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【今は昔】転生!かぐや姫【竹取の翁ありけり】 作者:七師

第2章「かぐや姫」

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玖拾参.ここで会ったが…

 俺は人目につかないように一旦外に出て、それからもう一度門から入り直した。こっそり来賓者名簿に名前を付け足しておいたので問題なく入れたが、無位無官の人間の来訪に大いに注目を集めてしまった。


 いや、注目を集めたのは無位無官だったからというだけではない。多分、俺が美男子過ぎたんだ。ちょっ、そんなジト目で見るのはやめてくれ。事実なんだからしょうがないじゃないか。やめてー、腐ったみかんを投げないでっ!


 とにかく俺は宴席の末席に着いて集まってきた人々を眺めていた。昨日来ていた公卿の人たちはほとんど今日も来ていた。よっぽど仕事が暇なのか、はたまた仕事とかどうでもいいくらいかぐや姫が美しいのか。もっとも宴席は午後から開始なので、みんな午前いっぱいは仕事をしてきたのだと思うけど。


 (あ、中納言だ。この間のお詫びをしとかないと)


 といって、中納言のような身分の高い雲の上の人にこちらから声をかけることはできないので、話したいことがあれば向こうから声をかけてもらうことを待つしかない。しかし、こっちは前にあった時からだいぶ成長してしまったので、一瞥するだけで俺があの時の竹仁だと気づかれることは難しそうだ。


 (和歌でも送るか)


 宴席の場ということで、普通なら不躾なことでも風流なことなら許される可能性が高いし、みんなかぐや姫に気に入られようと必死で和歌をやり取りしているから、どさくさに紛れて和歌を届けることは難しくなさそうだ。となれば、何か目に留まるような和歌でも思いつけば…


 たまのおの ながきものとは ききながら わがめづかめは ありやなしやと


 命が長いものとは聞いていますが、私が大事にしていた亀は元気にしていますか、という意味だ。亀のことを言いふらしていたらあまり効果はないかもしれないけれど、そうでなければ誰が書いたかピンと来るはずだ。


 俺はその和歌を紙にしたためて、宴席の世話をする女房に持たせて中納言に渡してもらった。ところで、さっきから妙に女房たちが俺のところにご用聞きにやってくるのだけれど、特別用はないんだけどな。


 中納言は俺からの和歌を受け取ると、不思議そうな顔をしてこちらを一瞥して、和歌の書かれた紙に目を落とした。そしてすぐに驚いた顔でこちらをもう一度見つめてきた。


 しばらくじっと俺を見た後、、中納言は何かに頷くと筆をとってさらさらと何かを書き、女房に手渡した。すぐさま女房は俺のもとに戻ってきて中納言に渡された紙を俺に手渡した。


 かめのみぞ しるひとにせん たかさごの まつみのわれを なぐさめにけり


 これは「たれをかも しるひとにせん たかさごの まつもむかしの ともならなくに」という有名な和歌を元にした本歌取りの歌だ。前に俺が作った川柳っぽいのよりはだいぶ上手い。


 元の歌が「誰も友達なんていないよ」という歌なのに対して、この歌は「あなたの亀が待ちぼうけを食らわされた私を慰めてくれたから、その亀だけは友達だと思っていますよ」という意味で、まつが「松」と「待つ」の掛け言葉になっている。さすが中納言。


 感心してうーんと唸っていると、和歌を持ってきた女房がこっちに来いと合図しているのに気づいた。指示されるままについて行くと人気のない一室に通された。


 (はてさて)


 しばらくの間、じっと待っていると、廊下を誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。どうやら足音は2人で1人がもう1人を案内しているようだ。


 中納言「竹仁殿、久しぶりだな」

 俺「これは中納言殿。お久しぶりでございます」


 現れたのは予想通り中納言だった。もう1人は案内してきた女房ですぐに立ち去った。中納言は俺の上座に座ると虚礼を排して話しかけてきた。


 中納言「まさかあなたがかぐや姫殿の縁者だったとは思いもよらなかったよ」

 俺「縁といっても遠い縁でございますが」


 宴席でかぐや姫との関係を聞かれた時、まさか本人とは言えないから遠縁であるというふうに言っていた。それが中納言の耳にも入っていたのだろう。


 中納言「前にあった時に比べると随分成長したような気がするが、気のせいだろうか」

 俺「ちょうど成長期ですから、そのようなこともあるのではないでしょうか」

 中納言「ふむ。成長期か」


 当然、成長期というレベルではない成長をしているわけだけれど、ここについては少し強引に丸め込んでしまうことにした。1ヶ月半も前のことだし、中身の精神年齢は対して変わっていないから、なんとかごまかせる…、かな?

中納言の歌を考えるのはかなり苦労しました。和歌を考えていると執筆速度が落ちてしまいます。

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