なんとか月内投稿できました
ようやくノーパソの調整が終わったので初のパソコンからの投稿です
それではどうぞ……
帝国の街道を三台の荷馬車が進む。先頭の馬車には御者が一人と幌付きの荷台の中で、木箱の間の小さな隙間に座った小柄な男が二人居る。後ろの馬車には幌が付いておらず、御者台に背を向けて周囲を見張るデスナイトの姿がある。
「すいません。あと、どれくらいで魔導国に着きますか?」
小柄な男の一人が御者台に声を掛けた。
その声には若干の高さが残る物で、ただ小柄なのではなく骨格が未発達――――少年であると分かる。
「せやな、国境を越えるはまではあと少しやな。ただエ・ランテルまではまだ2日はかかるで」
御者が陽気な声を返す。久しぶりに家に帰れるのが嬉しいのだろう。
少年は御者に礼を言いながら、自分の反対側に座る人物を見る。
その人物も歳は少年と同じだが体格は少年以上に小柄だ。その金髪の頭が前後に揺れているのは馬車の揺れだけによる物では無いだろう。
「おいトクル、そろそろ起きろ。もうすぐ国境を越えるらしいぞ」
トクルと呼ばれた少年は頭を上げながら眠そうに目を擦る。
よく言えば大人しそうな、悪く言えば気の弱そうな顔つきだ。
そして、性格も見た目通りというのんびり屋な友人に、先程御者から聞いた言葉を繰り返す。
「分かったよウィル。それじゃ今日は野営するのかな?」
ウィルは手荷物を入れた麻袋から丸められた羊皮紙を取り出すと馬車の後ろにある昇降口から顔を出し、空を見上げる。太陽の位置から時間を推測するのはウィルの特技で、彼らが居た村でもウィルは誰よりも正確に時間を推測出来た。
大体の時間が分かるとウィルは手元の羊皮紙を開いた。そこに書かれていたのは、この近辺の細かな地図で、街で購入した正確な物だ。
ウィルは街を出た時間と予想した時間を元にエ・ランテルに着くまでの時間を計算する。ウィルの家は鍛冶屋を営んでおり、鍛治仕事の不得意だった彼は帳簿の手伝いをやっていたおかげで計算が上手くなった。
「そうだな。エ・ランテルまではもうしばらく掛かりそうだから、今日は野営する事になるな」
そう言いながら、ウィルは再びトクルの向かいにある木箱の隙間に体を押し込む。
ウィルの言葉を聞いてトクルの顔が不安げに歪められる。
魔導国の街道は他国と比べて安全らしいが、詰所などは無いらしく野宿には、いささか不安がある。
「大丈夫だよ。ボアンさんが心配無いって言ってるんだし、信じようぜ」
ボアンとは今彼らが乗っている馬車の御者で、この荷馬車隊のリーダーらしい。
街で魔導国から交易馬車が来ているという話を聞き、魔導国へ連れて行ってくれと掛け合ったのだ。それを聞いたボアンは二つ返事で了承した。
「それにあの護衛が居れば襲われる心配も無いさ」
そう言ってもトクルの表情は浮かないままだ。
それを見てウィルは、トクルの不安が別の所にあるのだと気付いた。
ただ、トクルは不安げな表情のままじっと黙ったままだ。この友人はなかなか本音を言おうとしないのだ。
だが、幼い頃からの付き合いで、こういう時の対処法は既に見つけている。
ウィルは左右に泳ぐトクルの目を正面から見つめる。
やがて、トクルは観念したように口を開いた。
「やっぱさ。不安なんだ。魔導王への不安はそこまでなんだけど、ちゃんと冒険者になれるのか? 才能が無いって言われて追い返されるんじゃないかって」
彼らの街は聖王国からの隊商がよく通る街道の近くにあり、魔導王に命を救われたという聖王国の人間から話を聞く機会が何度もあった。
(今じゃ聖王国民の約一割が魔導王に肯定的な団体に所属していると言っていたが、あれは本当なんだろうか? ・・・おっと、ちゃんとフォローしないとな。何度もやってるとは言え)
「大丈夫だ。ボアンさんも言ってたろ。冒険者に成れなくても魔導国に住むことは出来る、働き口は沢山有るんだ、ってさ」
だが、働き口を求めて魔導国へ行くのではない。
「魔導国に住んだら冒険者に関われる仕事を探そう、上手くいけば訓練をつけてくれるかもしれないぞ」
そこまで言って、ようやくトクルの表情が柔らかくなった。
彼らが冒険者―――それも魔導国の―――に成ろうとするのは彼らが住んでいた街に、時折やって来た一人の
その吟遊詩人は変わった人物で冒険者や英雄達の
それ故にあまり人気は無かったが、2人はその吟遊詩人の話が大好きだった。
だからこそ、だろう。彼らは英雄になるより冒険者に成りたいと望んだのだ。
――――――――――
城門に向かうとマルクスは近くに居た職員に入国者の居場所を聞き、そのまま講習の為に使われている部屋まで案内された。
部屋の前まで行くと丁度部屋に入ろうとしていたらしい、見慣れた豚面―――比喩ではない―――を見つけた。
「ディエルさん、こんにちは」
こちらに気付いた亜人―――
「おお、マルクス殿か。こんにちは、会うのは久しぶりだな」
「そうですね。そう言えば同族の方達の加減はいかがですか?前に聞いた時は夜になると
「お陰様で、今はもう、皆んな魘される事は無くなった。マルクス殿には感謝してもしたりん」
ディエル達の部族は三年程前に聖王国近郊のアベリオン丘陵からやって来た―――逃げて来た、と言うべきか。
初めて会った頃は誰もが傷だらけで、聖王国での体験によって完全に心が砕かれていた。
「いえいえ、あれも魔導王陛下の御意志です」
だからこそ、マルクスは彼らの心理的、肉体的ケアに力を入れた。
更に魔導国での新しい職も世話してやった。その中でディエルは数少ない役人―――主な役職はナザリックの者が占めているのでナザリック外の者がつける職は限られている―――として、入国審査官の職についている。
「本当に魔導王陛下は素晴らしい方だ。あの人間のメスにも礼を言わねばな」
人間のメスと言うのが誰のことか気になったが、未だに本題を切り出していない事に気付いたマルクスは話を変える。
「ところでディエルさん、お願いしたい事が有るのですが」
「うん? 大恩あるマルクス殿の願いだ、俺に出来る事ならなんでもするぞ」
「ありがとうございます。お願いと言うのは今から行う講習にご一緒させていただきたいのです」
ディエルは一瞬、怪訝な顔をしたが、直ぐに笑みを浮かべた。
「なんだ、そんな事か。その位、頼む必要は無いぞ。さぁ来てくれ」
――――――――――
マルクスは家の扉を開けると、この家を与えられて初めての客を迎い入れる。
「どうぞ、お入り下さい」
客人二人がおっかなびっくり入ってくるのを確認すると、そのまま奥まで進み、客室代わりにしている部屋―――誰かを招いたのは初めてだが―――に入り、ソファを勧める。
シモベには玄関とこの部屋に分かれて待機するよう命じた。
「何かお飲みになりますか?」
「あっいっいえ。結構……です」
茶髪の少年が返事をしたが、尻すぼみになっている。
「まぁそう言わずに、一旦落ち着いた方がいいでしょう」
そう言いながら、空間から果実水が入った瓶を取り出すと、同じように取り出したグラスに注いで二人の前に置く。
「貰い物なんですがね。私は、あまり飲まないので」
空間から物を取り出した事に驚いているようだが、マルクスとしてはいい加減慣れた反応だ。
「さて、まず初めに、ようこそ魔導国へ。私の名前はマルクス。この地では各種組合を統括、管理すると共に、冒険者育成に於ける全権を魔導王陛下より頂いています」
そう言うと二人組はキョトンとした表情になった。
「そうですね。国民の皆さんの生活状況を調べ、手助けをするといった仕事と冒険者への支援を行うといった仕事をしています」
いくらか噛み砕いて話すとどうにか理解出来たようだ。
「では、説明の前にお二方についてお話し頂けますか?」
二人分の自己紹介と軽く生い立ちについて聞き、マルクスは二人に『可』を押す。
「なるほど、了解しました。では、そろそろ説明に入らせて頂きます」
生い立ちの話がいつの間にか志望動機の演説になりつつある二人を制する様に話し出す。
「まず、冒険者になる為の前提条件として、我が国の臣民であると言うことです。その点に問題は有りませんか?」
「あっはい、大丈夫です。そのつもりで来ましたから」
「それは上々。では次に冒険者としての義務についてですが……」
「えっ」
「どうかしましたか?」
驚きの声を上げた少年―――確かトクルだったか―――の方を見る。
「あのっ他に条件って無いんですか?」
「ええ。有りませんよ」
「ほっほんとに?」
「勿論。種族、出身、地位等に関係なく、どんな者でも受け入れる。それこそが魔導国の冒険者組合です」
人なら微笑を浮かべるところだが、包帯に隠れているので雰囲気だけだ。
「さて、先程の続きですが、冒険者の義務は幾つか有ります。一つは国の機関に所属する事になりますので勝手に国外への移住は出来ません。他には組合や上位機関である管理局からの要請に応える事、一定の期間ごとに行われる定例会には必ず参加していただきます、仕事以外の理由での欠席は認めません。以上が冒険者としての義務になります……何か質問はありますか?」
「特には有りません」
ウィルと名乗った少年が答えたが、本当に無いのかは不明だ。
(まあ、その辺は組合長に任せますか)
「最後に皆さんに対して我が国が保証する利益についてです。まずは役人として皆さんには給金が毎月支払われます。因みに冒険で得た金品は全て皆さんの物ですが、入手したマジックアイテムは研究の為、組合管理になります、ご理解ください。次に施設についてですが、冒険者専用の寮、訓練場、訓練用ダンジョンといった様々な施設を使う事が出来ます。と言っても皆さん最初は見習いとして訓練が有りますので、どのみちそれらの施設を使う機会が来るでしょう……さて、以上で説明を終わりますが、この場で最終確認をさせていただきます」
言葉を句切って溜を作る。
「……貴方たちは冒険者に、真なる世界を見る者に成りたいと、望みますか?」
二人の少年は互いに顔を見合わせる事も無く、ほぼ同時に頷いた。
その目は初めて会った時とは違い、決意の輝きを宿している。
そんな二人を見つめながらマルクスは無数の未決定事項と今後の課題に思いを馳せるのだった。
残酷描写と言いつつ未だに戦闘シーン0
なんとかしたいけどもう少し先になるかも
それでは批判等々お待ちしてます
「何行目の言葉が変」って感じに教えてもらえれば幸いです
miikoさん誤字報告ありがとうございます