
今回ご紹介するのは、お気に入りのDVD、アメリカTVシリーズ「NUMB3RS 天才数学者の事件ファイル」です。
FBI捜査官の兄、ドン・エプスと天才数学者の弟、チャールズ・エプスのコンビが、数学を使って事件を解決していくという話です。アルゴリズムや関数、確率論など、数学の知識がふんだんに登場するもので、数学好きには堪らない作品になっています。数学だけでなく、ゲームやパズルも多数登場します。特に、興味が引けるように、いろいろな例え話を上げて、数学が苦手な人でも分かるように工夫されています。制作総指揮が、あのリドリー・スコット、トニー・スコットの兄弟だけあって、ストーリーもアクションも実に面白く、はまること間違いありません。
そこで、気になったシーンを1つ上げてみます。第3シリーズ、第24話「選ばれた二人」で、チャーリーが犯人と対峙して、問題を提示されます。「チェスの発明者が、王に献上した際、褒美として、次のものを願い出る。チェスボードの最初のマスに小麦を1粒、次のマスに2粒、その次のマスに4粒と、倍々に増やしていくと、全部でいくつになるか」。チャーリーは、これは有名な「小麦とチェスの問題」といい、答えは2の64乗引く1と即答して、その計算を出します。答えは、1844京6744兆737億955万1615。
これと似た問題で、日本では曽呂利新左衛門の逸話が残っています。豊臣秀吉の側近として仕えた曽呂利新左衛門は、知恵者として有名でした。あるとき、秀吉に褒美は何がいいかと尋ねられ、1日目に米1粒、2日目に米2粒、3日目に米4粒、以後倍々に増やしていって、100日分頂戴したいと答えました。欲がないなあと簡単に引き受けた秀吉でしたが、それが膨大な数になることに気付いて、他のものに変えさせたという話です。この場合、2の100乗引く1となり、とても計算できるものではありません。この逸話には諸説あって、畳1畳目に1粒、2畳目に2粒、3畳目に4粒、畳100畳分というものと、碁盤のマス目になぞられたものがあります。碁盤の目は19×19ですが、マス目は18×18(=321)で、求める答えは、2の321乗引く1となります。

この計算式で思い出すのが、ハノイの塔です。ハノイの塔は、フランスの数学者、エドゥアール・リュカの創作です。「インドのガンジス河の畔のベナレスの寺院に、3本の支柱と64枚の円盤で作られた塔がある。僧侶たちは、ルール(円盤はすべて違う大きさ、小さい円盤の上に大きい円盤を重ねてはいけない)に従って、円盤を移動させる。円盤の移動が終わるとき、世界は崩壊するという」。
これの答えも、2の64乗引く1になります。ちなみに、1手1秒とすると、64枚の円盤を移動させるには、約5845億年かかるそうです。私がパズル・デザインを担当したNHKアニメ「ファイ・ブレイン 神のパズル」の中でも、ハノイの塔が登場します。第1シリーズ#22で、ジンがハノイの塔をやっているシーンがあります。ジンは「もうすぐ終わる、後、1844京6744兆737億948万6079手で終わる」といっています。これは64枚の内の16枚の移動が終わり、17枚目を中央の支柱に移動させたところです。

これは九連環、またはチャイニーズ・リングと呼ばれる、中国生まれの知恵の輪として有名です。諸葛孔明も遊んだとかいわれますが、真偽のほどは分かりません。ハノイの塔同様に、環が増えると、累乗的に手数が増えるというものです。九連環の9連の場合、最少手数は341手です。解き方もよく似ていて、同じことの繰り返しを1つずつ増やしていくような感じ、とでもいえばいいでしょうか。どちらのパズルも、数が多いと、迷ったとき、次の手が進む手なのか戻る手なのか分からなくなってしまうという共通点があります。
「NUMB3RS 天才数学者の事件ファイル」については、また書きたいと思います。