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【今は昔】転生!かぐや姫【竹取の翁ありけり】 作者:七師

第2章「かぐや姫」

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陸拾伍.童がつかいにやはあらむ

 月末の空に月はなく、星明りのみの暗い夜空を俺は上賀茂神社に向かって飛んでいた。


 (胸、きついかも)


 格好は相変わらず烏帽子に狩衣の男装だが、健やかに成長した胸が不自然にならないようにさらしでしっかり胸を抑えているためかなり胸が苦しい。ちなみに長く伸びた髪は烏帽子の中にまとめて隠しているのだが、こちらは四次元ポケットに吸い込まれるようにすっきり隠れている。どうせなら狩衣にもその機能をつけておいてくれればよかったのにと思う。


 (大きな胸なんて邪魔なだけだよ、ほんと)


 男子高校生だった頃なら絶対に思わなかったであろうことを思いながら空を飛んでいると、上賀茂神社が見えてきた。


 神社を囲む森の中へ木々を分け入って入っていくとむっとする夏の匂いが鼻を刺激する。これが昼間なら耳が痛くなるほどの蝉の大合唱に包まれるのだろうが、代わりに控え目に鳴く夜の夏の虫の声に出迎えられた。夜行性の甲虫たちが人の気配に驚いて跳び去っていった。


 (今日は天照来るのかな?)


 実は天照とはもう1ヶ月も会っていない。夏至の前日に月☆読に追いかけられて俺を身代わりに仕立てた時が最後だ。その後も週1の間隔で3回神社に来たが、3度とも天照が現れることはなかった。


 俺はゆっくりと境内を奥に向かって進んだ。途中で天照に呼び止められればそれでよし。そうでなければ一応参拝をして境内のどこか居心地のいい場所を見つけてしばらく待っていようと思う。


 ブーン……ブーン……


 俺「カッ」


 …


 蚊がうるさかったので気合を入れて威圧してやったらいなくなった。身の程知らずな奴らめ。


 境内の一番奥で拍手をする。略式の参拝だがだからといって神の怒りに触れるほどのこともないだろう。そんなことが不敬ならこれまで境内で大騒ぎしていたのはなんだったのかということだ。


 天照が現れないので境内の手頃な岩の上に腰を下ろす。神殿の縁側に座ろうかとも思ったが、さすがに気が引けたのでやめておいた。


 (ここまで来てはみたものの、天照になんて説明すればいいんだろ)


 俺は座ったままぼんやりと空を見上げた。現代ではまず見ることができない満天の星空。転生して目が良くなったことと月明かりがないことで、本当に空の隅々まで星で埋め尽くされていることがわかる。周囲に全く人気は感じられず、俺の周りにあるのは完全な孤独だ。


 (天照は雪のことを知らないし、そもそも天照は得体の知れない相手が不気味だと思う人間の気持ちって分かるのかな)


 考えているうちに、あんまり天照は相談相手として適切でない気がしてくる。話すだけ時間の無駄かもしれない。といって、天照が来なければどっちみち無駄なのだからこんな心配は無意味なのだが。


 時間と共に天照に相談しようと決めた気持ちが揺らいできたものの、といってすぐに屋敷に戻る気にもなれず、なんとなく足をぶらぶらとさせながら夜空の星の数をぼんやりと数えていた。


 俺『あ、流れ星』


 見上げる空をキラッと一筋の流れ星が流れた…


 俺『やけにしつこい流れ星だな』


 一瞬で流れて消えるはずの流れ星は、いつまで経っても消えることなく流れ続けていた。


 俺『あれ、もしかして天照か?』


 流れ星は少しずつその明るさと大きさを増しながら確実に俺の方に向かってきていた。そして、ついに俺の目の前に降り立った。


 月☆読(全く。どうして私がこんな子どものお遣いのようなことを…)

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