この話には『ユグドラシル』というゲームの『ワールドガーディアン』についての捏造設定あります。苦手な方は避けた方がよろしいかと思います。
また時系列はワールドチャンピオン6人の集団が"傭兵魔法職ギルド"を一方的にPKした後の話です。
※※※※※※※※
「今の俺は無敵だ」
そうプレイヤーの一人が言った。
「あまり調子に乗らない方がいいんじゃないか?」
同じギルドのリーダーである男が警告する。普段ならそれを媚びるように嬉しそうにハイハイ言っていたが……だが今は……。
("ワールドチャンピオン"の集団にPKされて"ワールドディザスター"のクラスをなくした奴の言う事なんかどうでもいい。今まで"ワールドディザスター"のクラスを持っていなかった俺のこと馬鹿にしてたくせに……。)
(そうだ。手始めにこのギルドを潰すっていうのはどうだ?そうだ……だって俺は……)
偶然にもワールドガーディアンを取得したのだから………。
その日、ギルドを脱退した男はすぐさま仲間だった者たちをPKしていった。
「やめろ!」
「やめてくれ!」
「助けてくれ!」
「俺たちは仲間だったじゃないか!」
「何でだよ!」
「そうだな……今までのお前たちの言葉を借りるなら"仲間っていうのは対等な奴のことだよ"!じゃあなPKされろ!クズギルド!」
この日、『傭兵魔法職ギルド』と称されるギルドが壊滅した。
そして裏切られた者たちは誰しもが"裏切者"を憎み、その情報を『ワールドサーチャーズ』にリークした。
だが壊滅したギルドのリーダーは裏切者を憎んでいた。ゆえに望んだのは裏切者がPKされることであった。
ワールドサーチャーズのリーダー『しーかー』はそれを了解した。
無論タダという訳にはいかなかった。ある"世界級アイテム"の情報を渡すことを条件に承諾。
こうして広められた情報を多くのギルドが知ることになる。
それは当然『アインズ・ウール・ゴウン』も例外ではなかった。
ナザリック地下大墳墓の地下9階に位置する円卓の間で『ぷにっと萌え』は"情報提供者"から受け取ったメッセージを見て愕然とする。
「えっ……」
そう言って何度もメッセージを読み返す。信じられない内容のため読み返すがその度に事実だと再認識させられてしまう。
(どういうことだ?いやそれよりも今後のギルドの方針について考えるべきか……)
『ぷにっと萌え』は思考の海を泳いでいた。事実ログインした人物たちに気付けなかったのだ。
「お久し振りです。『ペロロンチーノ』さん」
「おひさ!『モモンガ』さん。アレ?珍しく『ぷにっと萌え』さんが一番乗り?」
円卓の間で二人は同じギルドメンバーである男を見る。さっきからコンソール画面を開いており何やら考え事をしているようであった。
「どうしたんですか?『ぷにっと萌え』さん」
「あっ、『モモンガ』さん。『ぺロロンチーノ』さん。お久しぶりです。突然ですが『傭兵魔法職ギルド』を覚えていますか?」
恐らく声をかけていたのだろう。全然気づけなかった。
「えぇ。勿論です。幾ら何でも"鉱山の一件"でのことを忘れませんよ。一番最後に更新された情報はワールドチャンピオン6人の集団と戦って実質壊滅したはずですよね。あの動画は凄かったですよね。その後はギルドマスターのプレイヤーと他のワールドディザスター持ちがPKされたことが切っ掛けで瓦解したとか」
「確かにワールドディザスターはPKされてしまったら"取得する権利"を奪われてしまいますもんね。ギルド内で抗争が起きても不思議ではないですよね。それで『ぷにっと萌え』さん。その『傭兵魔法職ギルド』がどうかしたんですか?」
確かにその通りだ。"ワールドディザスター"には"取得する権利"というものが存在し、この権利はPKすれば奪うことが出来るものであった。この"取得する権利"を得ることで初めて"ワールドディザスター"というクラスを取得できるのだ。
『ぷにっと萌え』は二人の認識----特に『ペロロンチーノ』の認識----が間違いないことを確認して良かったと思った。これなら他のメンバーも同様に余計な説明をせずに簡潔に話せるだろう。
「たった今、『ワールドサーチャーズ』から得た情報です。『傭兵魔法職ギルド』が完全に壊滅しました」
「「!?えっ……"完全に"どういうことですか?」」
「元々ワールドチャンピオンの集団と戦って大敗した後、ギルドマスター含む主要メンバーの内5人がワールドディザスターの"取得する権利"を奪われました。ここまではお二人も知っていますよね」
モモンガもペロロンチーノも頷く。あまりに有名な話であったからだ。誰が撮った動画かは不明だがワールドチャンピオン6人というドリームチームが『傭兵魔法職ギルド』のプレイヤーたちをPKしていって圧勝したのは記憶に新しい。
「先程の件で発言力を失った者たちと"取得する権利"を保持したままのギルメンたちとの対立が起き、"取得する権利"を奪うためにPKしたらPKされるを繰り返しました。これは推測ですが…元々仲が良くなかったんでしょう。続けます……そこを元々ワールドディザスター持ちでなかったメンバーたちがギルドから脱退しました。この時点でギルド半壊ですが話はまだ終わりません。今度は脱退したギルドメンバーが弱体化したワールドディアスター持ちをPKしたそうです。そこからまたPKの繰り返しです。そこからは更に抗争が激化しています」
(もうその時点でギルド崩壊してるじゃないか)
「所属するプレイヤーの大半がレベルダウンして弱体化した所を『2ch連合』によってPKされて、『傭兵魔法職ギルド』からワールドディザスターを"取得する権利"を持つ者は一人もいなくなったそうです。元々"ワールドディザスター"を取得していたプレイヤーの半分以上は引退したそうです。これも推測ですが…恐らくギルド武器も破壊されたことで引退まで決意をしたのでしょう」
「エグいな……」
「以上で話は終わり……と言いたいところですが、まだ一つだけ言っていないことがあります」
「これ以上まだ何かあるんですか?」
「『2ch連合』がギルド拠点を襲撃する前に、一度和解の為に"ワールドディザスター持ちだった"一派、"ワールドディザスターを保持したまま一派""ワールドディザスターを持っていない一派"の三つの派閥に分かれたそうなのですが、話し合いの席を設けられたようなんですよ。その話し合いの席を設けたのが誰かは分かりませんが……その席で弱体化した全てのギルメンをPKしたプレイヤーがいます」
『ぷにっと萌え』は一度息を呑むと口を開いた。
「そのプレイヤーは"ワールドガーディアン"を取得していたそうです」
「「…えっ……」」
「"ワールドガーディアン"?……"ワールド"を冠する職業って他にもあったんですか」
ぺロロンチーノはそう言ったのには訳がある。"ワールド"を冠するものはバランスブレイカーなものであるのはユグドラシルというゲームにおいて非常に有名であり、常識と化している。だがそんな"ワールド"を冠する職業はアインズ・ウール・ゴウンでも二つしか知らなかった。一つは各ワールドで開催される公式武術大会を優勝することで取得できる"ワールドチャンピオン"。もう一つは通称『傭兵魔法職ギルド』のメンバーが多く取得していることで有名な"ワールドディザスター"。アインズ・ウール・ゴウンのメンバーにはそれぞれのクラスを取得しているメンバーがいる。だからこそ大きく分けて戦士職"ワールドチャンピオン"と魔法職"ワールドディザスター"が存在し、それらは対を成していると考えられていた。
ゆえにペロロンチーノは寝耳に熱湯をかけられたような気分であった。
「そんなクラスを持っている奴がいるんですね。ねぇ?『モモンガ』さん」
「……」
ペロロンチーノは不思議に思った。何故か我らがギルドリーダーは沈黙しているのだ。
「『モモンガ』さん?」
「……すみません。『ぺロロンチーノ』さん。そんなクラスを持っている奴がいるんですね。ギルメンのみなさんにも早く教えないとですね」
ぺロロンチーノが再び尋ねるとモモンガはハッとしてようやく返事をした。その反応を見てぷにっと萌えは察した。
「……『ぺロロンチーノ』さん。悪いけどみなさんに"この情報"を伝えてきてもらっていいですか?"この情報"はもうすぐ公開する予定らしいので先に知ってもらっときましょう」
「分かりました。敵対した場合は最悪ですもんね。じゃ、モモンガさん。また後で」
「はい。また後で」
去っていくぺロロンチーノに向かってモモンガは手を振った。
「モモンガさん……さっきはどうしたんですか?」
「えっ……」
「隠さなくてもいいですよ。多分ですがワールドガーディアンを取得したプレイヤーが"ギルドを裏切った"ことに腹を立てたのでしょう?『モモンガ』さんは"ギルド大好き"ですもんね」
「すみません……やっぱり、『ぷにっと萌え』さんには隠し事が出来ないですね」
「……『モモンガ』さん。あまりため込まないで下さいね?」
「えぇ。大丈夫です。すみませんね。ご迷惑をおかけしまして……」
(いつもそうだ。あなたはいつも他人を優先する。いや……私たち"ギルドメンバー"を優先する。ネット上の繋がりだけの私たちを至上として……いや、してしまっている。それは最早、仲が良いとかそういう次元じゃない。それは----だ。だが……モモンガさんは"良い人"だ。だからこそ個性豊かなこのメンバーを上手く纏められている。それも事実だ。それだけに苦労もしている)
「そんなこと、微塵も思ってませんよ」
(恐らくこれ以上この話を続けることはモモンガさんに余計な気を使わせるだけだろう。だったら……少しでも彼の感情のはけ口を用意しよう。いつか彼が我侭を言えるように)
「……後で多数決を取りませんか?この"ワールドガーディアン"を取得したプレイヤーを私たちでPKしませんか?」
「えっ?策はあるんですか?」
「策はここにありですよ」
そう言って『ぷにっと萌え』は自身こめかみを指で叩いたのであった。
だが……
アインズ・ウール・ゴウンのメンバーが多数決を取っている間……
その時間に"ワールドガーディアン"を取得したプレイヤーはあるプレイヤーと戦っていた。
そしてそれは彼を"最強"だと再認識させることになる。
その人物こそが
ヨトゥンヘイムのワールドチャンピオン
即ち1位である。
ヨトゥンヘイム とある街を出た所
「お前が"ワールドガーディアン"か?」
「そういうお前は"一位"か?」
マゼンタ色の
(クソ!『傭兵魔法職ギルド』を潰したことでこれから俺をPKしようとする奴らがいるはずだ。そう思って街で買い物を済ましたのに……まさかワールドチャンピオン一位に目をつけられるとはな。だが反対にこれは幸運かもしれない。自分の実力を確かめるには丁度いいかもしれない。仮に負けてもこいつが俺をPKすることはないだろう。だって"プレイヤーハンター"だから)
"プレイヤーハンター"
ユグドラシル内である『ジークフリート』に付けられた異名。ユグドラシルでは"異形種狩り"を初めPKが度々行われた。そんな時に戦闘だけを行い敗北した相手をPKをしなかったのだ。勿論PKをしない代わりに回復アイテムや金貨などを渡す必要があったのだが、その理由も「街まで遠いからけどアイテムを補給したい。だから…」とのことである。無論罠にかけられ、複数人を同時に相手にしたこともあった。その時に全員PKしたことから彼を尊敬と畏怖の意味を込めて誰かがそう言い出したのが切っ掛けである。
「さて、ここで会ったのも何かの縁だ。対戦しないか?」
「問題ない。場所を移ろう」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
◇◇◇◇
ミドガルズ とある丘
周囲に誰もいない丘。
そこで二人は戦っていた。
マゼンタ色の全身鎧を纏い剣と銃を使いこなして戦う『ジークフリート』。
それに対して茶色のローブを纏い杖で魔法を発動していく男。
「<
「<
その瞬間、『ジークフリート』にダメージを受けてしまう。
「!これは……」
「どうした?来いよ」
(このスキルで攻撃した瞬間に俺にダメージがあった。
「どうした?攻撃してみろよ!」
(ユグドラシルで"ワールド"を冠するものは総じてバランスブレイカーだ。だが"次元断切"を反射できるということは何かカラクリか……あるいはデメリットがあるはずだ。少しカマをかけてやるか)
「こっちから行くぞ?」
「知ってたか?俺のこの武器は世界級アイテムだぞ」
「!それは本当か?」
「あぁ。大会で優勝した際に選んだアイテムだ。一位だから選び放題だからな」(嘘だがな…)
「その武器は俺にこそ相応しい。奪ってやるよ」
(この感じ……動揺していないな。俺に勝って世界級アイテムを奪える自信がある?いや違うな。仮にもワールドチャンピオンである俺相手にここまで自信を持てる根拠は何だ?魔法職が接近戦に弱いのは過去に流れた動画で証明されている)
「くっ、さっきから防戦一方だが、いいのか?」
「問題ない」("次元断切"で攻撃した瞬間に大ダメージを受けた。"世界級アイテム"だと聞いて動揺しなかった。ここから考えるに……)
「ワールドチャンピオンさんよ!来いよ!」
(……成程…あくまで推測だが"ワールド"が付く攻撃を受ける際に発動することで敵に攻撃を"返している"のか……だから即座にカウンターに成功されてしまうわけだ。それならば世界級アイテムの名前を出した時の態度も納得がいく。そうと分かれば後は簡単だ)
「何だ?それは?」
「五分だ。あと五分でお前を倒す」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「なっ……何で…」
「五分もいらなかったな」
「くそ!」
HPが限界まで減少した男が襲い掛かる。
「がっ!?」
「<
『ジークフリート』の持つ銃から麻痺状態にする弾丸が放たれる。
勝利したのは『ジークフリート』だった。
剣と銃の二刀流で相手を翻弄し、
最後は相手のスキルが使用できなくなった所を倒した。
"次元断切"を使わなかった。
「俺はお前をPKしない。その代わり…」
「分かったよ。"ワールドガーディアン"についてだろ?でもヒントだけだ」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「じゃあな」
そう言って『ジークフリート』は去っていった。
(だがこれで俺は……どこが弱点か分かった。もう少しで麻痺の効果時間が過ぎる)
「次はもっと上手くやってやる」
「お前に"次"はない」
「なっ……何でお前がここに?」
「久しぶりだな。裏切者!」
「リーダー……」
「『ジークフリート』さんには感謝だな。あの人のおかげでこうしてお前に報復できる」
「もしかしてずっと尾行していたのか……」
「そうだ。最大限の屈辱を与えるためにな。<
男の身体に電撃が走る。その瞬間画面が暗転した。
「ち…ちくしょう」
「PKできたか……安心しろ。お前がどこで蘇生しようと裏切られた"みんな"がお前をPKする。引退するまでずっとな……」
(致命的にスキルの使い方が下手だ。単調すぎる。だが柔軟な考えを持っていれば流石に負けていただろうな……)
「メールか」
『ジークフリート』はコンソールの画面を開いた。
(情報収集お疲れ様。か……。「まぁまぁでした。今そっちに戻ります。『しーかー』さん」)
そうメールを返信すると『ジークフリート』は歩き出した。
ジークフリート
ユグドラシル内でヨトゥンヘイムのワールドチャンピオンになった人物。一位。
大型アップデート"ヴァルキュリアの失墜"後にレベル構成を変えたためワールドチャンピオンの大会で優勝した時とは戦闘スタイルが"かなり"変わっている。
現在は片手剣と
マゼンタ色の
むちゃくちゃ強い。
モデルはあります。
ユグドラシルをプレイ時の主なレベル構成
初期(公式武術大会の前後) → 戦士職(戦士系・モンク系)
中期(大型アップデート後) → 戦士職(剣士系・ガンナー系)
末期(サービス終了時) → ???
<ワールドガーディアン>
バランスブレイカーな魔法職。最大Lv5。
非常に優れたスキルや
また全体的にステータスが大幅に上昇する。
取得条件は不明。
①守護神に選ばれし者
……詳細不明。
②守護神の加護
……常に"ワールド"が付かない全ての攻撃のダメージを20%カットする。
③
……スキル。一日に使用できる回数制限があるが、スキル・魔法の向きを変えることが出来る。
自分の攻撃は必中し、相手の攻撃は受けずに済む。「反射」ではないため攻撃した本人にカウンター出来ない。
最大の利点は敵対者が複数人(仮にAとBとする)いる場合、Aから受けた攻撃をBに屈折することが出来る。
非常にタイミングが難しいがAとBによって同時に攻撃を受けた場合はAの攻撃をBに、Bの攻撃をAに屈折することでカウンターすることも可能。
ただし一定範囲内にいる相手にしか使用できないため対戦士職向けのスキル。
<
ワールドガーディアンを最大レベルまで上げた際に使用できるようになるスキル。
"ワールド"と付く攻撃のみを"反射"(要するにカウンター)することが出来る。ただしその際に2倍にして返す。
イメージとしては受けた攻撃のダメージという"データ"のみを反射させる。そのためカウンターされたとは気づかれにくいため次のカウンターをしやすい。
ただし"ワールド"とつく攻撃のみなのでその他の攻撃は全て反射できない。そのため超位魔法をも超える大ダメージを与える"
また余談だがワールドディザスターが"ワールド"を冠する職業でありながら取得できるスキルなどに"ワールド"が付かないのはこれが理由。運営はこうすることでゲーム内のバランスを密かに取っていた。
ただし発動条件は
①自身の残りHPが40%を切っていること。
②対象及び対象の攻撃に触れている間のみ使用可能。
③上記の性質上、スキル発動のタイミングを間違えれば普通にダメージは受けてしまう。
戦士職のワールドチャンピオン
「
「次元断層」(究極の物理防御)
魔法職のワールドディザスター
「
魔法職のワールドガーディアン
「