この質問にはいくつかの含みがあると思うので、それぞれに対して回答します。
劇場に託児所のようなものはあるか?
都大会やブロック大会が開催される東京芸術劇場にはあったはず。しかし、東京にある大きな劇場を除くとほとんどないでしょう。少なくとも私が訪れる神奈川県内の劇場では見たことがないです。
また、東京芸術劇場を含め、あったとしても高校演劇の大会時には営業を行っていないのではないでしょうか。おそらくですが、劇場を借りる際、プランみたいなものを選ぶと思うんですよね。
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基本プラン(劇場の利用のみ) 5万円
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託児所プラン(劇場に加えて併設している託児所の利用も可能) 10万円
みたいな。託児所を稼働させるなら当然、専門家が必要になるので料金は割り増しになるはず。で、お金を取る興行ならまだしも、高校演劇は入場無料ですから演劇連盟の予算はおそらく超カツカツ。それなのにあえて、託児所プランを選ぶことはあるでしょうか。
ない。あり得ない。
運営は客の事情なんて考えてないってことじゃなくて(いや、正直、あんまり考えてないと思うけど……)、そんなアンバランスなお金の使い方はしないでしょってことです。実際、「子供を連れて高校演劇見に行ったんだけど、劇場内にある託児所使えて助かった~」なんてツイート、見たことないですし。
というわけで、もしお目当ての大会が行われる劇場の公式サイトに「託児所あり」と記載されてても、利用できると思わない方がいいでしょう。
でも、親子室はあるかもしれません。(大抵は)劇場最後部に位置するガラス張りの個室です。託児所を持つ劇場よりも親子室を持つ劇場の方がずっと多いはず。是非、問い合わせてみてください。
子供が見て楽しめるか?
預けられる人がおらず、劇場内に託児所も親子室もないのであれば客席で子供と一緒に舞台を見るしかありません。では、(典型的な)高校演劇は小さな子供にとって楽しめるのでしょうか?
"高校生"のイメージから、「テンションMAXの学生たちがミニコントなどを交えながら明るく元気に芝居し、たまに踊ったりする」といった内容を想像する人が多いかもしれません。いわゆる"学生ノリ"というやつです。確かにこのような舞台もありますが、大部分を占めているのは「人間関係のトラブル」など内向きの話なんです。戦争、いじめ、差別が絡んでくる話も結構多く、小学校高学年ぐらいであれば理解できるかもしれませんが、それより下だとかなり厳しいでしょう。
血みどろのメイクをした役者が出てくるとか、リアルな暴行シーンが演じられることはまずないですが、言葉による暴力はあり、しかもたまにではあるものの、キャラクターが自殺します。生身の人間が目の前で演じている上に高校生が"高校生"になるので役と本人を同一視しやすく、さらに強豪校だと役者の熱量が半端ではないため、小さい子供ならステージ上での出来事はすべて本当のことだと受け取ってもおかしくありません。
話の流れでやばいと思ったら退場するか、「今見たことはお芝居なんだよ。いじめられていた人は本当はいじめられていないんだよ」といったフォローが必須ですね。いや、マジで。
ちなみに、ポジティブな形で子供の心に刺さる舞台もあります。たとえば、ある地区大会で上演されたコメディなんですが、小学生ぐらいの男の子がゲラゲラ笑っていました。変なタイミングで笑うのではなく、ちゃんと面白いところで反応していたので彼は内容を理解して楽しんでいたと思います。コメディは子供と相性がよさそうです。ただ、あんまりないんですが……。
子供がぐずったり騒いだりしても目立たないか?
話が単純に面白くなかった場合、大人であれば自分なりの方法で気を紛らわせることができますが、子供だとそうはいきません。
私が過去、劇場内で見た子供たちは緞帳が下りて明かりがともると「あ……終わった……の?」って感じで一様にぐったりしており、むしろ、「子供いたんだ?」とこちらが驚くぐらい目立っていませんでしたが、子供は皆、ぐったりするとは限らず、「いつ終わるのー?」とか「もう帰ろうよー」と大きな声で口にすることも十分考えられます。仮に上演中、激しくぐずったらどうなるのでしょうか。
回答までやや遠回りになりますが、劇場独特の構造についての話を少し。劇場を縦にスパっと切って横から見ると、だいたい下図のようになるはずです。
客席側の天井だけが高く、ステージから客席に向かって音を発すると反響して増幅するんですよね。おそらくこの構造のせいだと思うんですが、まったく同じ声量で言葉を発しても、
ステージ→客席 「あめんぼあかいなあいうえお」
ステージ←客席 「あめんぼあかいなあいうえお」
と、聞こえ方がだいぶ違うのです。客席側からステージに向かってなにか言ってもほとんど響かない。
たとえば講評時、審査員の質問に対して、客席に座っている部員が回答する場面がたびたびありますが、それほど離れていないのに「なんかモゴモゴ喋ってんなあ」ぐらいにしか聞こえません。本番会場でのリハーサルのとき、客席にいる部員や顧問がステージ上の役者たちにマイクを使って指示を出すのも生声だと聞こえづらいからだと思います。
だからおそらく、上演中に子供が大きな声でなにかを口にしても、周囲の観客、そしてステージ上の役者たちに内容は聞き取れないのでは?
ただ、雑音が少ないからか、小さな音がよく響く印象もあるんですよね。偉い人の挨拶時、静まりかえった中で咳払いがよく聞こえるのと同じ。それを実感するのが空腹時です。周囲の人のお腹が鳴るとすぐにわかるし、自分のお腹が鳴ったときは女子高生のくすくす笑いによって周りに聞こえてるなと感じる。スマホの電源をオフにせず、上演中にバイブレーションさせる人もいますが、これもそこそこ聞こえます。
したがって、"客席からなにか言ってもよく聞こえないけど、小さな音はよく聞こえる"ことになり、子供がぐずったときの周囲の反応はおそらく、「なんか騒がしいな」といった感じに落ち着くと思われます。観客全員、子供がいった言葉を聞き取って、場内大爆笑ということはないはず。
まあ、おなかの虫やスマホと違って子供は急に大声で「もう帰ろうよ」とはいわないでしょうし、ちょっとぐずった程度ならほとんど目立たないはず。落ち着いて外に連れ出せば問題ないでしょう。
結局のところ、子供を連れていっても大丈夫ってこと?
と思いますよ。終始ぐったりしてようが、少なくとも一時間、おとなしくできる子であればですが。ちなみに私は劇場内の子供を迷惑に感じたことは一度もないです。以前、母親と一緒に五歳ぐらいの女の子が観劇しているのを見たことがあり、大人でもややこしい内容だったのに一切ぐずることなく、しかも寝ることもなく(!)、行儀よく座っていたので、これぐらいの年齢までならなんとかなるのではないでしょうか。
おとなしく座らせておくのは難しい場合でも、会場によってはロビーなどで舞台の様子をライブ映像で流していることがあるので、応援は絶対不可能とはいえません。
リスペクトして観劇を
数年前、高校演劇って以下のような感じなんでしょという人がいました。
私なんですけども。
映画『幕が上がる』で潮目が変わった気がしますが、昔は演劇部ってフィクションの世界でコミカルに描かれることが多く、その印象が強かったのです。
実際、目にしてみると想像とまったく違いました。とにかく演劇に対して真面目に取り組んでいるし、演技の技量も大したものです。すべての大会、公演において台詞を忘れた部員を見たことがないし、もし忘れたことがあったとしても、それを観客にまったく気づかせない度胸が備わっている。それもそのはず、彼らは毎日、毎日、何時間も稽古しているのですから。県大会やブロック大会に進む学校だけではなく、なんの賞も取れずに地区大会で敗退してしまうような学校であってもです。
そして、演劇部員が全国大会出場を目指せる機会は在籍中、たった二回しかありません(この辺の事情について詳しく知りたい方は『3月頃に行われる春季高等学校演劇発表会(春フェス)ってどんなイベントですか?#新三年生の引退公演になることも』を読んでみてください)。野球部員は五回もある[1]のに。その分、一回の重みが違います。
だから、どうせ大したことはやらないだろうし、子供が少しぐらいうるさくしても平気だろうとは思わず、どうか、高校演劇をリスペクトして見に行ってください。子供にも「すごく大事な大会だからうるさくしないでね」と諭していただければ、おとなしくしていてくれることでしょう。よろしくお願いします。
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