自民党が採択した今年の運動方針。前文に続き「改憲原案の発議に向けた環境を整えるべく力を尽くす」と明記したが、新型コロナウイルス対策など改憲よりも優先すべきことがあるのではないか。
運動方針は、政党が一年間に重点的に取り組む活動内容を列挙したもので、党員には活動の指針となる重要文書だ。通常、党の最高機関である党大会で採択される。
自民党も当初、全国から党員代表が集まる党大会を三月八日に開く予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で開催を見送り、代わりに党所属国会議員のみによる両院議員総会を十七日に開き、運動方針を採択した。その判断はやむを得まい。
前文に続き、「新たな時代にふさわしい憲法へ」との項目を立てて、改憲に向けた決意を強調。
自民党が(1)自衛隊の明記(2)緊急事態対応(3)合区解消・地方公共団体(4)教育充実-の条文イメージをまとめたことに言及、「改憲原案の国会発議に向けた環境を整えるべく力を尽くす」と述べている。
一九五五年の結党以来、「現行憲法の自主的改正」を党是とする自民党が、改憲を目指す方針を打ち出すことには何の異論もない。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で国民生活や企業活動への影響が深刻化しつつある中、改憲を運動方針の筆頭に挙げ続けることには違和感を禁じ得ない。
二階俊博幹事長が記者団に「改憲議論を持ち出すのは適当ではない。もう少し落ち着いてから対応すべきだ」と述べたのも当然だ。
運動方針は昨年七月の参院選で「(改憲)議論を前に進めよ」との国民の強い支持を得た、とも記しているが、参院選で自民党は第一党を維持したものの議席を減らし、参院の「改憲勢力」は改憲案発議に必要な三分の二を割った。
共同通信社が二月中旬に行った全国電話世論調査では、安倍首相の下での改憲に反対と答えた人は56・5%と半数を超える。参院選や世論調査の結果を見る限り、改憲議論の推進が国民の声とはとても言えまい。むしろ拙速な議論を戒めているのではないか。
そもそも運動方針の案が総務会で了承されたのは二月二十一日。それから三週間余りの間に修正しようと思えばできたはずだ。
政党の都合が優先され、国民の暮らしが後回しにされてはならない。今こそ「政治は国民のもの」という原点に立ち返り、国民の声に謙虚に耳を傾けるべきである。
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