まぁお仕事の方が大分安定して来たので8月中はもうちょっと頑張って投稿致します。はい
なお今回からまじないをカタカナ、のろいを漢字で表記する事にしました
自分でやっといてややこしくなったのでね
自分の屋敷に向かおうとしたレイナースは当たり前のことを思い出した。
(あっマルクスさんは私の屋敷が何処にあるか知らないんじゃないかしら)
つい飛び出してきてしまったが、自分の屋敷の場所はおろか、マルクス達の滞在先も聞いていない。
普通に考えれば帝城の貴賓館だが、急な来訪という事もあり、マルクス達は魔導国に移った商人が以前まで使っていた屋敷を滞在場所にしているという。
(少し間抜けな感じになるけど戻って聞こうかしら?いえ、それだと入れ違いになるかもしれない)
レイナースが出て来た応接間から正面入り口まで向かう道はいくつかある。
更にレイナースはいつもの癖で人通りが少ない道を選んで通って来た為来た道を引き返してもマルクス達と合わない可能性の方が高い。
(仕方ない、エントランス辺りで待っていましょう)
広々としたエントランスには守衛が数人居るぐらいで、どこかがらんとした印象を受ける。
壁により掛かりながら、目まぐるしく変わった状況を整理しようとする。
(取り敢えず第一段階終了ね。次は魔導国でこの呪いをとく方法を見つけないと、マルクス様が知っていれば良いけど……それは都合が良すぎるかしら)
その時、レイナースの頭に浮かんだ名前が口を衝いて飛び出した。
「マルクス様……か」
彼は何者なのだろうか。
あの魔導王が配下としているのだから彼も尋常ならざる力の持ち主である可能性が高い。
しかし、レイナース個人としてはあまり強そうには感じなかった。
なんだか得体の知れない恐ろしさは有ったが、レイナースの知る強者の雰囲気とはどこか違った。
それにバジウットによると魔導王の配下の中には知恵で選ばれたと思われる者も居るという。彼もそういった配下の一人なのだろうか。
事実、一緒に居たモンスターの方が強そうに感じた。
「まあ、私にとってはどうでもいい事ね」
「何がどうでも良いんですか?」
突然、至近距離から声をかけられてレイナースの肩が飛び跳ねた。
声のした方を見ると応接間で会った時と同じ変った衣装に身を包み、鷲頭のモンスターを従えたマルクスが居た。
「マっマルクス様!」
驚きと共にマルクスに批難の視線を向けた。
「失礼。驚かしてしまいましたか」
マルクスは礼儀正しい紳士のような謝罪の後、怪訝な声音で問いかけた。
「しかし、何故レイナース殿がここにいらっしゃるのですか?てっきりご自身の邸宅に戻られたと思っていましたが」
「あっそれは、マルクス様達の滞在先をお聞きしてませんでしたし、私の屋敷の場所もお教えしていませんでしたから」
「なるほど。前者に関してはこちらも失念しておりました、後者に関しては既に聞いております」
誰から?と聞こうと思ったがジルクニフ辺りが教えたという可能性もあるだろう。
それにレイナースが何か言うよりも先にマルクスが口を開いた。
「よければ、我々の馬車で貴方の邸宅まで向かいましょう」
マルクスに引っ張られる形でレイナースは鷲頭のモンスターが開けた扉をくぐった。
出てすぐの所に中庭で見たワニ頭の人型モンスターが、変わった乗り物に乗って待機していた。
その後ろには装飾こそ少ないが見事な馬車が一台止まっている。
「マルクス様その者は?」
聞き覚えの無い重々しい声が響き、驚きと共に目の前の存在を見る。
まず間違い無く、その声を発したのはこのモンスターだろう。
ワニを無理矢理立たせて手足を伸ばしたような見た目なのに、どこからそんな声が出ているのかと疑問に思うが。あの魔導国の兵士ならこのぐらい普通かと納得もする。
「冒険者の指導員として魔導国に来てくださるレイナース・ロックブルズ殿です。これから我々の馬車で彼女の邸宅は向かいます。詳しい場所は猟兵から聞いて下さい」
マルクスの言葉に従って鷲頭のモンスターが一体、ワニ頭のモンスターに近づき手に持った紙を示しながら話しかけ始めた。
どうやら鷲頭のモンスターは猟兵というらしい。
それが個体名なのか種族名なのかは分からないが。
――――――――――
「どうしました?」
別の猟兵が開いた扉に入ろうとしていたマルクスは訝しげに声を掛けた。
すると、レイナースは弾かれた様にこちらを向き、謝罪の言葉を述べながら扉の前にやってきた。
マルクス、レイナースの順で馬車に乗ると猟兵が扉を閉め馬車がゆっくりと進み始める。
ウィル達は屋敷に置いて来たのでここには居ない。
向かい合って座りながら、これといって会話はせずしばらくした時、不意にレイナースが真剣な表情になると口を開いた。
「あの、マルクス様」
「様などと付けなくて良いですよ。皆さんには出来るだけマルクスさんと、呼んでいただいてます」
侮られるのは問題だが親しみを抱かれる分には問題無いという判断からだ。
「マルクス……さん、ですか?」
「ええ。その方が話しやすいでしょう?」
「確かに」
そう言ってレイナースは頷くと、今度は幾分落ち着いた様子で再び話し始めた。
「私は昔、モンスターに
ゆっくりと絞り出す様にレイナースは語った。
その言葉を聞きながらマルクスは自分の内にある好奇心が刺激されるのを感じた。
マジナイシとして自分の知識にない呪いと出会うというのは、まず有り得ない事だ。
だが、本人が困り果てている事に他人が好奇心を抱くのは良くないだろう。
だからこそ好奇心は内側に仕舞い込んで、あくまで親密に話しを聞く。
「その呪いとはどの様な物ですか? 場合によっては力になれるかも知れません」
マルクスが使える呪いと同じ者なら解呪は容易だろう。
逆に知識に無いものだった場合は少し面倒だ。
結局どちらにしてもどの様な呪いか知っておく必要がある。
しかし、レイナースは動かない。
マルクスが質問してから全く動いていないのだ。
「どうしましたか? 何か事情がお有りで?」
そう言うとようやくレイナースは動き出した。
震える手で自分の顔の右半分を覆った金髪を書き上げた。
その間、目線はマルクスに向けられ続けていた。
それは何かを期待するようでもあり、分かりきった事を受け入れているようでもあった。
「これが私の受けた呪いです」
髪の下から現れた顔は醜く歪み、膿が表面に滲んでいた。
もう半分は整っているだけに、歪められた部分がより醜く映るのはなんとも皮肉な事だ。
「ほう、これは……」
マルクスがレイナースの顔に触れようとした時、その手が素早い動きで弾かれた。
弾いたのは勿論レイナースだ。しかし、レイナースは驚いたような表情で固まっていた。
「申し訳ない、不躾でした」
急に触れようとした事に呆れているのかと感じたマルクスが素直に謝罪を述べると、今度はレイナースが謝り出した。
「いっいえ、私こそ申し訳ありません。つい……そのっ呪いを解くのに必要でしたら構いません。どうぞ」
「本当によろしいんですね?」
「……はい」
小さいがはっきりとした返事にマルクスも頷いて再び手を伸ばした。
包帯に膿が付くのも顧みずレイナースの顔に触れながら〈呪印探し〉を発動する。
通常の〈
「なんだこれ?」
それがマルクスの第一声だった。
発動者が死んでも持続するというのは別段珍しくない。
それに呪い自体の効果も大した事無いが、だからこそ理解出来ない。
マルクスにとって本来呪いとは相手の
しかし、レイナースにかけられている呪いの効果は精々見た目を歪め、カルマ値をマイナスにする程度。
呪いとしてはかなり弱い部類だ。
(うーん。これはこの世界特有の呪いという訳ですか。ここで消し去ってしまうのは惜しいですね。しかし……)
マルクスは固く目を閉ざしたレイナースに話しかける。
「レイナース殿、この呪い、どうしても解きたいですか?」
正直マルクス自身何を言ってるんだと自嘲してしまう。
人生を棒に振る原因となったものだ。さっさと捨て去りたいに決まっている。
事実、レイナースも不思議そうにしながらだが頷いている。
「分かりました。それでは、海魔女の契約」
あるおとぎ話をモデルにしたこのスキルは相手の体の一部に宿った魔力を奪い取り、代わりにステータスをランダムに一つ強化する。
また第三者―――それもマジナイシからの回復を受けない限り効果が永続するのも強みだ。
本来、相手の肉体武器を弱体化する為に使うのが主なので、肉体武器を持たない人間には意味が無い行為だ。
しかし、永続系の呪いは相手の体に魔力を宿すという形になるので解呪目的で使う事が出来る。
「よし、解呪は成功しました。もう大丈夫ですよ」
そう言ってマルクスが手を離すと、レイナースはすぐさま馬車の窓に映る自分の顔を見た。
そこに映るのはもう片側と同じ整った顔。
次にレイナースはそれが現実であると確かめるように何度も自分の顔を触り、間違いなく現実だと分かると静かに涙を流し始めた。
「ふむ、見たところMP……魔力値の上限が上がったよう」
マルクスが口を開くと突然、柔らかいとも硬いとも言い難い物に包まれた。
驚いて見るとレイナースが泣きながらマルクスの胸に抱きつき、「ありがとう」と何度も言っている。
レイナースの突然の行動に混乱してしまったマルクスはどうすれば良いのか分からなくなっていた。
引き剥がすのは簡単だ。
魔法詠唱者とはいえマルクス程のレベルならレイナース程度容易く引き剥がせる。
問題は果たして引き剥がすのは正しいのかという事。
感謝の思いが爆発してしまった相手を無理矢理引き剥がすのはどうも気が引ける。
(というか何が起こってるか分かってるはずのシモベの視線が痛い)
やっぱ推しキャラには幸せになって欲しい。
という欲望だけの回でした
後悔はしてません!