先にいるかぐや姫に、私は一体何をしてあげられるのだろう。


 !!!!!!!


 「かっ、かぐや姫さまっ!?」


 突然、かぐや姫の部屋に大きな雷が落ちた。


 それまで思い悩んでいたことなんてすべて忘れて、ただかぐや姫の安全だけで頭が占められた雪は、落雷の危険も天照との軋轢もかぐや姫との距離感も顧みず、落雷のあった部屋に向かって駆け出していた。


 『ひぃっ。いっ、いやーーーー』


 と、その直後、かぐや姫の部屋から叫び声を上げてかぐや姫が飛び出して、背中に黒くて大きな羽根を生やし空へと飛び立っていった。そして、それを追いかけるように天照も部屋から飛び出して空へと舞い上がった。


 「なっ……」


 雪はかぐや姫が空を飛べることをこの時まで知らなかった。夜空を発光しながら飛び回るかぐや姫と天照の姿はとても幻想的で、まるで昔話に聞く天女の舞のようで、雪はただ心を奪われて空を見上げるだけだった。


 (私は、何を悩んでいたんだろう)


 自分が一瞬でもかぐや姫の隣に立っていると考えていたことが信じられない。初めからかぐや姫は自分の手の届く所になんていなかったはずなのに。役に立てているかなんて、なんてバカバカしくておこがましい疑問なんだろう。どうせ自分にはできることしかできないのだ。できることに全力で取り組むこと、それ以外に何をすることがあるというのか。


 しばらく夜空を見上げていた雪は、今度はしっかりした足取りで主のいなくなったかぐや姫の部屋へと歩き出した。どうせあの調子なら部屋の中はめちゃくちゃに散らかっているに違いない。あと、ついでに墨の様子も見ておいたほうがいいかもしれない。きっと安眠を妨げられて部屋の隅に隠れているに違いないから。

お休みの間に評価点をたくさん入れていただいたお陰で、総合評価1000ポイントをあっさり突破して1100ポイントを超えてしまいました。お陰で総合順位2000位リスト(http://naroudata2.appspot.com/)にランクインしたようです。ありがとうございました。これからも頑張りますので、よろしくお願いします。


雪視点の話は一度書いてみたくてずっと機会をうかがってました。サイドストーリーの短篇集として別の小説にしようかとも考えていたのですが、結局、閑話という形で挟むことになりました。


第3章はその構成上、雪視点の話が時々混ざる予定になっています。隠れ雪ファンの皆様、楽しみにしていてください。


連絡です。活動報告にも書きましたが、7月28日~8月1日の間は更新が止まります。申し訳ありませんが第3章の開始は後1週間お待ちください。よろしくお願いします。

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