捌拾弐.文武両道
俺「とっ、とにかく落ち着いて、まず話をしよう」
雪「そうです、竹姫さま。話をすることは大切なことですわ」
よかった。どうやらいきなり雪に押し倒されるという事態にはならなくて済みそうだ。
俺「どうしてこんな時間にいきなり来たの?」
雪「竹姫さま。そんな質問は野暮です。そうではなく、もっと歓迎の気持ちを全身で表さなければいけません」
俺「へ?」
雪「こんな時間に来る理由なんて1つに決まってるじゃないですか。竹姫さまといちゃいちゃしたいから以外の何があるんですかっ」
(雪、キャラが変わっちゃってるんだけど…)
俺「あの、雪? もしかして、誰かに何か言われたりしたの?」
雪「誰にも何も言われてません。私の独断です。私は竹姫さまにお幸せになっていただきたいのです」
俺「それって雪の趣味なの?」
雪「趣味じゃありません。私だって恥ずかしいです。ですが、これはみんなやることなんですよ」
(そうなのっ!? もしかして清少納言も紫式部もみんな中宮様とやってるの? ちょっとマジで古文と日本史に対するイメージが変わっちゃうよ)
俺「で、でも、まだ裳着もしてないし…」
雪「だからこそですよ。裳着が終わったらもしかしたらすぐに本番で実戦かもしれないんですからねっ」
(本番!? 実戦!? 一体、俺は何をやられちゃうの?)
俺「ごめん、雪。やっぱり話が全然見えない。本当は一体これから何をやるの?」
(なんか、すごいエロいことだと思い込んじゃってるけど、実は違うんだよね。もっとマジメな何かを俺が勝手に勘違いしてるだけなんだよね)
雪「エッチです」
(勘違いじゃなかったー)
俺「なんで!?」
雪「練習です」
俺「……、へ? 練習?」
雪「そうです。練習です…………。なっ、なんだとお思いになりられなられたんですかっ!」
雪は慌てたせいで敬語がおかしくなってしまった。顔はいつの間にかゆでダコになっている。
俺「……、雪が本気で私とエッチしたいのかと……」
雪「ちっ、違いますよっ。じょっ、女性は男性に寵愛を受けて何度も通ってもらうために、文化的教養を身につけるだけじゃなくてエッチの方もちゃんと練習しておかないとダメなんですっ。わっ、私はっ、たっ、竹姫さまの練習のために、つっ、つかっ、てっ、……」
俺「雪っ、大丈夫っ」
やばっ、ちょっと衝撃的な展開すぎて魅力を抑えそこねて漏れ出してた。
雪「あっ、だっ、大丈夫です。…、ふぅ。なんとか…」
俺「よかった。…、でも雪、そんなんじゃ練習台にならないよ」
雪「申し訳ございません…」
しかし、なるほど。たしかにこの時代は通い婚で一夫多妻だから、男に足繁く通ってもらえるかどうかはそういうテクにも依存するのかもしれないな。美人は飽きるとか聞いたことあるし、大体夜は暗くてお互いの顔なんてほとんど見えないわけで、肌を合わせた感触とテクだけがすべてだもんな。
(って、俺、今、冷静に考えてるけど、そんなテク、身につけたくないよっ。男としてまだ未経験なのに、実は男相手ならテクニシャンでしたなんて悲しい現実すぎるんだけど)
ここの練習のくだりは創作で、こんなふうに女性同士で練習したかどうかはわからないですが、男性相手だともはや練習じゃない気がするし、練習がなかったとは考えにくいかなと思うので、やっぱり女性同士練習したんじゃないでしょうかね。
母親が娘に教えたり、女房相手に新しい技を開発してみたり、逆に女房から成功体験を伝授してもらったり。エロスの世界として見たらかなりアレな世界だとも言えるんですが、当事者としてはむしろ相当真剣に悩んでたんじゃないかなと思ったりします。