【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権は21日、新型コロナウイルス対策として検討する大型景気刺激策が2兆ドル(約220兆円)規模に達すると表明した。米経済は4~6月期に2桁のマイナス成長に転落するとの観測が浮上。連邦政府が中小企業の給与支払いを肩代わりする支援策などを新たに盛り込み、家計や企業の資金ショートを防ぐ。野党・民主党と詰めの協議を急ぎ、週明けの採決を目指す。
トランプ政権のクドロー国家経済会議(NEC)委員長は21日、記者団に「経済対策の総額は国内総生産(GDP)の10%程度になるだろう」と述べた。米名目GDPは21兆ドルで、景気刺激策は2兆ドル規模になる。米政権は1兆ドルの経済対策を要求していたが、税の支払いを大幅に猶予する施策なども盛り込む。実現すれば2008年の金融危機後の経済対策(7000億ドル)を大幅に超える景気刺激策となる。
米政権は21日、ムニューシン財務長官を中心に、マコネル院内総務(共和党)やペロシ下院議長(民主党)ら議会指導部と経済対策の詰めの協議に入った。記者会見したペンス副大統領は「23日に上下両院での採決を目指す」と表明。米国は感染者が2万人を超えて社会不安が強まっており、早期に大型経済対策を打ち出す必要がある。
米政権と共和党が検討する景気対策では、中小企業支援に3000億ドルを充て、雇用と給与の支給を維持すれば返済を不要にする制度を盛り込んだ。事実上、連邦政府が企業の給与支払いを肩代わりする仕組みで、解雇やレイオフ(一時帰休)を防ぐ狙いがある。航空会社や宿泊業など新型コロナの影響が大きい産業にも2000億ドルの特別支援枠をつくる。
もう一つの経済対策の柱は、大人で最大1200ドル、子供は500ドルとした現金給付策だ。トランプ政権で米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたケビン・ハセット氏は「4月の雇用統計は過去最悪となり、就業者が200万人減る」と予測。現金支給で家賃や食費などを緊急支援する狙いがある。
企業や家計が手元資金を潤沢に確保できるよう納税猶予も盛り込んだ。19年分の連邦法人税や個人所得税などは申告期限を4月15日から7月15日まで延ばす。トランプ氏が「免除する」としてきた給与税は、徴税を1~2年猶予する方向だ。家計と企業の納税猶予は、総額で1兆ドル規模に達する可能性がある。
米連邦議会は与党・共和党が上院で過半数を占めるものの、下院は民主党が多数派だ。景気対策の成立には超党派の支援が欠かせないが、民主党は「企業への資金支援が、自社株買いや経営者の報酬に充てられないような制限が必要」(シューマー上院院内総務)などと主張。経済対策の詳細を巡って駆け引きが続いている。採決が遅れれば、金融市場の一段の混乱を呼ぶ可能性がある。
米ゴールドマン・サックスは米経済見通しを再び下方修正し、4~6月期の成長率をマイナス24%(前期比年率換算)と前例のない落ち込みになるとした。ただ、新型コロナの感染拡大を食い止められれば、7~9月期は一転して12%増という大幅なV字回復が可能だとも予測する。企業の倒産を防いで雇用環境を維持できれば、景気ショックを短期で収束できるためだ。そのため経済対策も短期的な資金供給に力点を置き、産業と雇用の維持を優先する。