捌拾玖.2次会は出会いのチャンス
かぐや姫といったらあの竹取物語のかぐや姫だよな。そういえば、俺が生まれた時のあれは竹の中だったのか。その後も確かに爺はよく竹を取りに行っていた。確かに竹取物語と符合する点は多い気がする。
ちなみに「なよ竹」とはしなやかな竹のことで「かぐや」は光が揺れるという意味のかがようの変化で、竹林に漏れる月の光を表した名前だ。
爺「いい名前です。かぐや姫、あなたは今日からかぐや姫です」
俺「はい。秋田さま、素敵な名前をありがとうございます」
(サービスだ。押さえている魅力をほんのちょっとだけ解放してやろう)
周りが苦しくない程度に魅力を解放した俺は、まるで暗い部屋の中に咲いた明るい花のようで、その場にいる人の心を晴れ晴れとさせるようだった。
秋田「…、とんでもないです。かぐや姫さまのその笑顔が見られただけで、私は満足ですよ」
秋田は恍惚とした表情でそう言った。見れば周りの人々も一様に幸せな表情で呆けていた。
俺「お爺さま、お爺さまっ」
爺「……、ああ、ごめんごめん。思わずかぐや姫の美しさに見とれていました。…祝宴の準備は整っていますか?」
女房「はい。準備万端でございます」
その返事を受けて、俺、爺、婆、秋田は祝宴の席に向かった。除目の後なら雪も列席するのだが、まだ貴族になっていないので俺専属の給仕係として祝宴には参加することになっていた。
◇
身内のみで行った儀礼的な裳着の祝宴の後は、様々な貴族が入れ替わり立ち替わり訪れる大規模な祝宴が開催された。世間では
大規模な祝宴が始まってから、俺と婆は来賓が集まる席からは離れた席に座り、歌や舞を鑑賞していた。雪は俺の用事をすぐに聞けるように側に控えるように言ったため、事実上俺に列席する形になっていた。爺と秋田は来賓をもてなすために来賓席にいた。
来賓席の方では、歌や舞よりも俺に対する関心の方が強いらしく、祝宴の間中、来賓席から刺さるような視線を感じていた。
俺「お婆さま、どうも落ち着きませんわ」
婆「かぐや姫、そんなことを言わないで、あなたもあの方々をよく見ておきなさい。今日の祝宴には公卿の方も参加していらっしゃいます。あなたの結婚相手もあの中から選ぶことになるかもしれないのですよ」
俺「けっ、結婚はまだ早いでございますよ」
婆「かぐや姫、あなたがいくら天より授かった子といっても、女である以上容姿は衰えるのです。自分の美しさを過信しているといつか誰にも振り向いてもらえなくなるかもしれませんよ」
俺「ええ、わかってますわ。だからこそ、私はじっくりと相手を見定めたいのです」
俺はそう言って来賓席の方に目を向けた。別に結婚相手を探すわけではないが、どんなのが俺に惹かれて集まってきているのかという好奇心も助けたのだ。
(あれ? あれは中納言? それに関白もいやがる)
気づくと以前平安京散歩をしているときに絡まれた貴族たちがいるのが見えた。正確には絡んできたのは関白だけで、中納言はむしろ俺を助けたのだが。
(亀、元気にしてるかな)
婆「誰か気になる方でもいらっしゃいましたか?」
俺「いっ、いないですよっ」
婆「ほら、見てご覧なさい。関白さまもいらっしゃいますよ。お美しいですね。雪もそう思いませんか?」