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【社説】

欧州で感染拡大 EUの真価が問われる

 新型コロナウイルスの欧州での感染拡大が止まらない。各国が入国制限に走るのはやむを得ない。しかし、ウイルス封じ込めのためには、欧州各国間の信頼と結束も忘れてはなるまい。

 特に感染がひどいのがイタリアだ。感染者は四万一千人、死者は三千四百人を超えた。

 六十五歳以上の高齢者の割合が23%と欧州連合(EU)加盟国で最も高い上、中国と「一帯一路」構想で協力する覚書を交わすなど関係を深めていた。一月末に中国との直行便を停止したが、ウイルス検査を中国と関連を持つ人に限ったため、感染を見逃した可能性もある。医療関連予算が削減され医師や看護師が足りなかったところに、感染の拡大で集中治療室や人工呼吸器の不足に拍車を掛け、医療崩壊の状態になった。

 感染はEU諸国に広がり、各国は国内移動の規制を強化、欧州らしいにぎわいは消えた。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は「欧州がパンデミックの中心地」と指摘、フランスのマクロン大統領は「われわれは戦争状態にある」と緊急事態を強調した。

 二十六カ国が国境検問を免除し合うシェンゲン協定が感染拡大の一因との指摘もあり、入国制限に乗り出す国が相次いでいる。当初、国境封鎖に反対していたドイツも、周辺五カ国からの入国制限に踏み切った。メルケル首相は「人口の60~70%が感染する恐れがある」と危機感を強めていた。

 シェンゲン協定は、EUの基本理念である移動の自由を保障したものだ。国境封鎖はこれに逆行するが、感染拡大を防ぐための非常措置ととらえるべきだろう。

 各国はマスクの輸出禁止など自国第一の対策を進めているが、周辺国との共存共栄というEUの理念も忘れてはなるまい。

 当初、存在感の薄かった欧州委員会も非EU市民の域内入りを禁じる措置を発表し、EU全体としての対策に乗り出した。各国の自国中心主義が行き過ぎないよう、指導力を発揮すべきだ。

 加盟国それぞれが、歴史の苦難を乗り切ってきた知恵を持つのがEUの強みだ。感染の不安に乗じた反EUのポピュリズムに走ることなく、結束して難局を乗り越えてほしい。

 トランプ大統領の米国第一主義などで今、国際社会の溝は深まっている。感染拡大は日本を含め世界が直面する難題だ。いがみ合っている場合ではない。国際協調で感染対策を進めたい。

 

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