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Vol.2 2008年7月17日
食料価格高騰~世界の食料安全保障~

北海道洞爺湖サミットでは、食料安全保障が主要テーマの一つとなり、首脳宣言とは別に「世界の食料安全保障に関するG8首脳声明」 が発出されました。これに先立つ6月には、国連食糧農業機関(FAO)主催「世界の食料安全保障に関するハイレベル会合」(いわゆる「食料サミット」)以下、FAOハイレベル会合(食料サミット))も、イタリア・ローマで開かれました。日々深刻度を増している食料価格高騰問題について、今回は、世界の食料安全保障の達成に向けた取り組みと、途上国に対する日本の支援について解説します。

食料価格の高騰とその原因

穀物の国際価格の推移大豆や小麦など、穀物をはじめとする食料価格の上昇が、私たちの生活に大きな影響を及ぼしています。食料価格の推移を農産物別に見てみると、とうもろこし、大豆は2年前のおよそ2倍、小麦はおよそ3倍にまで上昇しています(図1)。今後の農産物価格は、近年の記録的な高値からは下がるものの、過去10年間よりもはるかに高い、いわゆる「高止まり」の状況が続くだろうとの見通しが、経済協力開発機構(OECD)とFAOの報告により明らかになってきています。食料価格が高騰している理由には、新興国の経済成長や人口増加による消費増のほか、過去の食料危機の局面にはなかった原油価格高騰との連動や、気候変動、バイオ燃料の需要増、穀物市場への投機マネーの流入など複合的な要因が考えられています。

 
 

食料価格高騰が途上国に与える影響と悪循環

食料価格の高騰は、特に、主食を輸入に頼る途上国にとっては切迫した問題となっています。現在、餓えに苦しんでいる人々の数は8億人を超えると言われており、これは全世界の人口の7人に1人に相当します。中でもサハラ砂漠以南のアフリカでは3人に1人以上が満足な食事ができない状況が続いています(図2)。飢餓の原因は、異常気象による洪水や干ばつなどの自然災害のほか、紛争、慢性的な貧困、経済の低迷などが挙げられますが、昨今の食料価格の高騰は事態を急激に悪化させています。ハイチやカメルーン、コートジボワール、モーリタニアなどの国では暴動が起こり、死傷者が出る事態を招いています。このような状況を踏まえ、6月、FAO本部のあるローマでFAOハイレベル会合(食料サミット)が開催され、福田総理を含む180カ国の首脳陣や国際機関の代表が一堂に会し、世界的課題となった食料価格高騰問題や気候変動、バイオ燃料による世界の食料安全保障における課題への対処等などについて、真剣な話し合いが行われました。

世界の飢餓状況
 

FAOハイレベル会合(食料サミット)の開催とその成果

その結果、世界の食料安全保障のためには「緊急・短期的な措置」と「中・長期的な措置」の包括的かつ一貫した対策を打ちださなければならないこと、国際社会が調和のとれた行動をとる必要があること等を確認する宣言が採択されました。「緊急・短期的な措置」とは、途上国への緊急食料援助や食料増産のための支援、輸出規制をはじめとする食料価格の不安定化につながるような措置の自粛などを指します。また、「中・長期的な措置」としては、農業分野への投資の増大や国際貿易の自由化促進、食料需給や価格水準といった観点を含む世界の食料安全保障に配慮した持続的なバイオ燃料の生産・利用、気候変動に食料生産システムを適応させるための支援の必要性などが挙げられます。そして総括的な「決意」として、今後の食料生産のさらなる強化と、食料を手に入れるための障害を除去する努力を誓うとともに、食料増産に向けた投資の拡大、限られた資源を持続的に利用するためにあらゆる手段を講じることが示されました。さらに、飢餓と貧困の撲滅に向けて、土地や水資源の不足、気候変動、エネルギー需要の増加、人口増加などの問題に、国際社会が引き続き足並みをそろえて取り組んでいくとの認識で一致しました。

 
 

日本の支援

食料価格の高騰は、「世界最大の食料純輸入国」である日本にとっても、重大な問題です。福田総理は、FAOハイレベル会合(食料サミット)での演説の中で、飢餓に苦しむ人々に対して一刻も早い支援の手を差し伸べるための緊急対応策を取るとともに、各国の農業生産を強化するための中長期的施策を行うことの重要性を強調しました。具体的な支援策としては、1億ドルの緊急食料援助と約5千万ドルの貧困農民に対する食料増産支援の追加、日本政府の備蓄米およそ30万トン以上の放出を表明し、農産物の輸出規制等の措置の自粛を呼びかけました。さらに、5月に行われたTICAD IVを受けて、アフリカをはじめとする途上国に対し、農業分野、特にコメの生産能力を向上させるための支援を充実させることを、国際社会に対して改めて明言しました。

日本の支援
 

「第2世代のバイオ燃料」

食料価格高騰問題において、議論の中心のひとつであり、将来、化石燃料に代替するエネルギーとして注目を集めているのがバイオ燃料です。バイオ燃料とは、さとうきびやとうもろこし、大豆などの生物資源を原料としており、CO2排出量が増加するのを防止できることから、地球温暖化対策の1つとしてその普及が期待されていますが、同時にバイオ燃料用の原料としての食料作物の利用増加が、穀物価格の上昇に影響を及ぼしているのではないか、という懸念の声も少なくありません。福田総理は、FAOハイレベル会合(食料サミット)でこのバイオ燃料のために世界の食料安全保障が脅かされることがないよう、食料作物ではなく間伐材や稲わらを原料とする 「第二世代のバイオ燃料」の研究と実用化を急ぐことによって、その生産を持続可能なものとする必要性を述べ、日本としても積極的に取り組むことを表明しました。

バイオ燃料~第一世代から第二世代へ
 
 

地球全体としての農業生産力の強化

FAOハイレベル会合(食料サミット)は、国際社会に「緊急かつ協調した行動」を求める宣言を採択して閉幕しましたが、食料価格高騰問題は、7月に行われた北海道洞爺湖サミットにおいても、重点課題として話し合われました。 G8サミットでは、福田総理が、最も脆弱な人々への緊急ニーズに取り組むことや、次の作付けに向けた種子や肥料を提供するため、G8は率先して支援を行うことを約束するとともに、他の先進国を含む国際社会の取り組みの方向性を示す必要があるとして、G8専門家グループの設置等について発言し議論をリードしました。その結果、「世界の食糧安全保障に関する首脳声明」が発出されました。

食料安全保障は、短期的な支援にとどまる問題ではなく、その達成のためには長期的視野に立った、地球全体としての農業生産力の強化と効率的な市場の確保が重要です。日本はG8議長国として、この問題についての今後の議論を主導するとともに、2008年1月のダボス会議で発表した「クールアース・パートナーシップ」との連動も意識し、途上国の農業生産性の向上に対して、より実効性のある支援策を推進していく方針です。

食料サミットの成果
 
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