伍拾弐.Dive into the sky
男性(そうか。あいつのせいですね。あのお姉さまが最近ご執心のあのなんとか姫とかいう人間の女。お姉さま、この際だから言わせて頂きますが、まあ言っても聞いてくださらないのでしょうけれど、あまり高天原の外のものと交流を持たれるのはお止めになったほうがよろしいのではないでしょうか。お姉さまのお相手でしたらこの
(月読…。どこかで聞いたことが…)
そうだ、思い出した。天照の弟でいまいち影の薄い月の神だ。それにしても月☆読って…、なんでわざわざ☆を入れたがるのかなぁ。美形なのにシスコンっぽいし☆だし、姉弟そろって残念な神様だな。
月☆読(とにかく、そんなことより、夏至の準備です。もう何百年もやってきたことなんですからわがままを言わないで面倒くさがらないでちゃんとやってください)
そう言うと、月☆読は俺の手を取ったままどんどん高度を上げていった。
(ちょっと待て? 俺が月☆読のお姉さまってことは、俺は今、天照になってるのか)
俺は思わず自分の胸を見た。
(なるほど)
納得である。
俺(えっと、月☆読、ちょっと聞いてくれ。俺は天照じゃない。さっき言ってた竹姫っていう人間の女の方だ)
月☆読(そんなこと言って夏至のお勤めをサボろうったってそうはいきませんよ)
俺(本当だ。よく見てみろ。姿形は似てるかもしれないけど、中身は別人だろ)
月☆読(…)
俺(…、分かったか?)
月☆読(では、試させてください)
そう言うと月☆読は、高度100メートルを超える上空で俺の手を放した。
俺『え? ええぇぇーーーーー!!』
1687年にアイザック・ニュートンが公表した万有引力の法則は、天体を含むこの世のすべての物体に引力が存在するというものだ。これにより、人類は地上の物体の運動と天体の運動を同じ式で計算することができるようになった。平安京が建設されてから約900年も経った時のことだ。
そして今、俺の身体は万有引力の力で地面に向かって加速しながら近づいていた。その上、最悪なことに俺の身体は落下の瞬間に変な力がかかったらしくグルグルと回転している。
(しっ、死ぬ。このままでは、確定的に死ぬ)
俺は急いで八咫烏の羽を取り出して、手順通りに羽を振り、頭上に羽を掲げた。
俺「空へ」
しかし なにも おこらなかった
俺『なぜだーーーーーーー!!』
(そうか。八咫烏の羽の発動手順は、最後に羽を「頭上」じゃなくて「天」にかざすんだった)
グルグル回転しながらでは向きが変わって羽を天にかざせない。
天照、月読、そしてスサノオの3柱の神はイザナギという神から生まれた兄弟とされています。天照が女神で残りは男神です。天照とスサノオについては神話がたくさんあるのですが、なぜか月読はほとんど活躍していないようです。月読を主神として祀る神社もあまり有名ではなく、三貴子というわりに目立たない存在です。
お知らせ。ジャンルをコメディに移したばかりですが、歴史に戻そうと考えています。移動後のアクセスの推移とコメディジャンルのランキングのラインナップを観察して、やはり歴史ジャンルの方がより適切ではないかと思うようになりました。各ジャンルに読者の方が何を期待しているかは作者としてはどうしても手探りとなってしまいますので、こういう迷いが生じてしまいますが、ご理解いただけると幸いです。これからもよろしくお願いします。