69、王配としての断罪
バタバタと動き出した兵士たちを横目で見ながら、千早はラッセルハウザーにエスコートされるままに砦の一室に入った。
汚れた犬たちを洗う準備をしているから、少し待って欲しいと頼まれて頷く。
「ティハヤ様はあの娘たちの処分に何か希望があるかい?」
「処分?」
「あの娘たちは落ち人であるティハヤ様と、王族となった私を襲った。処罰は必要なんだ」
「別になにも。私は守ってもらったから、怪我もないし。ただ……」
「ただ?」
言い淀んだ千早に先を促したラッセルハウザーが、何でも言ってと続ける。
「私の犬たちを殴ろうとしたのは許せない。それとお世話になってるゴンザレスさんに怪我させたのも。あの、ゴンザレスさんは大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。今、私の部下が怪我の具合を見ているし、念のためエリックが来たらもう一度手当てさせる」
安心してと続けたラッセルハウザーは、もう一度千早に問いかけた。
「本当にティハヤ様の希望はないんだね?」
「はい……この国の法律で裁いてもらえれば十分です」
「分かったよ。では私はイスファンと打ち合わせをしてくるから、少し待っていてくれるかな? ……ああ、ちょうどいいタイミングだ」
千早たちの部屋をノックし、入室を許すと数人の兵士たちがいた。
「あ、お久しぶりです」
その顔を見た千早が、微笑みながら頭を下げる。
「ご無沙汰しています。お変わりはありませんか?」
ローテーションで手伝いに来てくれていた兵士たちの中で猫好きだったグループだ。農作業の途中、背中に乗って寛ぎ始めたギンを起こさないように、そのまま耐えていた姿を見て驚いたものだ。
「……ティハヤ様のお相手を頼むぞ」
「ハッ!!」
兵士たちに千早の護衛を命令すると、ラッセルハウザーは千早に挨拶をして部屋を出た。
廊下では厳しい表情を浮かべたイスファンとナシゴレンが待っていた。ラッセルハウザーは無言のまま千早がいる部屋の扉を見て、イスファンたちに合図し、そのまま歩き出す。
声が届かない距離まで離れたイスファンたちは、執務室に向かい高速で歩きながら打ち合わせを始める。
「捕らえたか?」
「はい。親も捕らえました。私兵は武装解除し、数ヵ所に分散させて閉じ込めてあります」
「屑どもはどこだ?」
屑と言われて誰の事を指すか分からなかったイスファンは返答に詰まった。
「あの貴族の風上にもおけない腐った屑とその出がらしの娘たちだ」
「…………伯爵たちは砦の一室で軟禁してあります。娘は危険性を加味し、伯爵令嬢をエリックの実験場にて拘束。残りの二人はそれぞれ個室に閉じ込めております」
「断罪する。いいな?」
珍しく怒髪天という雰囲気を隠そうともせずに、怒り狂うラッセルハウザーの雰囲気に飲まれたのか、イスファンたちは同意した。
砦の一角に借り受けた執務室に入るなり、ラッセルハウザーは王配として女王に認められた印章を使い触を出す。
「……伯爵は処刑。その娘も処刑。伯爵婦人はその身分を剥奪。平民に落とす。実家が助けの手を差し伸べるとは思えないが、もしそうなるならば止めない。
伯爵家は断絶。雇用されていた使用人たちは全員解雇。
伯爵領は廃棄地とし、全兵力を引く。領民については各地に分散させ受け入れさせる。
ああ、法王領で新たな疫病が蔓延して、農民の数が足らなくなっていたな。魔物の被害も段違いに多い。あちらでは管理者不足で困っていたはずだ。
では伯爵家の跡取りが確か一人いたな。その者を男爵に封じ、法王領の建て直しを命じる。
また残りの子爵家と男爵家については、領地は剥奪。当主とティハヤ様に暴言を吐いた娘は、身分を剥奪し、農奴となってもらおう。旧伯爵家の跡取りとひとりでは大変だろうから、その者に与える。そもそも腰巾着だったのだ。問題もあるまい」
話ながらサラサラと命令書を書き上げていくラッセルハウザーの勢いは止まらず、次々と断罪の勅を書き上げていく。
「罪状は落ち人様への殺人未遂及び、王族への殺人未遂。国家転覆罪の適応でいいな」
「よほどお怒りですね、閣下」
「当然だ。よりにもよってティハヤ様に牙を剥くとは、愚かにもほどがある」
「しかし殺してはティハヤ様が悲しまれるのでは?」
「殺さなければ我々がティハヤ様の守護をされる方々に罰を受けるだろう」
「何故?」
「ティハヤ様を守ってくだされたあの力は、我らに一片の興味もなさそうだった。それ故に目こぼしされたのだ。
考えても見ろ。
ティハヤ様の神々は荒ぶる神だ。怒り狂い王都を滅ぼし、我らに警告を下された。例えリソース不足で滅びることがなくなったとはいえ、ティハヤ様に何かあってみろ。恐らく物理的にこの世界は滅びる」
言いきったラッセルハウザーは、筆圧強く書き上げた命令書を秘書官に渡した。
「二通複製を作れ。一通はリアトリエル陛下に、もう一通は法王領に届けよ。疫病に掛からぬように、魔術師に移転させろ。良いな」
ラッセルハウザーの命令を速やかに遂行するために動き出した秘書官を見送ると立ち上がる。
「さて、伯爵に通知してくるか。その後は娘たちだ。だが処刑は、あのジョゼフィーヌとかいう娘が何故歪んだリソースを使い、ティハヤ様を襲ったのか分かってからだ。エリックの到着を急がせろ」
矢継ぎ早に指示を出すラッセルハウザーに付き従い、イスファンたちは伯爵の元へと向かっていった。
一方その頃、ティハヤは護衛兼話し相手として室内に残った兵士たちの愛猫を愛でていた。
「可愛いでしょう。こいつはベヘムの村で今年の春産まれたばかりでまだ二ヶ月です」
「貰ってきたの?」
「母猫が育児放棄したそうで、世話が出来ないからと譲り受けました。今後砦にもネズミやら何やらが出るようになるかもしれませんからね。先行投資です」
デレデレと締まりのない顔で子猫を愛でる兵士たちは、指先をオモチャにさせて遊んでいた。
「可愛いね」
「イスファン隊長やナシゴレン副長の許可も得ています。今後ティハヤ様が砦にいらした時は、是非構ってやってください」
もちろんと千早が頷いたところで、三匹を洗うためのお湯が沸いたと使者がきた。このまま洗っていいか、それとも立ち会うかと聞かれて、千早自身が洗うと話して外へと出る。
子猫は馴れたもので、コトコトと廊下をすり抜けていった。
「ティハヤ様」
「ゴンザレスさん! もういいの?」
「大丈夫です。閣下の連れていた治癒術士に治してもらいました。もう何処も痛みませんのでご安心ください」
大きなたらいに満杯に張られた湯と、洗い場の一角に準備されたらしいシャンプーの間にゴンザレスが立っていた。
犬たちは洗われると気がついたのか、座り込んだり、伏せの形で地面に張り付いたりと思い思いの抵抗を示していた。
「こら! 抵抗しない!!
そんなドロドロになって。ダメでしょ」
千早の登場にも、嫌がる仕草を止めない三匹を叱ると、ゴンザレスに向き直った。
「あの……怪我、どれくらいだったんですか?
私を庇ったから……、ごめんなさい」
「当然のことです。それに大した怪我でもなかったですから、ご心配なく」
「本当に? ウソ言わないでね?
どんな怪我だったの。凄く辛そうだった」
じっとりと千早に睨まれたゴンザレスは、視線を反らして悩みだした。そのまましばらく千早の視線の圧に耐えていたが、騙すことは出来ないと顔を上げる。
「肋が何本か折れ、背骨にヒビが入りました。背中全体も打撲しておりましたが、今は本当に治っております。ご安心ください」
「え? 重傷じゃない! ごめんなさい、なんと謝っていいか」
何度も頭を下げる千早に困ったゴンザレスは、とりあえずダイズ達を洗ってしまいませんかと提案した。
お湯が冷める前にと二人で手分けして犬たちを洗う。猫好き兵士たちも、お湯の運搬や犬たちの移動を手伝った。
何度も洗い臭いと汚れが取れて、タオルドライがすむ頃には、ずいぶんと時間が過ぎていた。
「さて、乾かさなくては。日当たりのよいデッキに抱えていきましょう」
シャンプーで疲れきった犬たちは、脱力したまま兵士たちに身を預けている。
「あの、この子たち、お任せしても?」
「構いませんが、何かご用でも?」
「ゴンザレスさん、一緒に来て。
あのオジョーサマに謝ってもらう」
強く口を噛んだ千早はそういうと、ゴンザレスの腕を引っ張った。
「危険です。あの娘に近づくなんて、何が起きるか分かりません」
「それでも、このままなんて許せない。傷付けさせたなら、せめて謝罪くらいはさせたい。
ねぇ、あのオジョーサマは何処にいるの?」
通りすがりの兵士に千早は話しかけた。まさか声をかけられると思っていなかった兵士は驚きつつも、実験場に拘束されておりますと答えた。
「私に死ねと言うのは別にいい。この世界にとって招かれざる客なのは分かってるもん。だから傷付きなんかしない。
でも、ゴンザレスさんは違う。こんな私にも優しくしてくれるいい人だもん。優しくて強いお友達の大切なお父さんだもん。だから絶対謝ってもらう」
ゴンザレスをぐいぐいと引っ張りながら、千早は久々の怒りに身を任せていた。
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