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公文書改竄で自殺した近畿財務局職員の「手記」を手に、私は石破茂に会いに行った

佐藤章 ジャーナリスト、慶應義塾大学非常勤講師、五月書房新社編集委員会委員長

「末端の逮捕」で形をつくる検察

 時の経過を見る限り、最初に、理由なき破格の安値での国有地払い下げがあった。この払い下げの背後には、時の首相、安倍晋三の妻、昭恵の存在があった。

 次に「私や妻が関係していたら総理も議員も辞める」という安倍自身の国会答弁があり、これを受けた形で佐川理財局長の取引経過文書の改竄指示があった。

 この公文書改竄を見た検察庁が動き出し、その末端作業に携わった赤木氏自身に対して任意での事情聴取要請が来た。その時に赤木氏が走り書きした手書きの文書。

 「理財局の体質はコンプライアンスなど全くない これが財務官僚王国 最後は下郎がしっぽを切られる」

 この言葉に込められた怒りと恐怖、寂寥感とはどういうものだろうか。

 内閣人事局を通じて幹部官僚人事に介入し続ける安倍政権。その政権中枢に今の検察が手を突っ込めるはずはない。そうであれば、官僚組織のひとつ検察庁は、最末端の実行者である自分を逮捕起訴して形を整えるにちがいない。

 完全な「冤罪」に終わった小沢一郎の「陸山会事件」を取材したことのある私には、赤木氏のこの心理状態はよくわかる。「陸山会事件」でも、検察は事実関係を度外視して元秘書の犯罪でまとめようと元秘書に手打ち話を持ちかけてきた。(小沢一郎戦記(33)『国会議員を「この野郎」と脅した東京地検特捜部の副部長』参照)

 政権中枢や財務省幹部を被疑者にすることのできない検察は、必ずや末端の自分を逮捕して最低限の事件の形とするだろう。煉獄の日々の果てに待ち構えるこの日を思い浮かべ、赤木氏は、誰にも相談できない孤立無援の自身の影を見詰めたにちがいない。

 一方、今回、赤木氏の妻から「手記」の提供を受けて『週刊文春』にスクープ記事を書いた相澤冬樹氏の著書『安倍官邸vs.NHK』(文藝春秋)によれば、2017年5月から6月にかけて、東京地検は出来るだけ早く籠池前理事長を逮捕して詐欺事件として問題を収束させたいという願望を抱いていたようだ。

 事件報道に集中し、地検の動きなどに注意を傾けていれば、この検察の姿勢を通じて、事件は「トカゲの尻尾切り」で終わることが推測できただろう。

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト、慶應義塾大学非常勤講師、五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

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