伍拾陸.空中散歩
ともあれ、月☆読の乱入で天照の狼藉からなんとか逃れられた。俺は胸を両手でしっかりと抑えて、少し涙目で天照を睨みつける。
俺『変態っ! スケベっ!! このエロ女神っ!!!』
ようやく分かった。あの変態式神の性格はこのエロ女神のせいだ。間違いない。
天照『へっへっへ。よいではないか、よいではないか』
俺『よくないっ。来るなっ。あっち行けっ』
冗談じゃなくマジでやばい。なんか、初めて会った時に天照に胸を触られた時はなんにも感じなかったのだが、さっき胸を触られた時は今まで感じたことがないような変な気分になってしまった。あれはやばい。あれ以上やられると本気で泣きそうになる。
俺は必死で胸を抑えたまま、少しずつ後ずさりをした。その様子に加虐心をくすぐられたのか、天照は笑みを浮かべながら近づいてくる。あ、今なんか頬を水が流れた。
(やめて…。助けて…)
天照がふっと視界から消えて、突然ぴったり真横に出現する。
俺『ひっ!!』
なんか墨の気分が一瞬分かったような気がした。ごめんよ、墨…。
(ああ、終わった。さよなら、俺の貞操…)
と、天照は俺の胸に手を入れるのではなく、俺の手を握って空へと持ち上げた。
俺『えっ?』
天照『ちょっと、散歩しよ』
俺『あ、ああ』
天照の考えが読めないまま、俺はまだ解除していなかった八咫烏の羽の力で空に舞い上がった。天照も俺に並走する形で空へと舞い上がる。
今日は生憎の新月で、地上を照らすのは星の光だけだったが、そんなことは夜目の利く俺や天照には関係のない事だ。2人は並んだまま平安京の上をゆっくりと飛行した。
俺『そういえば、天照と初めて会ったのは満月の夜だったから、もうあれから半月になるんだな』
天照『…』
さっきから天照はずっと無言で俺の隣を飛んでいる。俺はその横顔をなんとなく見つめた。
(黙っていれば本当に可愛いんだけどな)
俺『さっき月☆読が、口で話をするのは人間みたいだって言ってたけど、天照って口で話すよな』
天照『練習した』
俺『へっ?』
天照『姫ちゃんと話すために練習したんだよ』
俺『そっ、そうなのか』
(天照が、現代語を、俺のために?)