上演時間の上限は60分間
高校演劇といえばこれって感じのルールです。ほとんどの学校が55分から60分の間でまとめている印象があります。下限についてはよくわかりませんが、40分ぐらいの舞台は大会で何度か見ました。
個人的な意見ですが、60分を持て余している学校が結構あるなと思うんですよね。話が始まって50分ぐらいまでは特に大きな変化がなく、最後の5分から10分にいろんなことが起きる。張り巡らされた伏線が最後に一気に回収されたというのであれば気持ちいいですが、そういう感じでもない。60分を埋めるだけのアイデアがないので、ひとつひとつのシーンを引き延ばしている印象を受けるのです。だから60分にこだわる必要はないんじゃないかなと。
ただ、60分の舞台がずっと続く中、40分の舞台を見ると「え、もう終わり?」とやっぱり思っちゃうので、審査員に与える印象はどうなのか……その辺が難しいところですね。
脚本は誰が書いたものでもよい
「高校演劇って、高校生が全部やるわけ?」とたまに聞かれるんですが、おおむねその解釈で合ってます。ただ、脚本だけはそうもいかないので"高校生が書いたものでなければならない"という制限はありません。
では演劇部員以外に誰が脚本を書いているのかというと、創作脚本(ようするに書き下ろし)であれば、顧問が書くことが多いです。
既成脚本は演劇部の顧問と部員の手によるものを除くと、大学生や社会人の劇団員、プロの脚本家などが書いており、投稿サイト(はりこのトラの穴など)にアップされているもの、あるいは出版されている脚本集[1]から演劇部員たちが選んでいます。
「プロの脚本がOKなら、三谷幸喜とか野田秀樹の脚本でやればいいんじゃない?」
というのもありといえばありなんですが、著作権者から上演許可を得ることが必須なんですよ。
超一流の脚本家はこのハードルが高いようで、私は過去に野田秀樹の脚本を潤色した舞台を見た[2]ことがありますが、彼の話を高校演劇で目にしたのはそれ一回だけです(好みの問題とかやりやすさもある?)。井上ひさしの話は結構上演されているようですが……[3]。
もし上演許可を得られたとしても、プロの舞台って二時間とか三時間の場合も珍しくないので、元の脚本を演劇部の誰かが一時間にまとめないといけません。それができるなら自分で書くし、書けないから既成脚本を探しているってことで、結局、高校演劇で使われる既成脚本は学生演劇用に書かれたものがほとんどなのです。
演技に対する個人賞がない(ところもある)
教育的配慮があるか、それとも別の理由が存在するのか不明ですが、少なくとも神奈川県の大会(地区大会、県大会)において、映画のアカデミー賞のような男優賞、女優賞といった表彰はありません(他の地域では出すところもあるようです。ようはあったりなかったりで一貫していません)しかし、脚本執筆者に贈られる創作脚本賞はあり[4]、不思議なところ。名前を呼ばれ一人でステージに上がる部員や顧問を見ていると、最優秀演技賞なんかも決めればいいのにと思います。あと存在するのは最優秀校、優秀校、審査員特別賞ですね。
ちなみに、映画『幕が上がる』では、百田夏菜子演じる高橋さんが「最優秀に選ばれなくても、すべての参加校に参加賞みたいなものが贈られる」と揶揄していましたが、神奈川の大会ではなんの賞も与えられない学校がそれなりに出てきます。
舞台に上がる人間の数に制限はない
アニメ『響け!ユーフォニアム』で見た知識しかありませんが、吹奏楽部の大会において、「うちは部員が一人しかいないから、トランペットのソロで出場しますね」という学校は存在しないでしょう。自らの意思でエントリーしないか、もしくはできないはず。
ところが高校演劇の場合、役者が一人だけという舞台も少ないけどあるのです(ただ、劇場関係者に音響も照明も丸投げということはできないので、スタッフは必要。つまり、トータルで部員が一人しかいない演劇部は大会に参加できない)。逆に五十人ぐらいが役者としてステージに立つ学校もあります。
公平性とかなんとか持ち出して変に条件を揃える規定がなく、役者が一人だけの学校と五十人の学校が同じ条件で競い合えるというのは私は素晴らしいと思いますし、弱小と強豪のメリハリがつきまくっていて、それも私が高校演劇に魅力を感じる理由の一つです。
地区大会から全国大会まで同じ劇を演じなくてはならない
漫才を競うM-1グランプリだと一回戦、二回戦と進むごとにネタを変えるのが普通ですが、高校演劇の大会では脚本を三つも四つも用意して、地区大会は正統派の学園物、県大会に選ばれたら戦争物、ブロック大会にまで進んだらコメディといった風に変えることはできません。ずっと同じ話で突き進んでいくことになります。
ただ、脚本の修正は多少認められているようで、地区大会と県大会で少し台詞が違うなあということはありますね。
プロとして芸能活動している人でも参加できる
子役から始まって順調にキャリアを積んでいる役者というと、神木隆之介、安達祐実、志田未来などなどたくさんいますが、もし彼らが高校で演劇部に入っていたら、なんの制限もなく舞台に上がることができました(みんな、もう高校は卒業しているので過去形)。運営の先生に確認したので間違いありません。『ガラスの仮面』に主人公の北島マヤが演劇部の部長に「プロとして活動歴のある人は演劇部には参加できない」といわれるシーンがありますが、これは作中の演劇部のローカルルールです。
2017年に作られた予備校のCMで、演劇部に入った芦田愛菜が屋上で台詞の稽古をするというのがある(下の動画の一分過ぎに該当のシーン)んですが、実際の話になる可能性もゼロではないんですよね。
都大会に芦田愛菜がしれっと出てきたら場内騒然となるのは間違いないところ。しかし、役者一人の演技で勝ち抜けが決まるほど甘くなく、脚本、演出、共演者次第で結果は変わってくるでしょう。
ちなみに「どうして演劇部に入ったの?」と演劇部員たちに聞くと、「小さい頃、劇団(児童劇団?)に入っていて、その流れで」という答えがたまに返ってきます。芸能活動と演劇部を両立する学生は実際にはあまりいないと思いますが、芸能活動を経由して演劇部に入る子は珍しくなさそうです。
マイクの装着はなし
乃木坂46など、アイドルグループのメンバーが出演する舞台では役者の口元に小さなマイクを装着するのが一般的なようですが、
高校演劇ではつけません。どんな大きな劇場であっても皆、地声で演じます。そのため、乃木坂や欅坂の舞台しか見たことのない人が高校演劇を観劇すると、「え、マイクつけてないけど?」とびっくりするかもしれません。
上演が禁止されているジャンルはあるのか?
『等身大の高校生活を描いた舞台が多いのに、どれもこれも恋愛要素がほぼないのが不自然です』でも書いたんですが、私は高校演劇でミステリを見たことが一度もありません。しかし、ルールとして「殺人描写がある芝居は駄目」とは決まっていないはずです。
ものすごいネタバレになるのでタイトルはいいませんが、登場人物が殺人を犯す舞台を大会で見たことがあるんですよ。だから、高校演劇は高校生らしいさわやかな話じゃないと駄目といった高校野球連盟的な内規は存在せず、なにを演じても自由なはずです。
ミステリのように高校演劇で上演されることが少ないジャンルは、ルールとか内規で"よろしくない"とされているのではなく、難しいから手を出さないっていうことでしょうね。
既成脚本から大会での上演候補作を見つけようとする場合、
- とりあえず面白い
- キャストの数と部員数が合っている
- キャストの男女比率と部員の男女比率も合っている
- セットが用意できそう
- 60分で収まりそう(あまり短すぎても駄目)
- 実際に上演した学校が存在する(上演記録がない脚本は不安)
おそらく上記のような条件を重視すると思われますが、ただでさえ数が少ないミステリから条件に当てはまるものを見つけるよりも、学園物など数が多いジャンルから探した方が簡単でしょう。
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関連サイト
全国高等学校演劇協議会規約 | 全国高等学校演劇協議会
2 脚本の著作権について | 全国高等学校演劇協議会
3 その他の著作権について | 全国高等学校演劇協議会
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