玖拾壱.帰ってきた式神リターンズ
俺「疲れたー」
雪「お疲れ様でした」
ようやく解放された俺は、自室に戻ってきてごろ寝してくつろいでいる。一緒に解放された雪にも俺の部屋に来てもらって話し相手になってもらうことにした。とりあえず、和歌の詠み過ぎでオーバーヒートした頭をクールダウンしたい。
俺「墨ー。こっちおいでよー」
墨「にゃうー」
墨は当然、俺の近くに寄るとストレスのはけ口にされてさんざんなぶられるのは分かりきっているので、警戒して近づこうとはしない。俺ももう少し元気なら墨を追い回して遊ぶところなのだが、今日は流石にそんな元気はなかった。
俺「はあ、つまらない」
雪「かぐや姫さま、少しだらしないですよ」
俺「いいよいいよ。誰も見てないし」
雪「私が見てますから」
俺「むぅ。雪は堅いなぁ」
天照の件があってから、雪は以前よりはだらしないことに文句を言わなくなったけれど、それでも目に余るだらけっぷりをしていると時々注意される。俺の方も以前より雪に遠慮がなくなったので、注意されてもスルーすることも多くなったのだけれども、やはり突っ込まれると罪悪感を感じて姿勢を正してしまうことも少なくない。
俺「あ、そうだ、雪。お風呂入ろう」
雪「お風呂ですか?」
俺「うん。お化粧を落としてから寝ないとお肌が荒れちゃうからね」
女の命は髪だけじゃないんだよ。…、男だけど。
◇
1日中宴席でじっと我慢して返歌を返し続けるのが面倒になった俺は、今日は逆に来賓席にでも座ってみることにした。せっかくだからこの間勝手に帰ってしまったお詫びでも中納言にしておこう。
となったら俺の代理を祝宴に立てておかなければいけないのだけれども、こういう時こその式神だ。若干言動に不安が残るものの、今日も離れで婆と雪の3人だけの予定だからまあなんとか大丈夫だろう。
俺は例の木箱を取り出すと、そこから式神を取り出した。紙片は光とともに消え、光とともに一糸纏わぬ美女が現れた。相変わらずすごい美人だな、俺のことだけど。
式神『かぐやちゃん、お、ひ、さ、し、ぶ、りっ!』
俺『うるさい。さっさと着替えろ』
俺は意味もなく身体をくねくねさせている式神を無視して服を脱ぎ始めた。俺の服を式神に着させて、俺はいつもの男装をするためだ。
昔は式神のあられもない姿に否応なくドキドキさせられていたが、さすがに最近は雪や墨といつもお風呂に入っているせいか、はたまた女性を同性と感じるようになってきたせいなのか、いちいちドキドキしなくなってきた。…、そのことに忸怩たる思いがないわけではないが。
式神『あら、かぐやちゃん、しばらく見ないうちにすっかり成長しちゃって』
俺『わあっ、ちょっ、やめっ』
式神は服を脱いでる最中の俺に飛びかかってきた。危うくバランスを崩しそうになったところを間一髪で踏みとどまると、その隙をついて式神が胸を触ってきた。
俺『ぁふん』
(しまった、この式神はこういう変態だった。変な声が出ちゃったじゃないかっ!)
雪「かぐや姫さま、そろそろお時間で…」
そしてこういうタイミングに限って誰か来たりするんだ。
平安時代の女性はおしろいたっぷりの超厚化粧だったので、多少の肌荒れは塗りつぶすという勢いだったのだろうと想像されます。笑うとおしろいが剥がれるのでできるだけ表情を変えないように、特に笑わないようにしていて、逆にそれが上品とされていたそうです。