ドラマログテキストマイニング

テレビ番組(ドラマ)の字幕情報を対象に、テキストマイニングの研究をしておりますので、解析結果の公開をメインに関連グッズを交えた構成で記事にしてます。また、解析結果の信憑性が確認できるよう、解析用ソースも部分引用し掲載してあります。

おしん 一挙再放送 第50週・完結編 最終回 乙羽信子、高橋悦史… ドラマの原作・キャスト・音楽など…

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『おしん 一挙再放送 第50週・完結編』のテキストマイニング結果(キーワード出現数ベスト20&ワードクラウド)

  1. 道子
  2. 気持
  3. お母さん
  4. 一緒
  5. 希望
  6. 初子
  7. お前
  8. 自分
  9. ホント
  10. 浩太
  11. 辰則
  12. お父さん
  13. 仕事
  14. 離婚
  15. 大事
  16. 家族
  17. 心配
  18. 苦労
  19. 大手
  20. 今度

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『おしん 一挙再放送 第50週・完結編』のEPG情報(出典)&解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)

解析用ソースを読めば、番組内容の簡易チェックくらいはできるかもしれませんが…、やはり番組の面白さは映像や音声がなければ味わえません。ためしに、人気のVOD(ビデオオンデマンド)サービスで、見逃し番組を探してみてはいかがでしょうか?

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(本ページの情報は投稿日時時点のものです。最新の配信状況は Paravi サイトにてご確認ください。)

(詳細はFODプレミアム公式ホームページにてご確認ください。)

 

おしん 一挙再放送[終]▽第50週・完結編[字]

主人公おしんの明治から昭和に至る激動の生涯を描き、国内のみならず世界各地で大きな感動を呼んだ1983年度連続テレビ小説。全297回を1年にわたりアンコール放送。

詳細情報
番組内容
おしんと仁がスーパー「たのくら」を開いて30年がたった。小規模ながらも県内各地に16店舗を展開し、昭和58年春には、百貨店規模の17号店をオープンすることができた。しかし、大手スーパーが17号店と同じ町に進出したのを受けて、すっかり客足が落ちてしまう。今まで築きあげてきたものをすべて注ぎ込んだ17号店だっただけに、田倉の打撃は大きく、おしん(乙羽信子)は「たのくら」倒産の覚悟を決めるのだった
出演者
【出演】乙羽信子,高橋悦史,浅茅陽子,大橋吾郎,桐原史雄,鈴木淑恵,川上麻衣子,【語り】奈良岡朋子
原作・脚本
【作】橋田壽賀子
音楽
【音楽】坂田晃一

 

 


♬~
(テーマ音楽)

♬~

おしんと仁が スーパー たのくらの
1号店を開いてから 30年

小規模ながらも
各地に16店を有し

昭和58年の春には 百貨店並みの
17店目を オープンする事ができた。

…が 同じ町に
大手のスーパーが進出し

たのくらの客足は
たちまち 落ち始めた。

今まで築き上げてきたものを全て
つぎ込んだ17店目だっただけに

たのくらの打撃は 大きく

昭和59年の新春も
田倉家には 暗いものであった。

(仁)年末年始に 全然 売り上げが
上がらないんですよ。

客は ぼつぼつ 入っても
うちじゃ買わないんです。

まあ 要するに
品定めに来てるんですね。

比べられたら 大手には
かないっこありませんよ。

たとえ 規模は大きくても
所詮 うちは 地方スーパーです。

センスも違うし 値段だって
流通機構の合理化で

コストの安い大手のようには…。

今は 地方も 生活水準が上がって
客の好みも個性化してるし

目も肥えてきてるんですよ。
ひところのように

安ければいいって時代は
もう 終わったんですよ。

(おしん)それが
分かってるんだったら…。

まさか 大手スーパーが出てくるなんて
予想もできなかったし

見通しの甘かったのが
第一の敗因ですよ。

第二は たのくらは 分不相応な
設備投資をしたって事なんですよ。

しかし 最初の目標どおりの
売り上げさえあれば

借金だって まあ 何年かで 立派に
返済できるはずだったんです。

しかし 今のような状態では
とても 利息さえ

払える見込み ありません。
しかたがないね。

じゃあ 当分は ほかの店の利潤で
補っていくんだね。

ほかの店の利潤といったって

まだ 借金が残ってる店が
2店もあるし…

大体 小さな支店のあがりなんて
たかが知れてるんですよ。

母さんの言うとおり

17号店は 出すべきじゃ
なかったのかもしれない。

しかし 今までのような
小さな規模じゃ

売り上げだって 頭打ちだし

たのくらも伸びようがないと
思ったから

17号店に 懸ける気にも
なってみたんですよ。

しかし それが裏目に出たのは

たのくらに
運がなかったんで…。

そりゃ やれるだけは
ふんばってみるつもりです。

しかし いつ 不渡りを出すか…。

今月末が期限の 約手の手当ても
まだ ついてないんですからね。

母さんにも
覚悟しといてもらいますよ。

よく分かったよ。

じゃあ 17号店を
売り飛ばしてしまうんだね。

(辰則)いや そりゃ
売れるものなら売りたいですよ。

しかし うちが
大手を向こうに回して

四苦八苦してる店を 一体
どこが買うって言うんですか?

まあ 借入金を整理して

最後に どれだけ残るか
分かりませんが

まず 17号店を
次に この家と土地を

手放さなきゃならんでしょう。
たとえ 1店でも2店でも

店は 残すようにしないと…。
それに

今まで 銀行からの借り入れで
やりくりしてたものを それが

当てにできなくなるんですから
相当 厳しいものに…。

そうだね。
考えてみたら 人様のお金で

金もうけ
してたようなもんだからね。

まあ それも 信用が無くなると
できなくなってしまう。

今の世の中は
お金を持ってる人だけが

いくらでも 金もうけが
できるようになってんだからね。

申し訳ありません。 母さんが
30年 育ててきた たのくらを

私が潰すような事に…。
母さんは 平気だよ。

父さんや雄の代わりに 頑張って

父さんが夢だった店も
いくつか出せた。

雄が 心を残していった
初ちゃんにも

店を出させてやれた。

仁や辰則さんのおかげで
たのくらの全盛期も見られた。

母さん もう それで十分だよ。

いつ お迎えが来ても
もう 何の後悔もないからね。

母さん…。

仁。 母さんね 今までに
何度も 丸裸になってきた。

でも その度に 「何くそ!」と
思って はい上がった。

お前が 苦い思いするの
初めてじゃないか。

まだまだ いくらだって
やり直しは きく!

母さんに謝ったりなんか
してるよりも

早く 一から出直す事
考えなきゃ!

ただね…

たのくらを信じて尽くしてくれた
従業員の人たちだけには

できるだけの事を
してあげてほしい。

母さんの言いたいのは
それだけだよ。

(みどり)ホントに別れるの?
お父さんと お母さん。

(道子)そうよ。 もう
これ以上 一緒に暮らす理由が

無くなったからね。
どうして?

(道子)だって あんた
たのくら 潰れてしまうのよ!

(みどり)そんなの
理由になんないじゃない!

お父さんとか うちが
困ってる時こそ

お母さんが必要なんじゃないの?
お母さんはね お父さんが

いずれ 必ず 大きな仕事を
する人だと信じて お嫁に来たの。

名古屋の亡くなった
おじいちゃまだって

お父さんの将来に期待して
結婚を許して下さったわ。

お父さんが
初めて スーパー 開いた時には

そりゃもう まるで
自分の息子にもできないような

援助をして下さったのに…。

(あかね)ねえ ホントに もう
たのくらは 駄目なの?

お父さんに
はっきり 引導 渡されたわ。

「覚悟しとけ」って。

このうちだって
借金の抵当に入っちゃって

出てかなきゃなんないのよ。
じゃあ どこ行くの?

そんな事 知るもんですか!

どうせ そこらの ちっぽけな
借家しか ないんじゃないの?

おばあちゃんだって
お父さんだって

住むとこなんて どこだって
いいって人たちだからね!

お母さん そんなとこまで
ついていく気は さらさらないわ。

けどね…。
お母さんはね

お父さんを信じて
ついてきて

お父さんだって
頑張ってくれたから

おばあちゃんとも
一緒に暮らして

姑の苦労も
黙って 耐えてきたのよ。

それを
お父さん 裏切ったのよ!

おばあちゃんも
おばあちゃんよね 全く!

これまで たのくらは 自分一人で
たたき上げてきたみたいな

大きな顔しちゃって もう!
だけど おばあちゃんなんて

いざっていう時に
何の役にも立たないじゃないの!

あんな人に どうして お母さん
こき使われなきゃなんないの?

もう たくさんだわ!
そりゃ そうよね。

私たちだってさ
全然 おばあちゃんには

かわいがって
もらわなかったもんね。

そうだよね。 かわいそうに…。
あかねだって 今度の事で

好きな人と結婚もできないで
しょんぼりしてるっていうのに

慰めてやろうなんて気持ちの
かけらもないんだから

おばあちゃんには!
私は それで よかったの!

慰められたって
どうなるもんでもないし

そっとしといてくれて
かえって ありがたかった。

あれで おばあちゃん 結構
気 遣ってくれたんじゃないかな。

とんでもない!
愛情がないんですよ!

うるさくしないのが
本当の愛情という事もあるのよ!

生意気 言って!

でも よかった。 あんたも
元気になってくれたしね。

もう どうでもいいわ そんな事。

どっちみち おばあちゃんとも
縁が切れるんだし!

お父さん。
うん?

大変ね お父さんも
辰則おじさんも。
ハハハ!

よく承知したわね 離婚の事。

父さんと一緒にいて
余計な苦労するよりは いいだろ。

お父さん 一人で大丈夫?
いや 父さんだって

母さんの つらそうな顔 見るより
一人の方がいいさ。

もう 文句も愚痴も
聞かずに済むからね。

まあ それに 今のうちなら まだ
慰謝料だって払ってやれるんだ。

へえ~ そういう愛情もあるのか。
お前や みどりが

食うに困らないようにだけは
しといてやるつもりだよ。

まあ それが 父さんの
最後にしてやれる事だ。

母さん 大事にしろよ。 母さんには
お前たちしか いないんだからね。

(圭)あっ こんにちは。
よう! まだ 冬休みか?

ええ。 そろそろ 東京に帰るんで
おばあちゃんに

挨拶しとこうと思って…。
父さん 元気か?

相変わらずです。 仕事だけが
生きがいって人だから。

まあ ゆっくりしていけよ。 圭が
このうちへ来るのも 最後だろ。

春休みには
ここには いないだろうからね。

(あかね)行ってらっしゃい!
あっ 圭ちゃん どうぞ!

うん。

初子おばさんが心配してたけど
まさか この家まで?

駄目なんだって たのくらは もう。
そういう噂は 聞いたよ。

でも 田倉ほどの家が
そう簡単に…。

一度 つまずくと
あっという間らしいわよ。

お店だけじゃないわ。
うちの中まで壊れちゃうんだから。

はい。 ねえ 圭ちゃん。

おばあちゃん 圭ちゃんとこで
面倒 見てあげて。

うちね お父さんと お母さん
離婚するんだ。

離婚?
そう…。

へえ~。
離婚するなんて言ってるの?

(圭)おばあちゃんも
知らなかったの?

道子さんやね あかねたちとは

あんまり 話さないからね。
そんなバカな…。

はい おあがり。
好きなの取ってね はい。

おばあちゃんね なるべく
あの人たちに干渉しないように

お荷物にならないようにとは
心掛けてるんだけど…。

まあ 今に始まった事じゃ
ないんだけど

おばあちゃんが たのくらを
救う力になれなかった時から

ますます
気持ちが離れていってね

今じゃ もう 一緒に
食事する事もないの。

じゃあ おばあちゃん
ずっと 独りぼっちだったの?

若い人たちにとっちゃ
年寄りなんて

うっとうしいだけだよ。

若い者には 若い者の
考え方とか暮らし方があるから

おばあちゃん なるべく
入り込まないようにしてんだよ。

みんなと同居してて そんな…
そんな寂しい話ってあるもんか。

おかしいよ。

独りぼっちが
何でもなくならなきゃ

年寄りなんて
同居する資格 ないんだよ。

だけど 仁と道子さんが
別れるなんて 初耳だね。

仁も 何にも言わないんだもの。

僕だって
あかねさんから聞いたんだけど

まさか 家族の気持ちが そこまで
離れてるとは 知らなかった。

夫婦なんて 冷たいもんだね。

♬~

(仁)母さん。 どうしたんですか?
こんな時間に…。

待ってたって いつ 帰ってくるか
分からないからね。

当分は いろんな整理が忙しくて
ここへ泊まり込むつもりです。

何か あったんですか?

仁。

お前 道子さんと離婚するなんて
本当なのかい?

ええ。 道子の希望なんですよ。

俺だって
その方がいいと思ってね。

じゃあ 家族が バラバラになっても
いいって言うんだね?

心配 要りませんよ。
母さんの面倒 俺 見るよ。

私の事なんか
どうだっていいんだよ。

お前の本心を聞きたいの。

そりゃ 家族は 肩 寄せ合って
暮らしていけるのが

いいに決まってるでしょう。
しかし できない事を言ったって。

できないって事ないじゃないか!
ぜいたくな暮らしをしてる時は

家族なんて あっても なくても
いいんだよ。

これからが 家族にとって
大事な時なんだよ!

お前一人で できない事だって

家族が一緒だったら
できる事だってある。

それを
自分から捨ててしまうなんて…。

捨てるのは 道子ですよ!
俺に はいつくばって

道子を引き止めろって
言うんですか? バカバカしい!

ああ。 道子さんに
どうしても いてほしかったら

はいつくばってでも
引き止めるんだね!

意地だとか メンツだとか
言ってる場合じゃないだろ!

母さん…。

今頃になって離婚するなんて
母さん 絶対に反対だからね!

♬~

♬~
(テーマ音楽)

♬~

(仁)母さん。 母さん 道子から

どんな ひどい仕打ちを受けてるか
分かってるんですか?

母さんが
並木との交渉に失敗してから


道子は 一切 母さんの面倒を
放棄してるんですよ!

それだけでも
俺は 道子を許せんのに

母さんが 道子をかばうなんて
俺には分からんな。

(辰則)そうですよ。
こう言っちゃなんですが

私だって 道子さんには
あきれ果ててるんですよ。

たのくらに見込みがないと
分かったら

さっさと離婚したいなんて…。
そんな ひどい話がありますか!

(おしん)そりゃね
道子さんは 最初から

田倉には なじめなくて
随分 わがままもしてきた。

だけどね
私みたいな姑がいるんだし

おまけに
初子みたいな小姑もいるんだ。

道子さんにしてみたら
いつも 頭の上に

重い石を載っけてるようなもんだ。
私だって 姑では もう

さんざん 苦労してきたから
その気持ちは よく分かるよ。

それにね 暮らしの豊かな時は

なるべく
波風を立てないようにって

じっと 辛抱してくれた。

それは 母さん ありがたいと
思ってんだよ 今でも。

でもね たのくらが
こんな事になってしまったら

姑の辛抱して その上
貧乏暮らしなんか するんじゃ

たまらないと思う気持ちは
無理ないよ。

それもね せめて
仁との間が うまくいってれば

なんとか 2人で乗り切ろうって
気持ちにもなるだろうけど…。

まあ 今度の事で
かい性のない男だって

道子も
見切り つけたんでしょうよ。

道子さんばっかり
責められないよ。

お前だって
道子さんに いてほしかったら

簡単に 離婚に応じる法は
ないだろ。

向こうは 別れたいって言うのに

引き止めるほどの情熱は
ありませんね。

ほら ご覧よ。
お前が そんなふうだから

道子さんに
愛想 尽かされるんだよ!

いいじゃないですか!
俺だって 気が楽になったよ!

貧乏暮らしで
文句や愚痴 聞かされたら

たまったもんじゃありませんよ。
何 言ってんだい!

文句や愚痴 言われるのは
お前が悪いんだよ。

道子の気持ちを
しっかり つかんでたら

黙って ついてきますよ。
女って そういうもんなんだから。

大の男が 女房の気持ち一つ
つかめないで

大きな商売や仕事ができる道理が
ないだろ!

おまけに 自分の事は 棚に上げて
女房をこき下ろして。 情けない!

大体ね お前は
母さんを頼り過ぎるんだよ。

もう たくさん!
これから 頼るんだったら

道子にしてもらいたいね!
それが 夫婦ってもんだろ!

(玄関のチャイム)

≪(道子)どちら様でしょうか?
(初子)初子です。 夜分 突然に…。

あら おそろいで…。

(希望)御無沙汰しております。
いつも 圭が お邪魔して…。

とんでもございません
こちらこそ。

あら どうしましょう。
せっかく おいで頂いたのに

お母さん お出かけなんですよ。
仁さんも まだ 事務所らしくて。

いえ 今日は
道子さんに お話があって…。

構わないで下さい
客じゃないんですから。

今日 圭から こちらの事情を
聞いて びっくりしましてね。

仁も母さんも
何にも言ってくれないんだから。

私が 時々 母さんの顔
見に来たって

母さん
おくびにも出さないんですもん。

希望さんにも初子さんにも 直接
関係のない事だから お母さん

何にも おっしゃらないんじゃ
ないんですか。

嫌だわ。
私たちだって 田倉の人間ですよ。

たのくらが 倒産寸前だというのに
知らん顔もできないでしょ。

ご心配頂くお気持ちは
大変 ありがたいんですけど…。

でも どうなるもんでも
ありませんしね。

それに 私も仁さんも
もう 諦めてる事ですから…。

でも 離婚なんていうのは
嘘でしょ? 初ちゃん!

そんな事までも…。

(ため息)

とうとう 私も決心しましたわ。
道子さん…。

これ以上 一緒に暮らしていても
惨めなだけですし

どうしたって お互い
傷つけ合う事になりますから

この際 思い切って…。

たのくらが
うまくいってる時からだって

私たち なんとなく 気持ちが
通い合わなくなっていたんです。

あの人は 仕事だけに夢中で…。

そんな…。 男だったら それくらい
しかたがないじゃありませんか。

仁ちゃん 今が働き盛りだし…。

それだけに
仕事が つまずいたりすると

あの人も つらいと思うんですよ。

私も そんな仁さん
見てるくらいだったら

いっそ 別れた方が…。
それじゃ 仁が かわいそうですよ。

仕事が恵まれない時こそ
そばで慰めたり

励ましたりしてくれる人に
いてもらいたいもんなんです。

お母さんがいるじゃありませんか。
それでいいんですよ あの人は。

そんな…。
仁さんも承知してくれましたわ。

仁も仁だな…
そう簡単に承知するなんて。

一体 何を考えてるんだ…。

私の事が煩わしくなったんでしょ。
こんな時ですから

私だって 嫌な顔もするし
愚痴の一つも言いたくなります。

そんな女が そばにいたら

あの人だって
たまらないでしょ。

お互い こんなふうになったら
おしまいだわね。

これは 私の家の 土地と家屋の
権利書です。 これを担保にして

銀行で融資してもらうなり
売るなりして下さい。

何か月かの利息の
返済分ぐらいには なるでしょう。

その間に
なんとか 店を立て直す事を

考えてもらえたらと思って…。

これは うちの権利書です。

土地も店も 母さんに
買ってもらったものなの。

買い手があったら 売って下さい。

私たちは たのくらの力で
一人前になったんですから

それくらいするのは 当然なのよ。

お気持ちは
ありがとうございます。 でも

私には 何にも分かりませんから
仁さんと お母さんが

お帰りになったら
お二人に話して下さいな。

いいえ。 これは 道子さんへの
私たちからの気持ちなの。

私たち これまで 長い間

道子さんに
母さん お願いしてきたわ。

私たちだって 母さんの面倒 見る
義務があるのに

道子さん一人に 押しつけて…。
どうしても 母さんが

この家に いたいって
言い張るから つい…。

それが どんなに大変だった事か
私たちにも分かるわ。

こんなものぐらいじゃ とても
引き合わない苦労だったと思う。

でも 今の私たちには
これくらいしか できないの!

(希望)私たちだって

店の詳しい事は
さっぱり分かりゃしない。

恐らく こんなものは
「焼け石に水」に違いない。

しかし 私たちの意のあるところを
くんでもらって

なんとか 離婚だけは
思いとどまってもらいたいんです。

仁のためにも 田倉のためにも…。

仁ちゃんだってね
一人じゃ切り抜けられない事も

道子さんがいてくれたら
うまくいくって事も

あるかもしれないでしょ。

私たちにできる事だったら
どんな事でもしますから…。

母さんの事が原因だったら
私から 母さんに よく話して

私と一緒に住むような事に
なってもいいんだし…。

とにかく 仁ちゃんのそばにいて
道子さん 力になってほしいの。

お願い致します!

皆さんに ご心配かけて
ホントに申し訳ございません。

でも もう 何もかも遅いんです。

正直 言って たのくらが
こんな事にならなかったら

今度の事も
辛抱できたでしょうけど…。

でも これから先

どんな厳しい暮らしになるのか
分からないのに

愛情のない夫婦が
一緒にいたって 地獄ですから。

こんな時こそ
ふんぎりも ついたんですよ。

だけど もう一遍
仁ちゃんと よく話し合って…。

あなたたち
愛し合って 結婚したのよ。

ハハハハ! 初子さん…

長い間には 人の気持ちなんて
変わるもんですよ。

仁さんとも 話す事も
何にもなくなってしまって…。

仕事の話を お母さんに話すだけで
私は ただのハウスキーパーでした。

今更 夫婦で話し合うなんて…。

とにかく お二人には
長い間 お世話になりました。

至らぬ嫁で
申し訳ございませんでした。

この話は 二度と もう…。

(初子)勝手なもんね。

もう 自分を守る事しか
考えてないんだから 道子さん。

夫婦の事は よく分からないが

道子さんが
あそこまで思い詰めるには

道子さんにだって
それ相応の理由があるんだ。

仁だって 悪いところはある。
道子さんを責められやしないさ。

わがままなのよ 道子さんは!

「仕事は 一生懸命やれ。
金は うんと もうけろ。

それで 女房の機嫌もとれ」じゃ
男は たまらないわよ!

(圭)やっぱり おばあちゃんの事も
原因なんだろうな。

仁おじさん 何でも 「おばあちゃん
おばあちゃん」だもんな。

面白くないんだよ
道子おばさんだって…。

冗談じゃないわよ! ほかの女
大事にしてる訳じゃあるまいし!

仁ちゃんにとって
母さんは 絶対なの!

今どき はやりの
マザコンなんて甘えじゃないのよ。

一緒に 戦争 くぐり抜けて
終戦後の苦しい時代を

力を合わせて 乗り切ってきた
戦友なの! 同志なのよ!

それが分からないようじゃ
仁ちゃんの女房の資格はないわよ。

しかし 道子さんにしてみたら
やっぱりね…。

バカバカしい! もう やめた やめた!

(あかね)お母さん。

うん?
あんたたち まだ起きてたの?

(みどり)
ねえ おばあちゃん どこ行ったの。
まだ帰ってないでしょ。

禎おばさんの所にでも
泊まるんじゃないの?

これからの相談も
あるらしいしね。

お父さん
今度は ずっと 事務所なのかな?

しばらく 帰らないんだって。
大変なんだね。

お母さんと顔合わせるのが
嫌なんでしょ。 お母さん!

はあ… お母さんも 早く
このうち 出ていきたいわ。

別れるって決まったら 何だか
お父さんとも おばあちゃんとも

顔合わせるのが
何か 気まずくって…。

ねえ お母さん。 私 お父さんの
そばにいる事にしたからね。

(みどり)私も。 大学は やめる。
名古屋の下宿も引き払ってくる。

ちょっと あんたたち…。
いや お姉ちゃんとね

いろいろ話し合って
そう決めたんだ。 うん。

だって お父さんのそばにいるって
言ったって

お父さん これから
どうなるか分からないんだよ!

だから 一緒にいてあげなきゃ
かわいそうじゃない。

それじゃ
お母さん一人で どうするの?

お母さん 女でしょ。 料理でも
洗濯でも 自分でできるけど

でも お父さんはね…。
ねっ お母さん 私ね また働く。

お母さんの生活費ぐらいは
送ってあげられるわよ。

私もね 働く事にしたの。
ここなら ほら

友達も たくさん いるしね
就職するにも コネあるし…。

バカな事 言うんじゃ
ありませんよ!

あんたたちが お父さんのそばに
ついてたって

一体 何ができるって言うの?
大丈夫よ!

私たちだって その気になれば
結構 やれるんだから!

大体ね 生活が懸かってると
思ったらね

張り合いもあるってもんですよ!
そうそう!

そんな甘いもんじゃないのよ
働くって事は!

分かってる! ねっ!
私たちが働かなきゃ

食べていけないと思ったら
どんなに つらい仕事だって

やらなくちゃ
しょうがないんだもん。

(玄関のチャイム)

今頃 誰だろう?

どなたですか?
≪(仁)俺だよ。 あっ お父さん。

あっ おばあちゃんも
一緒だったの? お帰りなさい。

遅くなっちゃって…。 何だ
お父さんも おばあちゃんも

今夜 帰ってこないんだと
思ってた。

おばあちゃん ほかに
行くとこなんか ないじゃないの。

お帰りなさい。

話があるんだ。 茶をいれてくれ。
あっ 私 いれる。

お前たちは 寝なさい。 母さんと
二人っきりで話したいんだ。

(仁)道子!

♬~

茶をいれてくれないか。

♬~

♬~
(テーマ音楽)

♬~

(仁)道子 お前も座るんだ。

(道子)今更 何を話し合うって
言うんですか?

俺たちは 何にも
話し合っていないじゃないか。

私が別れたいって言ったら あなた
「いいだろう」と おっしゃったわ。

これ以上 何を話し合うんですか?

俺が離婚に応じたのはね
たのくらが こんな事になって

今のところ
再建の見通しも立たんのに

お前を引き止める資格は
ないと思ったからだよ。

お前に苦労させるのが
分かっていて

離婚に応じないのは 男として
卑怯だと思ったからだよ。

それに お前が別れたいって
気持ちも よく分かったからね。

仕事が うまくいってる時は
ともかく

貧乏してまで
ついていける男かどうか…

それぐらい
自分だって分かるつもりだよ。

事業に失敗した男なんて
情けないもんだ。

女から見りゃ
何の魅力もありゃしない。

だから 何にも言わずに
お前の気持ちを大事にしたんだよ。

ありがとうございます。

あなただって 私みたいに
出来の悪い女が一緒にいるより

すっきりなさった方が
いいでしょ?

一緒にいれば どうしたって
愚痴や文句が出ますし

お母さんに対してだって
いい嫁には なれなかったし…。

私だって つらいんです。

お互い 決心する
いい機会だったんですよ。

俺も そう思ったよ。

お前のために そうしてやるのが
俺の責任だって思ったんだ。


しかしね 道子 俺は別れないよ。

これからも ついてきてほしい!

休ませて頂きます。 (仁)道子!
今になって 急に そんな事!

頼む!

もう一度 俺と出直してくれ。

俺だって このまま
終わるつもりは ないんだ。

必ず やり直してみせる。

そのためには お前に
そばにいてほしいんだ。

お前が そばにいてくれたら
必ず やり直してみせる。

フフッ… 男なんて
気の小さい 見えっ張りだよ。

女房から 三くだり半を
突きつけられると

引き止める勇気もありゃしない。

自分に 負い目があったら
なおさらだよ。

黙って うなずいてやるのが

ホントの男の愛情だなんて
強がってる。 バカな話だ!

道子… 好きで一緒になって

お前や子どもたちのために
働いてきた。 誰のためでもない。

道子や 剛や あかねや
みどりのために 働いてきたんだ。

それを 一度や二度
つまずいたからって

離婚を要求されるなんて
そんな理不尽な話があるかね。

俺たちは 君の母さんや
俺のおふくろに反対されながら

それでも 結婚したんだ。

その時の愛情を信じていたから
俺も 自由に

仕事に打ち込んでこられた。
そりゃ 長い間には

いろんな危機もあったよ。
それでも 2人が

ここまで やってこられたのは
あの時の愛情を

失ってなかったからじゃ
ないのかね?

そりゃ 仕事が忙しくなって

2人で ゆっくり
話し合う機会も無くなったよ。

それでも
俺は 何の不安もなかったよ。

ちゃんと 夫婦の心が
通い合ってるって

信じていたから。

こんな事 言うと

やっぱり
女々しい男に見えるだろうね。

俺だって こんな
女々しい事は 言いたくないよ。

だけど 離婚に応じない以上

理由だけは
はっきりしておきたかった。

女々しいだなんて そんな事…。

あなたから
こんな言葉が聞けるなんて

思ってもいなかったわ。

本当は そういう言葉が
聞きたかったんです。

本当は 離婚に
反対してほしかったんです。

道子…。

女って バカだから
ほうっておかれると

だんだん 不安になってきて…。

男の方は お仕事があるから
それで いいでしょうけど

女は 子育ても終わると
それで もう 女の役目も

全て 終わってしまったような気に
なって…。

ぜいたくだよ そんなの!

そうかもしれませんわね。

何にもしなくたって
暮らしに困る事はないし

生活に追われていたら そんな事
考える暇もないでしょうからね。

これからは
そんな暇も無くなるよ。

どんな苦労させるか分からんが
それでも ついてきてくれるか?

私が そばにいたって

何にもしてあげられないかも
しれませんよ…。

いいんだよ それで! 家で
待っててくれるだけでいいんだ。

お前が待っててくれると思えば
俺だって 一生懸命 働けるんだよ。

大事なのは そういう事なんだよ。

(道子)おはようございます。
(おしん)おはよう。

お食事の支度 できましたから。

こんな時ですので 文ちゃんには
田舎へ帰ってもらいました。

これから 何かと ご不自由を
おかけすると思いますけど…。

私の事なら
気を遣わなくていいのよ。

まだまだ 自分の事ぐらい
自分で できますからね。

お母さん…。

申し訳ありませんでした。

私のわがままで 長い間
お母さんのお世話も致しませんで。

何 言ってんのよ 今更。

人間ね
長い事 一緒に暮らしてたら

腹の立つ事や
気に入らない事だってありますよ。

神様じゃないんですからね。
お母さん…。

私はね 道子さんが
私に冷たくした事なんて

何とも思っちゃいませんよ。
仁と うまくいかない時には

母親の私を
恨みたくもなるだろうし

私だって
ふだん 大きな顔してるくせに

たのくらが大事な時に
役に立たなかったんですからね。

道子さんが 腹に据えかねる気持ち
よく分かりますよ。

そう言って頂くと
なお 申し訳なくて…。

私なんかの事よりね 仁の事…。

あの子 あなたに別れてもいいって
言ったんですって?

でもね あの子の本心は
母親の私なんかより

息子や娘たちより 誰よりも
やっぱり 女房のあなたを

一番 頼りにしてるんですよ。
そりゃ 男の強がりで

あなたには そんな事 おくびにも
出さないでしょうけど

そういう男の気持ちも
察してやってちょうだい。

やっぱり…。

お母さんが 仁さんに 何か
おっしゃって下さったんですね。

おかしいと思ってましたわ。
昨夜 急に あんな事…。

何があったか知らないけど
私は ただ 仁にね

「男の意地だとか メンツだとか
そんなバカらしい事は 捨てて

自分の気持ちに
正直になりなさい。

でなきゃ 一生 取り返しの
つかない事になるよ」って。

ありがとうございました。

私 仁さんに ついていく決心が
つきました。

道子さん…。

昨夜 仁さんと
いろいろ話し合って…。

仁さんの本当の気持ちが
聞けたのは

結婚以来
初めての事かもしれません。

じゃあ…。
ええ。 たとえ 丸裸になっても

仁さんに 夫婦で出直そうっていう
気持ちがある限り

私も 妻として
どんな事でもします。

精いっぱい やります。

もう ご心配おかけしませんから。

道子さん
私 もう 何にも言いません。

仁の事 頼みましたよ。

あの子ね 今まで 大した
つまずきもなく やってきたから

随分 思い上がったとこがあるの。

私は それを
一番 心配してたんですよ。

まあ 今度の事で 少しは あの子も
考えるようになったでしょうけど。

仁の いい薬になったと思えば
何でもないじゃないの。

一生は まだまだ長いんですもの。
これからよ。

ええ。 そのつもりで…。

まあ いずれね このうちも
出ていかなきゃならないけど

1つでも2つでも 店が残ったら

それを足掛かりにして
頑張ってちょうだい。

私なんて 今まで
いくつも 店を潰してきたけど

結構 へこたれずに この年まで
生きてきたんですからね。

傷が大きくならんうちに
整理した方が いいかもしれんな。

今日も 10人ばかり
退職者が出た。

たのくらに
見切りをつけたんだよ。

ほかの従業員だって
浮き足だってる。

まあ これじゃ 売れる物だって
売れやしないんだ。

店員に やる気がない以上
客だって 買う気にもならんだろ。

(辰則)しかし 今 整理したって
何も残りませんよ。

借金が残らんだけでも
いいじゃないか。

(剛)じゃあ 今月限りって事ですか
たのくらも…。

そういうつもりで 父さん…。
うん。

お前の家と辰則の家だけは
残すようにしてあるから。

≪(初子)よかった!
店 閉めてから 出てきたでしょ。

もう帰っちゃったんじゃないかと
思って 心配しながら来たの。

何だ? 今頃。 さあ。

これね 土地と家屋の権利書なの。

これが希望ちゃんの
こっちが私の。

使ってちょうだい。
道子さんに渡したんだけど

受け取ってもらえないの。
いや ホントに ありがとう。

しかしね
もう どうにも ならないんだよ。

だけど…。
いろいろ 計算もしてみた。

将来の可能性も考えてみたよ。
しかしね 一応 今月の末で

整理する腹を決めたんだよ。
仁ちゃん…。

初ちゃんと希望には
おふくろを頼むよ。

俺たち夫婦は
どんな苦労したっていいが

おふくろ あの年だ。

せめて 静かな余生を
送らせてやりたいんだ。

ここに スーパーを開いて30年
前ばかり見て 歩いてきたよ。

しかし この辺で 初心に返って
一から出直すのもいいじゃないか。

自分で たたき上げたものを
自分で潰すんだよ。

悔いはないよ!

初子には 詳しい たのくらの
経営状態は 分からなかった。

…が 仁の決意の固い事だけは
よく分かった。

ただ たのくらの崩壊を
覚悟しながら

仁の表情の 意外に爽やかなのが
初子の救いになっていた。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

(玄関のチャイム)

(道子)お帰りなさい。
お疲れさまでした。

お夕飯は?
(仁)店で うどん取って 食ったよ。

あら それじゃ
お風呂 先に お入りになって

それから
お夜食 支度しましょうね。

その前に 話があるんだ。 一緒に
おふくろにも聞いてもらう。

いや 別に 今夜でなくても
いい事なんですがね

いよいよ 俺も腹を決めたから
みんなにも

承知しておいてもらいたいと
思ってね。

(おしん)何だい? 改まって。

今月の末で たのくらを
整理する事にしました。

(みどり)整理って 潰れるって事?

うん。 どう あがいてみても

今月末が 支払い期日になっている
手形の返済の めどが

立たなくなったんです。

(あかね)とうとう
そういう事になりましたか。

このうちも
抵当に入ってるんでしょ?

即刻 立ち退きって訳だ。

俺だって 少しでも
最悪の事態を 先へ延ばして

その間に 新しい店のテコ入れが
できたらって

随分 努力もしたんですよ。

しかし 大手と対抗できる方策も
立ちませんし

これ以上 持ちこたえる力は

今の たのくらには
ない事が分かったんです。

今なら まだ 借金だって
残さずに済むんですよ。

そうだね。 まあ 借金がなかったら
出直すにしても 少しは楽だろ。

母さんに 何と言って
お詫びを言ったらいいか…。

雄兄さんにも 川村さんにも

顔向けのできない事に
なってしまって…。

済んでしまった事は
もういいじゃないか。

お前が 好きでやった事だ。

それを 全身全霊 打ち込んだ。
悔いは ないんだろう?

だったら それでいいじゃない。
ねえ 道子さん。 ええ。

道子さんの お父さんにも

陰になり ひなたになり
随分 お世話になった。

道子さんの お父さんにも
もう ホントに申し訳ないけど

まあ やるだけの事は
やったんだから

きっと許して下さるよね。
もちろんですとも。

私もね ここを
いつでも出ていかれるように

荷物も
ちゃんと まとめてあるんですよ。

心配しないで下さいね。

私も 地元の広告代理店に
就職が決まりそうだし

たとえ お父さんに
収入が無くなったって

家族が食べる分ぐらいは
バイトしたって 稼いでみせるから。

冗談じゃないよ。 娘に食わせて
もらわなきゃならんほど

落ちぶれちゃいないよ。
そんなに 片意地 張らないの!

娘を ここまで育てて
大学まで行かせたんだから

今度は 娘に食わせてもらったって
いいぐらいな気持ちで

のんびりしたらいいの。

私だって 家族を
養わなきゃならないと思ったら

働きがいが出てくるんだから。

私もね 大学なんか やめて
職 探すからね。

お姉ちゃんなんかに
負けてらんないんだから。

全く! お母さんだってね

お父さんが また 商売 始めるって
言うんだったら

もう どんな事だって
手伝っちゃうんだから。

あんたたちに
食べさせてもらおうなんて

これっぽっちも
思ってやしませんよ。
そうだよ。

お前たちは お前たちの事だけを
考えてりゃいいんだよ。

この先 どうなるか
何ができるか分からんが

一応 当分は 仮住まいって事に
なるだろう。

母さんには
希望か 初ちゃんの所へ

頼んでありますから。
(道子)そんな! お母さんの事…。

(仁)母さんのためなんだよ。

お母さん…。

「行け」って言えば
どこだって行きますよ。

私も とうとう 年寄りの
やっかい者に なっちまったね。

申し訳ありません。 一日でも早く
お迎えに行けるように

みんなで頑張りますから。
それまで…。

私の事なんて
どうだっていいのよ。

それよりね どんな貧乏したって
あんたたち親子4人が

離れ離れにならないで済んで
よかったじゃないの。

家族がそろってれば お互いに

励まし合ったり
慰め合ったりできる。

大事な事は
その事なんですからね。

≪(希望)禎ちゃんとこは大変だな。
辰則君も子どもたち2人も

たのくらのために働いてきたんだ。
その たのくらが潰れるんじゃ…。

(禎)もう諦めた。 でも 仁兄さんが
私たちの うちだけは

助けてくれたから
ありがたいと思ってるわ。

(初子)やっぱり
妹は かわいいのね 仁ちゃん。

小さい時から
一緒に 苦労してきたんだもんね。

私たちで できる事あったら
何でもするからね。

クヨクヨしないで。
私も これから働くわ。

初ちゃんに 編み物
教えてもらいたいの。 いいわよ。

お金もうけだけじゃなくてね
禎ちゃんぐらいの年になったら

何か 仕事 見つけた方が
いいと思ってたの。

子どもに 手がかかる訳じゃ
ないしね。

ちょうどいい機会じゃないの
老後のためにも!


そうね。 今まで うちの中にだけ
くすぶって 一生 終わるのは

たまらないなんて
焦る事もあったけど

なかなか 自分から
やるっていうのは おっくうでね。

やっぱり 必要に迫られないと
毎日の生活に流されてしまって…。

やっと これで やる気に
なれたんだから よかった。

ただ 今夜 来たのは
母さんの事なんだけど…。

母さん うち 来てもらうつもりよ。

希望ちゃんとも
その事で相談したの。

希望ちゃんもね 母さん
引き取りたいって言うんだけど

このうち 女手ないでしょ。 母さん
のんびりできないと思って…。

いや 母さんが来てくれるんなら
ちゃんと 手伝いの人 頼むよ。

(初子)まだ そんな事 言ってる!

初ちゃんとこだって
商売が忙しいじゃないか。

店してたら 母さんだって
のんびりしてられやしないだろ。

母さん 店に出てもらうつもりよ。
母さんだって

まだまだ しっかりしてるわ。
お客様の相手ぐらい できるわよ。

いくら しっかりしてるったって
83だよ もう。

こき使っちゃ かわいそうだよ。

母さん 床の間に飾っとけとでも
言うの?

そんな事したら 母さん 退屈して
ボケちゃうわよ。

年寄りだって
どんどん こき使わなくっちゃ。

母さんだってね 自分が
役に立ってるって分かったら

元気が出るわよ。
初ちゃん…。

(初子)禎ちゃん…。

母さんは 幸せ者だわ…。

初ちゃんも私も

母さんには 本当の子ども以上に
かわいがってもらった。

でも 私は まだ
何にも恩返しをしてない。

せめて こんな事になった時こそ
母さんを大事にしてあげたいんだ。

そんなら 私だって…。
初ちゃんは 長い事

母さんと 二人っきりで
暮らしてきたじゃないか。

私は 師匠の所へ弟子入りして
離れてしまったから…。

(圭)父さん。 やっぱり
おばあちゃん 初子おばさんと

暮らした方がいいと思うな。
圭…。

(圭)いや 初子おばさんの方が
ずっと 気も付くだろうし

ここなら 顔なじみの
お客さんだって来るだろうしさ。

そうよ。 何て言ったってね
母さんと私は ここで何十年も

店に出てたんだから。
今だってね 古いおなじみの

お客さんが
たくさん 来て下さるんだから。

そしたら おばあちゃんも
寂しくないよ。 うちじゃ

周りに 知ってる人なんか
いないんだもん。

そうね…。 希望ちゃんの気持ちは
ありがたいけど

ここなら 私も近いし…
私が ここへ来るようになれば

私だって 母さんの世話
してあげられるでしょ。

(圭)これで 僕も 東京に やっと
帰れるよ。 おばあちゃんが

初子おばさんの所で
暮らしてくれるんだったら

ホントに安心だもんね。
大丈夫。

母さん うんと大事にして
長生きしてもらうから!

うん。

そう。 明日 東京へ帰るの。

じゃあ 春休みまで
もう 会えないんだね。

何かあったら すぐ帰ってくるさ。
新幹線なんだもん すぐだよ。

圭が 今度 帰ってきたら
もう おばあちゃん

このうちには いないだろうね。
せめて 庭の木だけでも

持っていきたいと
思ってたんだけど

庭がないんじゃ
しょうがないしね。

だったら うちへ植えとけば?
父さんに 話しとくよ。

そしたら いつだって
見られるじゃないか。

おばあちゃんだって いつまで
生きてるか 分かんないのに

なにも わざわざ
そんな事しなくったって…。

おばあちゃんには
長生きしてもらわなきゃ!

僕ね…

大学 出たら 商人になる。
きっと 店を持って

加賀屋の暖簾を
かけてみせるからね。

それ おばあちゃんに
見届けてもらうんだ。

圭…。

おばあちゃんと 旅ができて
よかったんだよ。

僕には 加賀屋の人たちの血が
流れてんだ。

それを誇りにして生きていける。
もう 迷わない。

おばあちゃんから
加賀屋の話 聞かなかったら

僕は つまんないサラリーマンで
一生 甘んじてた。

バカな生き方
するとこだったんだよ。

圭の その言葉を聞いただけで
おばあちゃん 十分だ…。

圭が そういう気持ちに
なってくれただけで

おばあちゃん いつ死んでも

お加代様に 大きな顔して
お会いできる。

大威張りで
圭の自慢話するからね。

おばあちゃん…。

おばあちゃんね このごろ

長生きし過ぎて
悔やまれる事もあるけど

いろんなものを見定めて
死ぬっていうのも 悪くないね!

圭がね 加賀屋を再興する気持ちに
なってくれたなんて!


あっ。 電話だ。

はい。 はい 分かりました。

おばあちゃん。
うん?

電話。
はいはい。

どうぞ こちらでございます。

どうぞ。

(浩太)どうも
わざわざ お呼び立てして…。

いいえ 私の方こそ 一度
ご挨拶に伺おうと思いながら

もう 何やかやと取り紛れまして
申し訳ございません。

いや 私も
お宅の様子を うかがっちゃ

どうなさったかと
気には してたんですが…。

ご心配を おかけ致しました。

あんまり 芳しくない噂も
耳に入ってきますが まさか…。

はい。 この月末に
一応 たのくらを整理する事に

息子も 心を決めたようです。
嫁や孫たちも覚悟したようで…。

やっぱり 新しい店は
たのくらには 分が過ぎてました。

いや~ 仁さんの着想は
間違ってはいなかった。

もし 私が
土地を売りさえしなければ…。

そう思うと
妙に 落ち着きませんでね…。

いいえ。 あれは
私が お願いした事ですから。

おしんさんの気持ちが分かるから
土地を譲渡したんだが…。

それが ここまで
たのくらを追い詰めるとはね…。

もう 済んでしまった事です。
おしんさん…。

私は 83になる今まで
精いっぱい 生きてきました。

何にも 後悔なんかしてません!

これから 仁が どう生きるかは
仁の根性一つに かかってます。

今度の事でも 仁には いろいろ
骨身にしみた事と思います。

それは それで
よかったと思うんです。

このくらいの つまずきで
立ち上がれなかったら

仁も
それだけの人間だったんです。

どうぞ もう
ご心配下さいませんように…。

おしんの表情は 爽やかであった。

…が それが かえって
浩太の胸を えぐっていた。

同じ時代を生きてきて お互いに
愛し合いながら結ばれず

別々の道を歩いてきた おしんは

浩太にとって
愛を超えた同志であった。

その おしんの不幸は

浩太自身が受けた傷のように
浩太の痛みになっていた。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

(道子)ええ。 黙って
お出かけになったまんま…。

禎さんの所へも 初子さんの所にも
電話しました。

希望さんの所も…。 でも
どこへも いらしてないんですよ。

ええ。 お出かけになる前に
お母さんの所へ 電話があって…。

お店が こんな事になって
お母さんも

気を落としてらっしゃるだろうし
第一 お年ですからね。

(仁)交通事故か
急病で倒れたんなら

何か知らせがあるだろ。

そんな事で
いちいち 電話しないでくれよ。

忙しいんだから。

(辰則)お母さん
どうかなさったんですか?

3時ごろ 行き先も言わないで
出かけたまま

何の連絡もないそうだよ。

道子のやつ 自殺するんじゃ
ないかって。 バカバカしい!

そんな しおらしい おふくろかよ。

お姉さんが心配なさるの
無理ありませんよ。

時が時ですからね。

いや そんな事ぐらいで
死んでたら

今までに おふくろ 何回
死んでたか 分かりゃしないよ。

君も道子も知らんだろうが

おふくろの戦中戦後の
苦労なんて…

あれで
よく生きてこられたと思うよ。

兄貴は戦死する。 親父は自殺する。

金も家もないんだ。
あれ以上の どん底なんて

今の若い者には
想像も できんだろうが

それでも ふんばった
おふくろだよ。

これくらいの事で…。

そんな どん底から たのくらを
ここまでに なさったんです。

それだから 余計 今度の事は

こたえておいでなのかも
しれません。

君まで そんな事を…。

しかし 親不孝しちまったよ…。
俺は おふくろの苦労を見てきた。

いや だからこそ おふくろの夢を
かなえてやりたかった。

兄さん…。

まあ その辺で フラフラしてるさ。
そのうち ケロッと帰ってくるよ。

(辰則)あっ お帰りなさい。
お疲れさまです。

(剛)また 20名近くの
退職希望者が出ました。

全店にわたってます。

整理するのは
まだ 極秘になってるのに

どういう事ですかね?
今の たのくらの業績 見てたら

誰だって それぐらい
分かりますよ。 まあ 早いとこ

ほかの仕事を探した方がいいと
思うのは 人情でしょう。

そりゃ そうだ。
スーパー 続けるとは 限らんからね。

この期に及んで 退職金
工面しなきゃならんなんて…。

全く 「泣きっ面に蜂」ですな。

まあ いずれ 全従業員に
引導を渡す事になるだろう。

退職金だけは
借金してでも 用意してくれ。

おふくろの命令だからね。

(浩太)私は
おしんさんと会った時から

「おしんさんには
幸せになってほしい」

そう 思い続けてきた。

それなのに
小作の解放運動をしてる時

何度 おしんさんに
迷惑をかけたか…。

それに おしんさんの一生を
狂わせたのも 私だ。

「少しでも その償いをしたい」
そう思ってきたのに…。

こんな大事な時に
何の力にもなってあげられない。

ふがいない話です。

(おしん)いいえ。

こんな立派な所で 御馳走になって
浩太さんに慰めて頂いて

ホントに ありがたいと
思っております。

私は おしんさんに
何度も慰められた。

また 励まされもした。

しかし こんな事で おしんさんを
慰めるはめになるなんて

思ってもいなかった…。

残念です。 ホントに無念です。

浩太さん
私は よかったと思ってます。

店が うまくいってる時には

家族の者みんなが
自分勝手な事をして

ほかの家族への
いたわりや思いやりなど

まるで なかったんです。

でも いよいよ
たのくらが駄目だと分かると

お互いに 肩を寄せ合って

暮らしていこうと思うように
なるんですね。

わがまま放題だった孫娘も
真面目に働くって言ってますし

嫁も 私に 心を
開いてくれるようになりました。

やっぱり 何かあると
人間同士の触れ合いってものが

できるんですね。
自分が 傷ついてみて

初めて 人の痛みが
分かるんでしょうし

自分が のし上がるために

人を踏みつけにしても平気だった
仁のためには

ホントに いい薬になったと
思ってます。

人間にとって 何が 一番 大事か
もし それが 仁に分かれば

今までのもの
みんな 捨ててしまっても

安いもんじゃありませんか。

おしんさんらしい考え方だ。

おしんさん
昔と 少しも変わってない。

ちょっと
荒療治だったかもしれませんが

このくらいの事でもなきゃ
たのくらの人間も

本当の幸せなんて知らずに
終わったかもしれません。

しかし 今は 昔と違う。

立ち直るのも
並大抵の事じゃない。

家族の心が通い合ったとしても
もし 路頭に迷うようになれば…。

♬~

浩太さん
お加代様の孫になる圭って子が

加賀屋を再興してみせるって
言ってくれたんです。

長生きし過ぎて
恨む事もありますが

うれしい事もあるんですね。

♬~

(玄関のチャイム)

お母さん?
≪はい 私。

あ~ よかった! もう…。

お帰りなさい!

どちらへ いらしてたんですか?
(あかね)もう おばあちゃん!

お母さんったら おばあちゃんが
自殺でもしたんじゃないかって

心配して 御飯も食べずに
オロオロしてたのよ。 バカみたい。

(みどり)電話ぐらい するもんよ。
今ね お姉ちゃんと

警察に頼みに行こうかって
相談してたんだから。

そりゃ 悪かったね。
おばあちゃんなんか いなくても

誰も 気にする人なんか いないと
思ってたから…。 どうして?

おばあちゃんは 年なの。
昔とは 違うんだから。

勝手に出歩いて もしもの事でも
あったら どうするの?

はいはい 以後 気を付けます。

さぞ お疲れでしょう。
お風呂 沸いてますから。

ありがとう。
あ~ よかった。

道子や孫娘たちが

おしんの事を心配してくれたのは
初めてであった。

それが
おしんには うれしかった。

…が やっと おしんにも
家族らしい触れ合いを

見せてくれるようになった
道子や孫娘たちとも

別れて暮らす日が
近づいていたのである。

1月の末
手ごろな借家が見つかり

田倉家は
慌ただしく 引っ越す事になった。

春には まだ遠い日の事であった。

(初子)よいしょ。 まだ 倒産って
決まった訳じゃないんだから

なにも そんなに急いで
引っ越しする事ないのにね。

母さんだって 一日でも長く
このうちに いたいでしょうに…。

遅かれ早かれ ここは
出ていかなきゃならないんだし

いざって時 慌てるの嫌だからね。
何となく 落ち着かないんだよ。

母さん
ここのお庭 好きだったのにね。

うちは 庭もないし 家も狭いし…。

やっぱり 希望ちゃんの所の方が
よかったのかしら…。

どこだって一緒だよ。

雨露がしのげて
ひもじい思いさえ しなかったら。

事業に失敗したなんて
言ったってね

昔の貧乏とは 大違いだよ。

ホントの貧乏は 大根飯も
食べられなかったんだからね。

母さん うちへ来たら うんと
好きなようにしてちょうだいよ。

私も 今は 母さんの事
不自由させないくらいには

なったんですから!

今頃になってね
初ちゃんの世話になるなんて

ホントに申し訳ないと思ってんだよ。
何 言ってるの!

私は 今まで ず~っと 母さんと
一緒に住みたかったのよ。

だけど 仁ちゃん夫婦の手前
差し出た事もできないし…。

母さんだってさ 道子さんに
あんな冷たい仕打ちされながら

「ここが 私のうちだ」なんて
頑張ってるんですもん。

今まで 随分 歯がゆい思い
してきたのよ。 それが

やっと うちに来てもらえるように
なったんだから。

うんと うんと
大事にしますからね。

なるべく 迷惑かけないつもりで
いるんだけど

まあ 何てったって
母さん もう 年だからね。

大丈夫。
たとえ 寝たきりになったって

私が ついてますから!

母さん…
私は 母さんのおかげで

人間らしい生き方が
できるようになったのよ。

その事 考えたら

どんなに 母さん 大事にしても
足りないくらいなの。

希望ちゃんだって
同じ考えなんだから

大船に乗ったつもりで。
ねっ 母さん。

そろそろ
母さんの荷物 出しますよ。

はいはい。
いつでも 運び出せますよ。

仁ちゃんも
今日 出てっちゃうの?

いや 今日一日じゃ
片づきそうにないから

残った物は
明日 運ぶつもりだよ。

今夜 みんなで この家で
最後の夕飯を食おうってね。

初ちゃんも母さんも一緒に。
母さん だって 今日から うちへ。

食ってから行ったって いいだろ?
あ~ そうね。

母さん
このうちとばかりじゃない

みんなとも
今日で お別れですもんね。

嫌だね お別れだなんて…。
母さん しめっぽいの ごめんだよ。

出ていくったって
外国へ行く訳じゃあるまいし…。

会いたいと思ったら
いつだって会えるじゃないの。

そりゃそうね。 御飯だってさ
みんなと食べたきゃ

仁ちゃんの所に行けばいいんだし
うちに みんなに

来てもらったっていいしね。

(希望)いや~
遅くなってしまって。

うちで預かる荷物があったら
出してくれていいよ。

弟子に ちゃんと
言っておいたから。 すまんな。

今度の家は狭くて
とても みんな置けないんだよ。

1つ 物置を建てた。
大事に預かっとくよ。

母さん… やっぱり 一つ釜の飯を
食って育った兄弟というのは

いいもんだね。

(禎)大変な御馳走ね。

(道子)だって このうちでする
最後の お夕飯ですもの。

みんなで
楽しく 思い出話でもしながら

うんと にぎやかにしましょ!
お別れじゃないのよ

田倉家の新しい門出のお祝い!
そうね!

あらあら 大変だね。
私も 手伝おうか。

(禎)邪魔 邪魔!
(初子)いいの。 母さん座ってて。

(道子)お母さん すいません
お吸い物の味 見て頂けます?

はいはい。 どれどれ…。

お願いします。

どうですか?

うん。 もう少し お塩を
きかせた方が よさそうだね。

はい。
こんな事になるんだったら

もっと お母さんに
お料理 教わっとけばよかった。

母さん! 並木の大旦那が来てる。

何の用か知らんが よく
うちの敷居が またげたもんだ。

あっ そこ 段になってる。
はい。

浩太さん…。

あっ おしんさん
折り入って 話があります。

いや しかし 今日 引っ越しとは
思ってもいませんでした。

おしんさん 気が早すぎます。
諦めが よすぎます。

突然の浩太の来訪に

おしんは ただならないものを
感じていた。

それが どんな話なのか
おしんには 見当もつかなかった。

♬~

♬~
(テーマ音楽)

♬~

(おしん)仁 ちょっと来ておくれ。
並木さんが

お前に話したい事があるからって
わざわざ お見えになったんだよ。

(仁)今更 何の話があるって
言うんですか?

言い訳なら たくさんだ。
仁!

(希望)じゃあ
私が代わりに挨拶しよう。

私には 恩のあるお人だ。
仁の事は うまく繕っとくよ。

いいんだよ! 俺にも
言いたい事がある。 いい機会だ。

お待たせ致しました。 仁…。

(浩太)仁さん

17号店を肩代わりしてくれる
という話があります。

例の大手のスーパーが
今の店の姉妹店に

十分 利用価値がある。
そう判断したそうです。

あの… 肩代わりっていいますと?

銀行からの融資を
大手のスーパーが引き受ける。

つまり 買収するって事です。

買って下さるんですか?
あの店を。

今の たのくらの足を
引っ張ってるのは 17号店です。

あの整理が うまくいけば
たのくらの首を絞めてる借金は

ほとんど無くなってしまう。
そうじゃないんですか?

実は 私が
勝手に 事を進めたんですが

何と言っても
仁さんの長年の夢の店です。

それを むざむざ 敵の手に
渡す事ができるかどうか…。

しかし まさか あの店を…。

いやいや 大手には大手の
経営方針があるんでしょう。

損な話には 乗ってきません。

もし おしんさんと仁さんが
その気に おなりなら

早速 交渉に入らせます。
仲介の労は 及ばずながら 私が…。

浩太さん…。

ありがとうございます!

あの店の借金さえ 無くなれば
たのくらは 生き残れます。

実は 今まで あの店の買い手を
探すのに 随分 奔走しました。

投資した半分でも回収できれば

あとの16店で
なんとか やりくりして

切り抜けられると
努力したんですが

たのくらが持て余してるものを

引き受けてくれる所なんて
ありませんでした。

もし 並木さんのお話が本当なら
こんな ありがたい事は…。

また 浩太さんに ご迷惑を
おかけする事になりますね…。

いやいや
今 たのくらを潰したんじゃ

私は 悔いを残して
あの世へ行く事になります。

長い長い おしんさんのつきあいを
そんな形で終わらせたんじゃ

死んでも 死にきれない。

あの大手のスーパーの重役に
親しいのが いましてね。

その人の親父さんとは
昔の農民運動の同志だったんで…。

そういう つきあいのがいますから
私に お任せ下さい。

仁…。

母さん…。

もう少し早く 結論が出てれば

引っ越しなんてなさらなくて
済んだものを…。

申し訳ない事しました。

とんでもない。 あと何日かで
不渡りを出すとこでした。

それを思えば 引っ越しなんて…。

じゃあ 早速 手を打ちましょう。
忙しくなりますよ。

はい。 よろしく お引き回しのほど
お願いします。

≪(道子)失礼致します。

遅くなりました。

はい どうぞ。

あなた 辰則さんから 電話で

大至急 店の方へ
来てほしいんですって。

今日は もう 引き揚げてこいって
言いなさい。 でも…。

いいんだよ! あっ それから
引っ越しは 中止だ。

(道子)えっ?
(仁)みんなに そう言いなさい。

(道子)あなた…。
(仁)そう言えば いいんだよ!

≪(一同の笑い声)

(辰則)これは
一体 何のまねですか!?

こんなドンチャン騒ぎしてる場合じゃ
ないでしょ!

うちを危ないと見た業者たちが
押しかけてきて

私と剛君じゃ
どうにも対応できないから

兄さんに来てくれって
電話したって来てはくれないし!

一体 どういう事なんですか!?

君も座って まあ 一緒に…。
(辰則)兄さん!

辰則さん 悪かったわね。
あなたが見えてからね

事情を話せばいいって
仁が言うもんだから。

(禎)もう 銀行だ 業者だって
心配する事ないの!

たのくらは 助かったんですよ!

(仁)17号店の買い手が
ついたんだよ!

銀行の融資を
肩代わりしてくれるそうだ!

そりゃ つぎ込んだものは
みんな 返ってくる訳じゃないよ。

足元を見て
買いたたかれるだろう。

しかし 残った借金くらいは
16店が助かれば

なんとか
返済のめどが立つんだよ!

あとは 振り出しに戻って
地道に 16店 守っていくんだよ!

(禎)弘たちにも ここに来るように
言ったから そろそろ…。

(辰則)ああ…
剛君は まだ知らないんだ。

(みどり)じゃあ 私 電話かける。
(道子)頼むわ。

辰則さん ホントに御苦労さま。

仁の陰で
さぞ つらかったでしょう。

ありがとう。

(仁)ホントに 君のおかげだよ。
君がいなかったら

俺は とっくに
たのくら 投げ出してたよ。

よくやってくれたよ。

希望と初ちゃんにも感謝してるよ。

自分たちの家や土地を売って
協力するって言ってくれた。

つくづく 小さい時から
苦労を共にして 大きくなった

兄弟っていうのは
いいもんだと思ったよ。

いいよ もう そんな事は…。
お別れの夕飯が

お祝いになったんだ。
さあ にぎやかにやろう!

どん底を味わってみて 初めて
いろんなものの ありがたさが

身にしみたよ。
母さん ありがとう。

道子も ありがとう。 希望も
初ちゃんも 禎も 辰則も

みんな ありがとう!
本当に ありがとう!

(辰則の泣き声)

♬~

(仁)兄貴に比べたら
俺は 駄目だな!

この年になって
母さんがいなきゃ

商売も 満足に
やっていけないんだもんね。

雄だってね
生きてたら どうなってたか…。

死んだ者は よく見えるんだよ。

生き残って比べられる仁は
かなわないよね。

しかたがないさ
俺 出来悪いんだよ!

仁! ほらほら 大丈夫かい?

百合も泣かせた。 店 出すのに
いろんな人 泣かせてきた。

しかし 俺は 力のあるやつだけが
生き残れるって信じてきた。

生き残るためには
力で押し切るしか

しかたがないんだってね。
たのくらが危なくなった時

そういう生き方をしてきた報いを
受けたと思ったよ…。

しょうがないね もう。 あ~あ。

♬~

浩太の尽力で
たのくらの17号店は

大手のスーパーに
買い取られる事になり

3月の初めには
全ての取り引きが終わり

たのくらは
今までの16店を立て直して

再出発する事になった。

♬~

(汽笛)

(浩太)仁さんや希望さん
見てたら

ホントに 長く生きてきたっていう
気がします。

長く生き長らえられたとは…。

私たちが死んでしまったら

小作運動や弾圧で苦しんだ
人間がいた事など

忘れられてしまうんでしょうね。

奉公のつらさや 戦争の残酷さは
話では残っても

本当の痛みが分かる人は
いなくなってしまうんでしょうね。

おしんさん
いつか 「何の悔いもない」って

おっしゃってましたね。

はい。 その時 その時
精いっぱい 生きてきましたから。

おしんさん 私はね

もし おしんさんと
一緒になれてたら

もっと違う人生を
生きたような気がします。

私は 今でも これでよかったと
思ってます。

別々に 生きてきたからこそ

いつまでも いいお友達で
いて頂けたんですよ。

これからは 時々 私の方へも
お遊びにいらして下さい。

同じ思い出を温め合えるのは

浩太さんだけに
なってしまいました。

ホントに 誰も
いなくなってしまいましたね…。

♬~

(犬の鳴き声)

お散歩でいらっしゃいますか?

お幸せそうですね。
どうぞ いつまでも お元気で…。

ごめんください。

♬~