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【今は昔】転生!かぐや姫【竹取の翁ありけり】 作者:七師

第2章「かぐや姫」

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卒.こよみはあきになりぬれど

 雪「ええ。でも、私は斜め向かいに座っていらっしゃる中納言さまの方が…」

 婆「確かに中納言さまは美形でいらっしゃいますね。さすが中宮さまのお兄さまでいらっしゃいます」


 中宮とは帝の正妻のことだ。確か、関白も中納言のことを中宮の兄だとかと言っていたような記憶がある。


 俺「確かに、中納言さまはかっこいいですわね」

 婆「かぐや姫は中納言さまがタイプなんですね。いい機会です。中納言さまから挨拶の和歌が届いたら、早速想いをお伝えしなさい。雪、寝床の準備は?」

 雪「万端でございます」

 俺「ちょっ、ちょっと待ていぃっ」


 (なんなんだ今の展開の速さは)


 俺「お婆さま、気が早すぎます。さっき私はじっくり相手を見定めたいと言ったばかりではないですか」

 婆「しかし、中納言さまは中宮さまのお兄さまですよ。これ以上何をどう見定める必要があるのですか?」

 俺「まだ、関白さまと中納言さまの2人しか見ておりません。しかも、こんな遠くから眺めただけではないですか」

 婆「美人だからと選り好みをしていると、いつの間にか年老いてしまいますよ」

 俺「それならば、雪と2人で一生暮らします」

 雪「か、かぐや姫さま…」

 婆「…、仕方ないですね…。今日は公卿の方も大勢見えていますし、今のうちに全員ご紹介しておきましょう。かぐや姫も顔と名前が一致していないと困ることもあるかもしれませんし」

 俺「ありがとうございます」


 正直、関白と中納言以外は初見なので、説明されるとありがたい。といっても、婆自身も顔を見るのはきっと今日が初めてのはずなので、席次で誰が誰かを把握しているということなのだろう。


 婆「まずは何度も言うように、一番上に座っていらっしゃるのが関白の車持くらもちさまです。そして反対にいらっしゃるのが石作いしづくりの親王さまです。あちらにいらっしゃるのが右大臣の阿倍さまで、あちらは大納言の大伴さま、そしてかぐや姫の意中の中納言の石上いそのかみさま」

 俺「勝手に意中にしないでください」

 婆「恥ずかしがらなくてもいいんですよ」

 俺「全く恥ずかしがっていません」


 その後も婆によって全員の出席者の役職と名前の説明を受けた。俺はそういう暗記系は一瞬で覚えて忘れないけれど、婆はさすがに覚えきれないのか、時々後ろから女房に何やら耳打ちされながら紹介を続けていた。


 ところで、そうやって紹介を受けている最中も俺には他にやることがあった。祝宴に参加している貴族たちから次々と和歌が届くのだ。さすがに数が多すぎて全部に返信する必要はないとはいえ、やはりそれなりの身分の方から届いたものならばそれなりの応対はしなければならないわけで、しかも和歌の返信は和歌で返すのが常識なので、慣れない和歌を必死で詠み続けるはめになったのだ。


 (脳みそが蒸発しそう)


 俺「あれ? これは雪宛だわ」

 雪「えっ、私ですか?」


 俺宛の和歌ばかりかと思っていたら、実はちらほらと雪宛の和歌も混じっていることに気がついて、宛先の違うものをより分けて雪に渡した。


 雪「どうしましょう。私、このようなものを受け取るのは恐れ多くて…」

 俺「雪はこの中に意中の人はいるの?」

 雪「いませんわ。私はかぐや姫さまに一生を捧げる決意ですから」

 俺「…あ、ありがと。でも、じゃあ気のないふうに適当に返しておけばいいんじゃない?」

 雪「そ、それはそうなんですが、やんわりと上品にお断りする和歌を作るのって難しくありませんか?」

 俺「確かに…」


 大体お手本にする和歌は、好きです好きですっという内容のものばかりなので、お断りの和歌というのはどう書けばいいか難しい。俺と雪はしばらくの間、うーんと考えこむことになってしまった。


 例えば、今ちょうど手元にある和歌はこんな感じで、


 くもひとつ かからぬなつの ひかりさえ よるとおもわん このうたげかな


 要するに、あなたが眩しすぎて真夏の太陽も夜に見えるぜ、という歌なのだが、うざいのでとりあえずこんなふうに返しておいた。


 なつすぎて こよみはあきに なりぬれど なおもひかりの よわらざらんを


 もう立秋は過ぎてるし、なのに相変わらず残暑が厳しくて嫌になるよと。

やっと5人の公卿が登場です。といっても実は2人はすでに登場済みでしたが。石作皇子と車持皇子はそれぞれ親王と関白に変更しました。車持の読みは「くらもち」と「くるまもち」の2つがあるようなのですが、竹取物語の登場人物としては「くらもち」と読むようです。間違ってたら指摘してください。


ところで、和歌を考えるのは結構難しいです。なかなかうまい歌は思いつかないですね。

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