プロ野球は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、15日まで無観客でオープン戦を61試合行った。今シーズンの開幕日は未定で、今後も無観客での練習試合が続く。ファンが消えたスタジアムでのゲームで選手、監督、コーチ、球場関係者らはさまざまな思いを抱いていた。球界のキーワードを掘り下げる随時掲載企画「迫る」は全2回で「無観客試合」を特集する。前編では、プレーするうえでの難しさを捕手目線で探る。
いつもなら大声援でかき消されるはずの“ある音”が、無観客試合で捕手陣を悩ませていた。
日本ハム・宇佐見「(自分が)『ザッ』って動く音が聞こえてしまうのが嫌ですね。打者に聞こえているのではないかと思ってしまって。投手も結果が大事になってくるので、データや配球に関係なく、音でバレて打たれたとなると(捕手として)すごく嫌です」
ソフトバンク・甲斐「守っていて気を使うことが多い。(特に気になるのが)自分の足音。コースに寄ったときの音を気にしてしまう。向こう(打者)に聞こえているかは分かりませんが、無観客だからこそ聞こえる音もあると思っています」
投手とサインを交わし、投球動作に合わせて構えていた位置から内外角へ動く―。静寂下のゲームでは、その音が気になるというのだ。
1990年代を中心に巨人の正捕手として活躍した村田真一さん(スポーツ報知評論家)に、2人のコメントを伝えると「無観客の経験がないというのもあるが、現役時代、スパイク音を気にしたことはない。捕手たちは相当気になっているのだろう」と驚いていた。日本ハムのバッテリーコーチを兼任しているプロ18年目の鶴岡は「札幌ドームは、すごくスパイクの音が聞こえる。そういうのがあったんだなと思います」と話した。
実際、捕手のスパイク音は打者に聞こえていたのだろうか。オープン戦に出場していたセ・リーグのある内野手は「よく聞こえた。内外角どちらに寄ったかまでは分からないが『動いてる』ことは確かに分かった」と証言する。
打者にコースを悟られないよう“動き出し”をできるだけ遅らせる手はある。しかし宇佐見は「ちゃんとミットを構えてほしい投手の場合、遅く構えてミットを見せるのも遅くなったら、そのちょっとのテンポ(の違い)で制球がブレてしまうのではないかと思ってしまう」と、新たな悩みを明かした。練習試合も無観客で行われるため、捕手受難の日々はもう少し続く。
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巨人・宮本投手チーフコーチ「プロの選手のスイング音はすごいんだなと思いました。プロ野球はファンあってだし、あらためてジャイアンツファンの大きさというのは感じた」
日本ハム・宮西投手(13年目左腕。2年連続の最優秀中継ぎ投手)「(気がついたのは)意外とマウンドで独り言をしゃべっているんだなと。『あー、今のは反応しないのか』とか。無観客で静かだから『エッ、俺けっこう声でかっ』と思ってハッとした。いつも頭の中で言っていると思っていたし、言っていても小さい声で言っていると思っていた」
中日・郡司捕手(慶大からドラフト4位で入団したルーキー)「プロになったばかりで、ナゴヤドームにお客さんが入った状態で野球をしていない。比較はできませんが、大学時代に声援が力になって自分の力以上のものを出せた部分も確実にあった。早くお客さんの前でやりたいという気持ちは高くなりました。あと、ミットの捕球音が悪いとすぐ分かってしまいますね…」
阪神・矢野監督「ホームランが出たら、ファンの人が喜んでくれたやろうなとか、声援とか、それがないのは寂しい。お客さんがいる中でやりたいというのは実感した」
西武・ニール投手(開幕投手を務める予定の来日2年目右腕)「変な感覚がある。日本のファンの応援はすばらしい。それがないのは不思議な感覚というか違和感」
オリックス・山岡投手「アマチュア(のころ)に戻ったような感じにはなりました。投げている時、いつもより周囲の声がよく聞こえるという部分はあるけど、プレーに影響はない」