オバロ外伝 魔導国の冒険者達   作:天塚夜那

5 / 12
いつのまにかお気に入り登録が80件超えててびっくり。
こんな初心者の妄想駄作作品を読んで頂いてありがとうございます。

なんとか今月中に投稿出来ました
急いで書き上げた所なども有るので、いつもより少し短く、意味不明な点も多いかもしれません。
投稿が遅い事も合わせて、申し訳ありませんm(__)m


大義

 馬車の外を眺めながら、マルクスは向かいに座る者たちに聞こえないよう、そっとため息を吐いた。

 あまりに面白味のない景色だ。帝国民の暮らしを見ることで何か得られるものが有るかと期待して、帝国の首都アーウィンタールから少し離れた所に転移したというのに、魔法の感覚器官を用いて見た景色は、マルクスを激しく失望させた。

 何もかもが人の手によって行われているのだ。

 畑を耕すのも、種を撒くのも、家屋や道路の修繕も、集落の警備も。

 

(帝国は豊かだと、聞いていましたが、この程度とは……。魔導国の方が遥かに豊かではありませんか。いえ、アンデッドの人足を用いるかどうかで、これ程の違いが出ると分かったのですから十分だと思うべきですね)

 

 そこでマルクスは自分と同じ様に外を眺めていた二人組に話しかける。

 

「さて、じきに帝都に着きますが、もう少し時間がかかるでしょう。それまで、少しお話をして頂けますか?」

「お話って、どんな事を?」

「そうですね……。帝国での生活については組合で聞きましたし、魔導国に来てからの話をお願いします」

 

 そう言うと二人組―――トクルとウィル―――は戸惑いながらも頷いた。

 二人は顔を見合わせ、どちらが話し合うか決めているようだ。

 しばらく押し付け合いが続いたが結局、押しが弱く、ウィルと比べて、いくらか話し上手なトクルが話す事になったらしい。

 

「正直、エ・ランテルはもっと混沌としてると思ってました。聖王国の人から聞ける話も又聞きの又聞きみたいな物ですから。でも、来てみて本当に驚きました。亜人も人間もアンデッドも皆んな一緒に暮らしてる事だけじゃなくて、皆んなお互いの事を考えて暮らしているし、この街にいる亜人達は実は人間なんじゃないかって思うぐらいでした」

 

 トクルの言葉を聞いてマルクスは嬉しそうに何度も頷いた。

 人間を好んで食べる種族に関してはデミウルゴスがあらかじめ間引いているとはいえ、 亜人達と都市の住民達の融和政策に苦労した身として、成果が出ているのは嬉しい限りだ。

 その時、マルクスは自分に向けられている視線の性質が変わったのを感じた。

 今まで緊張した様子だったが、どこか納得したような様子に変わっていた。

 

「うん? どうかしましたか?」

「あっいえ……」

「そうですか?何か仰りたいことがあるなら、話して欲しいのですがね」

 

 すると、ウィルが意を決した様子で口を開いた。

 

「マルクスさんって、本当は人間なんですか?」

 

 マルクスは怪訝な表情―――無論、相手には見えないが―――を浮かべて答える。

 

「いえ、以前も言いましたが、私はアンデッド。異形種ですよ」

 

 もっとも、この包帯の下にはちゃんとした肉体が有り、食事による効果は受けられないが、普通に飲み食いもできる。

 その為、大怪我を負った人間だと思われた―――今もそう思っている者も居るだろうが―――事が何度もあった。

 

「じゃ、じゃあ、なんで俺たちみたいなただの人間にまで優しくしてくれるんですか?」

 

 その言葉を聞いて、表情が先程とは別の形に歪む。

 

「簡単な事です。私は冒険者の、もちろんあなた方見習いも含め、アイン……魔導王陛下より管理育成及び、保護を命じられたのですから、誠意ある対応をするのは当たり前です」

「でっでも、その……」

 

 尻すぼみになったトクルの方を向き、促す様に手を動かす。

 包帯の下では、ずっと嬉しそうな表情を浮かべているのだが、トクルには伝わらず、少し時間がかかった。

 

「この前、門番の方に聞きました。王国から逃げて来た密入国者の家族を受け入れたんですよね。どうしてですか?」

 

 そう言われ、マルクスは以前満足な食糧も持たず、身一つで魔導国の領内に逃げて来た親子を思い出す。

 

(正直、あの後の借金取り達への対応の面倒さを考えれば、彼らは助けなくてもよかったかも知れませんね)

 

 しかし、そこでマルクスは思い直す。

 

(いや、あれで魔導国のいい評判が広がるなら私の計画にも好都合。……あっ、少し間を置きすぎましたね)

 

「決まっています。我らが主人、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下の偉大さ、慈悲深さをより多くの者に知らしめる為に他なりません」

 

 マルクスの毅然とした返事を聞くと、二人は感嘆の声を上げた。

 それは、これまで彼らの人生でこれほど誰かの為に尽くしている人物(アンデッド)に会った事が無いからこそのものだ。

 二人から送られる賞賛の言葉に謙遜しながら、マルクスは自らがこれまで行ってきた事、自らが主人の為に成すべき事を思い返す。

 実の所、マルクスがどんな者でも受け入れ、優しく接しているのにはもう一つ理由がある。

 それは、主人の支配をより盤石な物にする為だ。

 マルクスは軍人として生み出されながら、自らの特殊な能力故に、最高指導者(至高の御方)の為に戦う事が出来ない。

 だからこそ、マルクスは主人の幸福がより完璧なものになるよう尽くす事にした。

 それに、この行動はマルクスの設定故のある種の恐怖心も加算された結果でもある。

 

《ナザリックに属さない者であっても、無闇に見下さない》

 

 それは相手が脅威になり得ると考えてしまうという事。

 特に、こちらの世界に来て、自身の知識に無い様々な物や、人間という、平然と自身の属する組織を裏切る者達を見て、その思いがより強い物となって現れた。

 誰よりも慈悲深く、偉大な御方であるモモンガ(主人)ならば、いずれ支配下に入った全ての者に幸福と平穏を与えるだろう。

 しかし、幸福は堕落を生み、平穏は身の丈に合わない夢に取り憑かれた馬鹿共を生む。

 無論、度重なる情報収集によって、この世界において自分達が圧倒的強者である事は分かっているのだから、その様な虫ケラに遅れを取ることはないと、断言出来る。

 だが、主人が支配する地を預かる者として、そのような事を認められるか。

 だからこそ、マルクスは支配地での仕事を命じられてすぐ、自身の計画に取り掛かった。

 それは、檻の製作。

 捕らえた者を逃さず、反逆者を即座に、誰であれ叩き潰す為の檻。

 既に現在の魔導国領内では、神殿などの不満分子も含め、マルクス直属のシモベや組織の情報を教えてくれる内通者を仕込んである。そればかりか、属国である帝国や友好国であるドワーフの国にまで、マルクスの手は伸びている。

 もっとも、この行動は場合によっては不敬と取られるものだ。主人の所有物を配下が勝手に処理するような行為なのだから。

 しかし、指導者の治世を脅かしうる者は―――それがたとえ創造主()であろうとも―――許す事は出来ない。

 これこそが、マルクス(軍人)としての、忠義の形なのだから。

 自分から話しかけておきながら、会話をどう畳もうか悩んでいると、タイミング良く馬車の扉が叩かれた。

 僅かに隙間を開けて外を覗き見ると、頭部だけがワニの物に変わった半獣が手綱を握って立っていた。

 ソベクの戦車兵。重装鎧を纏い、タンクとしての高い耐久力と搭乗する馬型の魔獣四頭立ての戦車による機動性を併せ持つモンスターだ。

 欠点は使用する武器がフレイル、短槍、短弓と攻撃力が低い点だろうか。

 

「マルクス様。もうじき、バハルス帝国首都アーウィンタールに到着致します」

「分かりました。では、手筈通りにお願いします」

「畏まりました」

 

 戦車兵が先駆けとして市壁の門へと向かう。

 最後に、閉めようとした扉の隙間から今まで馬車の後方に追従していた、別の戦車兵が前方へ移動する姿が見えた。

 マルクスは扉を閉めるとウィル達にこの後の流れについて話す。

 無論、前以て話してあるが念の為だ。

 そして、少しの間を置いて聞こえて来た大声―――わざわざスキルで恐怖効果を加えた物―――に、包帯の下で口元を満足気に歪める。

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国が属国地、バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス殿に対し、魔導国都市組合管理局が局長であられるマルクス様が、会談を求めていらっしゃる!門を開けよ!!」




miikoさん誤字報告ありがとうございます

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。