製品やサービスそのものによる差別化が難しくなり、ブランドや購買にまつわる体験が購買意欲を左右する昨今、CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)の重要性はますます高まっている。顧客と向き合い、顧客理解を深めてCXの向上に努めるのは当然のことだ。だが、企業経営の観点から見れば、それだけで十分とは言えない。なぜなら、顧客との接点に関わる自社の従業員への視線が欠けているからだ。
Gartner ディスティングイッシュト バイスプレジデント/アナリストのジーン・ファイファー氏は「EX(従業員エクスペリエンス)が良ければCXは自ずと上がる」と主張する。逆にいえば従業員への十分な目配りなしに良いCXなど実現しようはずもないのだ。
Gartner日本法人のガートナー ジャパンが開催した「ガートナー カスタマー・エクスペリエンス&テクノロジ サミット 2020」におけるファイファー氏の講演から、CXにおけるEXの重要性と、良いEXの実現のために企業が取り組むべき課題についてレポートする。
「企業の従業員、チャネル、システムまたは商品とのインタラクションがもたらす1回の、または累積的な効果によって、顧客が得る認識や関連する感情」
これが、Gartnerの定義するCXだ。CXはあらゆる顧客接点からもたらされる。製品やサービスそれ自体はもちろん、それを提供する店舗Webサイト、コンタクトセンター、販売代理店などのチャネルパートナーなど、接点は多岐にわたる。そしてそこには必ず「人」の存在がある。
従業員が組織の目標達成に自ら貢献しようとする感情が「従業員エンゲージメント」だ。Gartnerは従業員エンゲージメントを「1. 従業員が組織の目標を達成するために自発的努力を惜しまず、2. 組織は自分が最高の仕事をできるようにしてくれていると従業員が感じる程度」と定義している。
米国の調査会社Gallupによると、従業員エンゲージメントの指標が高い企業は、顧客満足度の指標についても10%程度高いという。ファイファー氏は、ある病院の心疾患集中治療室において、看護師の気分が落ち込んでいる治療室は他の治療室に比べて患者の死亡率が4倍だったというエピソードを紹介した。従業員エンゲージメントは人の命さえ左右するといえるのかもしれない。
EXは従業員エンゲージメントの先にある。従業員エンゲージメントを高めることでEXは改善する。そうなれば従業員はCX向上に大きな役割を果たせるようになる。それ故に、経営者やマーケターなどCXに取り組む側は、自社で働く従業員にも目を向ける必要があるのだ。
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