百壱.お前はもう死んでいるかもしれない
……、どうやら俺はあのまま寝てしまっていたらしい。ふと気付いた時には目の前が真っ暗になっていた。もう夜だ。
(なんか、腰のあたりを誰かに触られているような……?)
意識が徐々に覚醒して身体の感覚が戻ってくると、腰の周りに普段は感じることがない感覚があることに気付いた。
(ち、痴漢!?)
と思ったのもつかの間、次の瞬間には胴回りをがっちりとホールドされたと思うとそのまま垂直に畳から引き剥がされ、空中で仰向けにされたと思うと頭から後方へたたきつけられた。
俺「ぐへっ」
天照『必殺、AM∀TERASU式バックドロップ』
俺『殺す気かっ!』
天照『必殺とは必ず殺すという意味だっ!! だから、お前はもう死んでいる』
俺『死んでねーっ』
天照『ならばもう一度秘孔を突くまで』
俺『バックドロップじゃなかったのかよっ!』
天照が何か世紀末をイメージさせる構えを見せてにじり寄ってくるのを見て、俺はいつも手元に忍ばせている衛府の太刀を素早く戻してさやに入れたまま天照のみぞおちに突き立てた。
天照『げはっ』
およそ女の子らしくない声を出して天照は背中から仰向けに倒れてしまった。
天照『げほげほ。ゆ、油断した』
俺『お前、本当に最高神なんだよな?』
天照『そっ、そうだけど? うっ、疑ってんの?』
俺『そのいかにも疑ってくださいっていうどもり方は何それ? 何企んでんの?』
天照は白々しく横を向いて吹けない口笛をひゅーひゅーと吹き始めた。
OK。これは別に天照が何か隠し事をしているというわけじゃない。隠し事をしている真似をして遊んでいるだけだ。何が楽しいのかは分からないが、本気で何かを考えている時の天照はもっと鋭い顔つきをしている。
俺『まあ、いいや。で、何の用? 俺を現代に帰してくれる気になった?』
天照『この間のこと、謝ろうと思って』
俺『この間? あ、雪と喧嘩したやつ』
天照『あの後、月☆読に叱られて。人間相手に何を熱くなってるんだって』
(人間相手ね……)
天照『まぁ、月☆読が言ってること自体はどうでもいいんだけど、それでちょっと冷静になって反省したっていうか。あたしが勝手に姫ちゃんを連れてきたのは本当だし』
俺『もしかして、帰してくれる気になったのか?』
天照『それはない。あたしはまだ満足してないから』
俺『な……』
(それで反省したって言えるのか?)
天照『でも、雪ちゃんには謝っておこうかなって』
俺『雪に?』
天照『うん。雪ちゃん、今、どこにいる?』
昨日は七夕でしたが、織姫、彦星は天照と知り合いなんですかね?