玖拾弐.式神の歌
俺「雪っ、こっ、これには深いわけが…」
式神「雪ちゃん、はじめまして。雪ちゃんも触ってみる?」
雪「かっ、かぐや姫さまが…、2人…」
どこかで聞いたことのある台詞だと思ったが、それはとにかくこの状況はまずい。っていうか、
俺「いつまで胸を触ってるんだ、この変態がぁぁぁっ!」
俺ははぁはぁと荒い呼吸をしている式神の顎に目がけて真下から拳で突き上げた。
式神「ぎゃふんっ」
ドスッ ゴチンッ
あまりに激しい打撃に式神の身体は一瞬宙に浮いて背中から床へと墜落する。最後に後頭部を強か床に打ち付けて、式神はあちこち痛そうにして床を転げまわった。
式神「かぐやちゃん、ひどい、あんまりだよぉ」
俺「うるさい黙れ」
雪「あの、こ…れは一体…」
(しまった、雪を忘れてた)
俺「あ、えっと、今日はこいつが身代わりに出席するから」
雪「え…と、どういうことでしょうか?」
式神「そうだっ、どういうことだっ」
俺「お前は黙れ。…、フゥ…、この子は式神で私の身代わりなの。ちょっと性格には問題があるけど、姿形はそっくりなはずだから、今日はこの子を私の代わりに連れて行ってね」
雪「式神!? 陰陽道ですか?」
俺「まあ、そうかな…」
式神「性格に問題ってどういうことだ。名誉毀損で訴えてやるっ」
雪「でも、かぐや姫さまはその間どうなさるんですか?」
俺「今日は来賓席の方に座ってみるわ」
雪「えっ、でも、来賓は男性の方ばかりでございますよ」
俺はぎゃあぎゃあと騒ぐ式神は無視して、例の木箱をたぐり寄せると男装用の服を復元した。そして、胸をさらしで押さえてから、手早く服を着ていった。
雪「あ…、この格好は以前に…」
俺「うん。前に雪に誤解された」
雪「あの時は申し訳ありませんでした」
俺「こっちこそちゃんと説明してなかったから」
随分前の誤解が今頃になって解けた俺と雪は話を式神に戻した。
俺「ところで、雪がここに来たってことは、もう時間なんだよね」
雪「そうでした。皆さんお待ちでございます」
俺「式神。今日は雪の言うことを聞いて適当にやってくれ。和歌の返歌は基本的に失礼にならない程度にそっけなくあしらっておけばいいから」
式神「へーい」
俺「ところで、お前、和歌は詠めるよね?」
式神「ちはやふる かみよりくだる うたのわざ しものしきにや つたわらざらん」
俺「あー、大丈夫そうだな」