生物学(生態学)をやっていると必ず聞く言葉、そして昨今ますます重要視されつつある生物多様性について勉強をしている人たちも聞いたことがあるかもしれない言葉。
今日は生物のニッチについて語ろうと思う。
目次
ニッチ(生態的地位)
ニッチ(生態的地位とも言う)とは、ある生物種のその生態系内での地位のことである。
生物は生態系内(自然界)にて、必ず何らかの地位を持ち、他との差別化をはかって生きている。
ニッチの具体例には食べ物、棲み処、活動時間などがあり、ニッチが異なるということは、食べ物や棲み処、活動時間などが他と異なるということである。
・・・と言っても、言葉だけではピンとこないので、具体例をイメージしながら考えてほしい。
ニッチが異なる例
例えば鳥のワシとフクロウを考えてみよう。
彼らは食べるものは同じで、虫や小動物を主に餌としている。
しかしワシは昼行性でフクロウは夜行性である。
ワシ・・・ 昼間に活動し、虫や小動物を食べるという地位(ニッチ)
フクロウ・・・ 夜間に活動し、虫や小動物を食べるという地位(ニッチ)
よってワシとフクロウは餌にしている食べ物はかぶっているものの、活動時間が異なっているのである。
言い換えれば、両者は他との差別化ができているのである。
ワシは昼行性で虫や小動物を食べるという地位を自然界で確立し、フクロウは夜行性で虫や小動物を食べるという地位を確立して生きているってことだね!
もう1つ、例を考えてみよう。
哺乳類のライオンとジャッカルという動物を考えてほしい。
↓ちなみにジャッカルはこんな動物
両者はどちらもアフリカのサバンナ地帯に生息する肉食獣である。
生息する場所だけを見ればニッチがさっそくかぶっているね。
しかし、ライオンは大型の肉食獣で、一方のジャッカルは小型の肉食獣である。
サバンナにはシマウマのような大型の草食動物から、ネズミやウサギなどの小型の動物まで様々なものがいる。
大型であるライオンは大型のシマウマを狩ることができるし、ジャッカルは小さいため器用に小動物を捕食できる。
ライオン ・・・サバンナで大型の草食動物を餌とする大型肉食獣というニッチ
ジャッカル ・・・サバンナで小型の動物を餌とする小型肉食獣というニッチ
両者はアフリカのサバンナ地帯という生息地は共にしながらも、体の大きさや食べ物でそれぞれニッチ(地位)を確立し、差別化をはかっている。
ガウゼの法則
生物どうしのニッチが多くかぶってしまうと、生存をかけた争いが起こる。
全く同じニッチを持つ生物種同士は共存できないのである。
この法則をガウゼの法則と呼ぶ。
もし、似たような生物種同士が共存しているのであれば、それらの生物たちはどこかで差別化ができているということである。
ゾウリムシの実験
ニッチがかぶった生物同士が出会ったり、同じ空間にいるとどうなるか、ゾウリムシでの実験がある。
ニッチが同じと言われるゾウリムシとヒメゾウリムシという2種類のゾウリムシを一定の環境で混合飼育すると、ゾウリムシは日数の経過とともに減っていき、最終的に全滅する。
このようなことが起こるのは、ゾウリムシよりもヒメゾウリムシのほうが繁殖力が強く、安定が保たれた環境下ではゾウリムシが駆逐されてしまうためだ。
では今度は別に、ニッチが異なると言われる"ヒメゾウリムシ"と"ミドリゾウリムシ"という2種類のゾウリムシを混合飼育してみると・・・
どちらか一方が全滅することはなく、共存する。
ニッチがほとんど同じ種同士が対面したとき、激しい生存競争が起こる。
そしてその競争はどちらかが完全に駆逐(絶滅)させられるまで続くのである。
共存は絶対に無理なのか?
ニッチが同じ生物種同士って、絶対に共存できないの?
実はゾウリムシとヒメゾウリムシは絶対に共存できないわけではなく、この環境に捕食者であるメダカを入れると両者は共存するという。
ヒメゾウリムシは確かに繁殖力が強いが、数が多くなることによって相対的にゾウリムシよりも捕食される機会が増え、数が抑えられるからである。
また、別の生物の例も紹介しておこう。
コクヌストモドキという、その名のとおり穀物(米など)につく害虫がいる。
日本に生息している種類は、コクヌストモドキとヒラタコクヌストモドキの2種が特に有名であるが、これらは一定の環境下で同時飼育するとどちらか一方が駆逐される。
それにも関わらず、日本ではこれら2種は普通に見られる。
実は、両者は四季があると共存することが分かっている。
コクヌストモドキは高温多湿に適していて、一方でヒラタコクヌストモドキは低温に対する耐性が高い。
日本のように温暖な時期と冷涼な時期が交互に訪れる温帯では、彼らは共存が可能なのである。
自然界において、環境は常に一定が保たれているのではなく絶えず変化する。
上記の例のように、環境が変化することによって本来は共存できない生物種同士の共存が可能になる場合もあるのだ。
環境が変化することで、優占できる種も変化するってことだね!
食い分けと棲み分け
ニッチがかぶってしまうと競争が起こり、どちらかが強ければ一方は絶滅するか、力が拮抗していれば両者共倒れになる可能性だってある。
そのため、生物はニッチがかぶらないように共存しようとする傾向がある。
上記の例ではフクロウとワシは活動時間帯を変えることで共存していた。
他にも、餌を変えたり、ある生物は森林に棲み、またある生物はその森林の手前の草むらに棲んだりと、生物は食べ物や生息地を微妙に変えることでうまく共存しようとする。
ヒメウとカワウ
食い分けをしてうまく共存している生物の例に、ヒメウとカワウがいる。
写真はカワウ。
ヒメウとカワウは鵜(う)と呼ばれる鳥の仲間である。
2種ともに同じ川などの汽水域でよく見られ、カモのように水面を泳いでいる姿をよく見かける。
両者は生息域がモロかぶりしているのだが、ヒメウは浅瀬や水面近くを泳ぐ小魚などを主食としている。
一方で、カワウは水底まで潜り、川底にいるエビなどを食べている。
イワナとヤマメ
魚類のイワナとヤマメは生息域の棲み分けをしている生物の好例である。
写真はヤマメ。
両者は自分より小さな小魚や水に落ちてきた昆虫などを食べる。
しかし、イワナは川の上流域に棲み、ヤマメは下流域に棲んでいる。
※ちなみに、川を上流と下流に分ける境界線は水温が13℃より高いかどうかで決まります。13℃より高ければ下流、低ければ上流というのが一般的な区切りのようです。
まとめ
- ニッチとは、ある生物がその生態系内で占めている地位である。
- ニッチの具体例としては食べ物や棲む場所、活動時間などがある。
- 生物同士のニッチがかぶると生存競争が起こり、どちらかが絶滅することがある。
- 生物は同じ場所に棲んでいても食べるものを変えたり、夜に活動したりなど、ニッチを微妙に変えることで争いを避け、共存しようとする傾向がある。