白.最終兵器は彼女
とはいえ、せっかく全身発光魔法を施しても雪は歌会には出ない。さすがに貴族でなく和歌の名手というわけでもない雪が公卿が列席する歌会に末席にでも出席するのは問題がある。いや、そもそもただの五位の爺の娘の裳着の祝宴にこんなに公卿が出席しているというのがすでに異常事態なのだが。
俺「できたよ、雪」
雪「は、恥ずかしいです」
俺「大丈夫。綺麗だよ」
雪「うぅ」
発光自体は天照や月☆読で何度も見ているが、雪に魔法を施してみて初めて非発光状態と発光状態を比較してみて、この魔法の威力を思い知った。もともと白くて透き通るような雪の肌の中から光が漏れるように発光しているため、まるで美しいガラス細工のような透明感を生み出すことに成功しているのだ。その美しさはおしろいの比ではなかった。
(こ……れは……、俺はもしかするととんでもないものを発明してしまったのかも知れない……)
なお、化粧と着付けのために俺と雪が並んで他の女房たちが待つ部屋に行った時、俺は特にいつも以上には魅力を垂れ流してはいなかったはずなのに、1人失神者が出てしまったのはここだけの話だ。
さて歌会である。
普通なら女流歌人が招かれていてもおかしくないと思われるのだが、なぜか俺以外はすべて男性だった。しかもことごとくエリート貴族ばかり。おまけにイケメン揃い。あまつさえ、俺が何か言うと、言った側から賛辞の嵐、大合唱が始まるのだ。
(やばい……、気持ちいい……)
なんていうのか、行ったことはないけれどホストクラブに行って売れっ子ホストに囲まれてわっしょいされるのってこんなんだろうか? 財布の中身とか考えずにピンクのドンペリを何本も開けてしまいそうだぜ……
貴族1「かぐや姫どのは見目麗しいだけでなく、教養もあって和歌の心得もある。まるで天女のようなお方だ」
貴族2「いや、噂によれば本当に天女さまだと伺っておりますが」
貴族3「いざ実物を拝見するとその噂が真実であることが実感できますね」
一事が万事こんな調子でどこまで本気なのかわからないけれど、とにかく全員が全員、競い合うように俺を褒めちぎることに全力を尽くしているような状況だった。最初は戸惑っていた俺も、褒められて悪い気分はしないわけで、時間とともにだんだん気分が良くなっていってしまったのだ。
(いけない。ダークサイドに堕ちてしまいそうだ)
頭の中でよりすぐりのイケメン貴族を侍らせて、ご褒美とか言って足の指を舐めさせている様子を妄想して、ぶるぶると頭を振る。
(だからっ、俺は男なんだっ。イケメン貴族に足の指を舐めさせるとか変態じゃないかっ!)
それは女であっても十分変態だということに気づくほど、俺の頭は冷静ではなかった。
褒められていい気分になったことと、妖しい妄想に取り憑かれそうになるのに必死で抵抗していたことが重なって、俺の中の理性のたがが徐々に緩み始めたことに俺は気づいていなかった。
貴族4「はぁはぁ、……か、かぐや姫どの…」
歌会が進むに連れて、次第に会話が減り和歌の数が減り、貴族たちの表情は恍惚としたものに変わっていった。俺は自分の魅力を制御できなくなっていたのだ。そして徐々に崩壊の時は近づく……
きっかけは雪の存在だった。
歌会の様子がおかしいことに気付いた雪は、心配になって俺のもとに背後から近づいて来たのだった。雪の存在に気付いた俺は振り返って雪を見たが、魅力を抑えきれていない俺を見た雪は一瞬でその魅力に囚われてしまい、恍惚とした表情で顔を上気させた。
その様子を見た俺は雪のあまりの可愛さに思わず興奮してしまって、魅力を抑えている最後のたがが外れてしまった。
それが歌会出席者たちが見た最後の光景だった……
ドリーム小説大賞は最後に見た時の順位は14位でした。ご協力ありがとうございました。