スケジュール帳見返すと7月と変わんないハードスケジュール組んでた事に気づいて唖然としとりました。
まぁそんなこんなで上編最後、どぞ……………………
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「それで、どうなりました」
マルクスが何も無い空間に話し掛けると突然、その空間から一体の半獣が現れた。
セクメトの伏兵。レベルは幻兵隊最高の八四。
隠密状態からのシックルソード二本による奇襲を得意とするモンスターだ。
ちなみに何故かマルクスの配下の中で最も多く召喚されているシモベでもある。
その為、マルクスはこのシモベを自身の護衛としてだけでなく索敵や情報収集など様々な任務を与えているが、やはりマルクス個人としては部隊としての能力の偏りが気になる所だ。
もっとも、偉大な存在の考えを知る事など自分程度には不可能だということは理解している。
それに伏兵は汎用性が高く重宝しているのは事実だし、背格好が人間の女性とほぼ同じというのも良い。
現れた伏兵は片膝をつき、深々と頭を下げた。
踊り子のような衣装に付けられた薄衣が揺れ、
「申し訳ございません。足止めに失敗致しました」
その言葉を受け、マルクスは一つ頷いた。
「そうですか。では、予定通り始めて下さい。貴女もいつまでも頭を下げている必要は有りませんよ」
「しかし、私は与えられた任務もこなす事が出来ませんでした。配下がこれではマルクス様に申し訳が立ちません」
伏兵は自身の愚かさを悔いているが、マルクスにとってはこの伏兵に与えた任務の重要度は極めて低い。
それに同じように配下に連なる者として、その態度は好感が持てる。
「元々駄目押しの為の計画をその必要が無くなったから中止しようとしただけです。気にすることでは有りません。それより次の任務を完璧にこなせるよう努力すれば良いのです」
「了解致しました。ありがとうございます」
感謝の言葉を残すと再び伏兵の姿は見えなくなり、完全に気配が消えた。
「さて、それでは他の者達にも予定通り動くよう伝えて下さい」
「畏まりました」
部屋の窓を開け、猟兵達が羽ばたいて行った。
最後の一体が窓を閉め、飛び立って行くと部屋にはマルクスと警備兵だけが残された。
「マルクス様」
「うん? どうしました」
「あの人間の女はいかが致しましょう?」
名前を出さなくてもこの屋敷に人間の女は一人しか居ないので迷う事は無い。
「そうですね……では、接近が分かった段階で警告だけ行って下さい。その後は放置で構いません」
「了解致しました」
出来る事なら少し戦わせて実力を見ておきたいが、相手は人間としてはそれなりの実力がある者達だし、頭数も多い、万が一の可能性を考えるべきだろう。
「さて、歓迎の準備を急いで下さい」
――――――――――
暗闇の中をいくつかの影が横切って行く。
庭に置かれたオブジェの影を使い、屋敷に近付き壁に張り付いたタイミングで〈
九人の男達は素早くアイコンタクトを取り、裏戸に近づく。
すると一団から盗賊が進み出て扉に罠が仕掛けられてないか念入りに確認する。
罠は無く、扉はすんなり開いた。
僅かに開いた隙間から中を窺うも誰も居ない。
中に入ってからも警備はおろか人っ子一人見当たらない。
「情報通りだな。この時間帯は交代も相まって急に手薄になる。よし、今の内に急ぐぞ」
男達は用意した見取り図を元に主寝室へと向かう。
扉の前に到着し、盗賊が罠が無いことを確認すると男は扉の前に立った。
外からも確認していたが主寝室の明かりは消されていて、室内は完全な暗闇となっている。
もっとも男達は暗視をかけているので暗闇でもなんら問題なく行動出来る。
「ここだ、お前ら用意は良いか?」
男の問いかけに仲間達は笑顔で頷いた。
その笑顔を受け、男もまた笑顔を浮かべると主寝室の扉を押し開いた。
――――――――――
侵入者達がやって来るのをマルクスは正直心待ちにしていた。
外の世界の存在に対して自分の力がどのような影響を与えるかは度重なる実験で理解している。
しかし、今回相手にするのは実験台ではなく、れっきとした敵。
言うなればこれはマルクスにとっての初陣でもある。
「マルクス様、来ます」
後ろに控えた警備兵の言葉にマルクスは頷いた。
「ええ、私にも聞こえています。ちゃんと全員まとまって来てくれたようですね」
マルクスが応えたタイミングで扉が開かれ、九人の男達が姿を現した。
その顔はどれも自信に溢れ、手には月光の反射とは異なる輝きを放つ武器を携えていた。
今すぐにでも戦闘を始めたいという意思が透けて見えるし、マルクスとしても応じるのは吝かではないが、念の為確認を取ろうとシモベ達に下がるよう合図する。
「さて、夜分遅くにようこそワーカー諸君」
そう言ってマルクスは今まで座っていた一人掛けのソファーから立ち上がった。
ワーカー達は各々武器を構え臨戦態勢を取るがすぐに攻撃してはこない。
マルクスを、と言うよりは後ろの警備兵を警戒しているようだ。
「君達に一つ提案があります。我が国に来て冒険者の育成に協力して頂けませんか?好待遇という訳にはいきませんが、国の機関ですのでそれなりの待遇を……」
「〈素気梱封〉〈剛腕豪撃〉〈縮地〉!!」
ワーカーの一人、戦士風の男がマルクスの言葉を遮って地面を滑る様に飛びかかって来た。
マルクスからすれば泥亀の遅さだ。
対処するのは容易だがマルクスの魔法では一撃で行動不能にしてしまう可能性が高い。
シモベ達は待機を命じた事もあって動きが鈍い、仕方なくマルクスはその攻撃を自らの腕で受け止めた。
純魔法職のマルクスとしては褒められた行動ではないが、マルクスは自身の身体を包む包帯によって物理攻撃耐性を獲得している。
それにこれほどレベルに差が有ればダメージなど無いに等しい。
だが、マルクスが戦士風の男の攻撃を受け止めた時、奇妙な違和感を感じた。
そして、それがなんであるか気づくより先に女性の悲痛な声が響いた。
「マルクス様!」
見ると声の主は隠密を解除した伏兵だった。
頃合いを見て敵の退路を断つよう命じていたが、今その目は怒りの感情に彩られ、シックルソードを抜き放ち、男に向かって飛びかかろうとしていた。
そして、非常事態を認識したシモベ達が慌ただしく動き始める。
隠密状態だった他の伏兵達も姿を現し、警備兵達はマルクスの前に立とうと動く、それを受けてワーカー達は再びひと塊りになった。
そんな中マルクスは微動だにしていなかった。
いや、出来なかった。
何故なら自分の腕から目が離せなかったのだ。
袖が大きく裂け、白い包帯が覗くその腕から。
「下がれ」
マルクスは小さく、呟くように声を発した。
しかし、喧騒の中ではその声は他の者達には届かなかった。
なにより、マルクスに斬りかかってきた男が得意げな表情で何事かを叫んでいるのが邪魔だ。
「下がれ」
今度は室内に居た全員の視線がマルクスに注がれた。
声量は先程と変わっていなかったが、抑えようとしても抑え切れず、溢れ出した殺意によって視線が集められたのだ。
シモベ達はすぐさま、それぞれ元いた場所に戻り、ワーカー達はひと塊りのまま後ずさった。
仕方ないのだマルクスの軍服は防具としての性能は殆ど無い。
何故ならマルクス、もといマミーはその身を包む包帯が防具としての役割を担う肉体武器なのだから。
その上から装備する物は装飾品という扱いになり、防御力も耐久力も低くならざるを得ない。
だから……。
(だから、なんだ)
ワーカー達に包帯の奥から強い激情が向けられる。
「このっ虫ケラ共がぁぁ!!」
溢れ出した殺意が叫びに変わると共にマルクスの包帯が
「俺がっ偉大な創造主に与えられぇ! 至高の御方に着用を許された、最上の衣装を傷付ける! そんな事を、許してたまるかぁぁ!!」
顔の包帯も解け出し、今まで包帯の下に隠れていた瞳が初めて姿を現した。
瞳の色素が溶け、黒く染まった眼球からは暗い熱を孕んだ感情が溢れ、ワーカー達にぶつけられる。
「苦しむ時間も、懺悔する暇も与えん! 存在諸共死に絶えろぉ!!」
マルクスが戦士風の男にスキルを発動させる。
使うのはミイラ男の切り札たるスキル〈甘き死が来たる〉。
発動される力は対象の耐性を全て無効化するというもの。
そして続けて発動させるのは種族特性によって習得出来る数少ない他系統魔法。
死霊系第九位階魔法〈
決して避けられない死を放たれた者は如何なる抵抗も許されず。
絶対なる死を受け入れるも、受け入れた事さえ気付かない。
その様はまるで崩れ去る砂上の楼閣そのもの。
肉体も装備もパラパラと砕け、塵となって消える。
最も不快な相手が消え去り、幾らか落ち着きを取り戻したマルクスは残りの男達に視線を向ける。
「さて、君らは奴とは別だ。せいぜい後悔と苦しみの中で死にたまえ〈鉄雄牛の嘶き〉」
唐突に雄牛の嘶きが響いた。だが、それはまるで悲鳴のようであった、今まさに火で炙られている男性の悲鳴。
恐怖と同じ効果を発揮する魔法の発動に男達の顔が醜く歪む。
「うっうわぁぁぁぁぁ」
最初に耐え切れなくなったのは誰か。一人だったようにも複数だったようにも感じる。
しかし、結局はワーカー達全員が一目散に扉に駆け寄った。
「何をしているんです? 〈閉塞監獄〉〈鉄乙女の抱擁〉」
扉を開いた先にはいつのまにか巨大な鉄格子が有った。
ワーカー達は我先にと格子に武器を振り下ろすが斬るどころか傷一つ付かない。
「ぎゃあああああ」
突然の悲鳴に慌ててそちらを見ると、そこには女性を象った棺桶が二つ、鎮座していた。
そして、その棺桶の隙間からは
先程の悲鳴が誰のものであったかは考えず、ワーカー達は涙を流しながら無我夢中で格子を斬り付ける。
「まだ諦めないんですね。その生への執着には何か理由があるのですか?まぁどうでもいい事ですね。〈罪過の炎〉」
ワーカーの一人が足元から湧き上がった炎によって奇妙な踊りを踊る。
〈火球〉などに代表される魔法的な炎は本来一瞬で相手を焼き、一瞬で消え去る。
しかし、マルクスが放った炎はすぐには相手の命を奪わず、ゆっくりと確実に相手を苦しめ、焼き殺す。
悲鳴は上がらない、既に声帯が焼け付いて声が出ないのだ。
もはや誰か判別出来なくなるほど黒く焼き焦げた物体が床に倒れ伏した時には生き残っていたワーカー達は皆武器を捨て、座り込んでいた。
「おや? 諦めるんですか?まぁ、それが正しいのでしょうが。しかし、残念ですね。もう少し私に挑んでくれるかと思っていたのですが、これではモルモット共と……なんです?」
よく見るとワーカー達がボソボソと何かを繰り返し呟いている。
耳をすましてみれば、それは命乞いと死への恐怖から来る言葉だった。
「ふむ、貴方達はこの仕事がどのようなものか知ったうえでここへ来たのでしょう。だとしたらそれは貴方達自身が己の意思で下した選択に他ならない。そして、その選択の結果はどのような物であれ受け入れねばならないのですよ」
もはや男達の口からは一言の言葉も出て来ない。
ただボロボロと涙を零し続けるばかりだ。
「それでは、これにてお別れとさせて頂きましょう。〈血塗れ少女の呪詛〉」
少女の笑い声と共にマルクスの背後に無数のガラス片が現れた。
どれも歪で、そしてどれも鋭利な輝きを放っている。
「ご安心下さい。貴方達の死体は全て有効に活用させていただきます、我が主の慈悲深きお考えに感謝しなさい」
幾百ものガラス片が一直線に宙を駆ける。
――――――――――
「ああ、私としたことが感情に任せて皆殺しにしてしまうとはなんという失態」
幾らかわざと逃してあの二人に実戦経験を積ませるつもりが大失敗だ。
「仕方ありませんマルクス様、人間風情がマルクス様の衣装を傷付けたのです、それは万死に値する大罪でしょう」
そう言ったのは魔法で軍服を修復していた伏兵だ。
今室内にはこの伏兵一体とマルクスしかいない。
他のシモベは撤収準備、死体の片付け、マルクス以外の者達の護衛とそれぞれの仕事をこなしている。
「そう言って貰えて光栄です。……直りそうですか?」
「はい。しかし、かなり時間がかかってしまいます」
「スキルで無理矢理魔法を使っているのですからそれは仕方がない事です、気にしないでください」
幻兵隊で生来の魔法行使能力を持つ者は居ない。
唯一伏兵がスキルを用いれば魔法を使えるが低位の物しか使えないのでアイテムの修理だけでもかなりの時間を必要とする。
「それで、修復出来次第貴女には帝城に向かって貰いますが……何をすべきか分かっていますか?」
「はい。本件はマルクス様と皇帝との関係をより良いものとする為に内密にする、という事ですね」
「その通りです。おそらく彼等も何かしらの対応をしてくるでしょうが、手筈通り進めれば問題ありません。しかし、いざという時は私に連絡するように」
「了解致しました」
伏兵の返事に満足そうに頷くとマルクスは窓の外へ、その先にある至高の存在が支配するこの世で最も尊き場所へと意識を向ける。
新しい教員を迎える冒険者組合の管理に、建国祭の準備にとやるべき仕事が多く、心が躍る。
(今回の反省を活かし、より素晴らしい成果を出してみせる。全ては我が主の幸福の為に!)
普段落ち着いてるキャラほどキレるとヤバイという事で、マルクスさん激怒回アンド初の戦闘シーンとなりました
如何でした?
夜那ちゃんはこれが人生初の戦闘描写なのでかなり適当ですが大目に見てやってください
ちなみに今回登場したワーカー達はあるチームの生き残りだったりします。
分かりましたか?