肆拾壱.ちゃーでもしばかへんか?
やばくね? そもそも俺は元々は男で、でも女に転生して、でも男装してて、で中納言は男だ。この場合ボーイズ・ラブなの? それともノーマル・ラブなの? っていうか、なにげに貞操の危機? っていうか、男装バレたらマズくね? 俺、逃げたほうがいい?
中納言「関白殿はまたそうやって嫌なことをおっしゃる。私にそういう趣味はありませんよ」
関白「ふふふ。そう思うとすんなりとこの者を中納言殿に渡すのは惜しくなってきたな。私の手元でかわいがってやってもよいのだが…」
中納言「関白殿!」
関白「まあそう恐い顔をしないでください。
中納言「…」
関白「では、私はこの先急ぎますので、この者のことは中納言殿にお任せします」
そう言って関白は御簾を下げると、俺と中納言を残して去っていった。さっきまであれほど文句を言っていたのに、俺の脇を何事もなかったようにすれ違って。
中納言「さて、お名前を伺ってもよろしいかな?」
俺「あ、たけひ…」
(しまった。この格好で竹姫とかおかしすぎるぞ。どうしよう)
俺「その…、た、た、
中納言「ほう。竹仁殿か。聞かない名前だな。誰の子だ?」
俺「その…、あの…」
中納言「ははは。言いたくないか。まあ関白殿にあれだけのことをした後だからな。まあよい。私はあなたをいじめようと思っているわけではないので、許してやろう」
俺「ありがとうございます」
(なんだかわからないけど、この人めっちゃいい人じゃん?)
ヤバい。よくよく見るとこの中納言、超美形でカッコいい。惚れそうだ。いやいや、男が男に惚れるとかおかしいだろ。でも今は男装した女子なわけで、そういう意味じゃ間違っちゃいないんだが…。
中納言「それにしても、あなたは本当に美しいな」
俺「え゛」
中納言「あ、いや、誤解しないでくれ。先程も言ったとおり私にそういう趣味はない。ただ、あなたの美しさには人智を超えた何かがあるような気がして仕方がないのだ」
俺「…」
(この人、鋭い?)
中納言「これも何かの縁だ。私の家に来なさい。菓子でもご馳走しよう」
俺「…、はい。では、お邪魔いたします」
俺は中納言の後に続いて牛車の側まで行った。これってもしかしてこっちに来て初めて他人の家に上がるチャンス?
中納言「私はまだ内裏で仕事が残っている。しばらくしたら戻るので、先に家に行って待っていてください」
俺「はい」
中納言「では、竹仁殿を間違いなく家まで送り届けてください」
従者「は、はいっ!」
中納言は、従者を1人俺のために残すと、牛車に乗って去っていった。
従者「…、で、では、…、っ、よろしく、お願いします」
しまった。気を緩めてニコニコしていたら、どうも従者の人が魅惑の魔法に当てられてしまったらしい。ちゃんと自重しておかないと。
お菓子は、フルーツや小麦粉や米粉を油で上げた
お菓子といえばお茶ですが、平安時代は中期以降はほとんど飲まれていません。遣唐使により中国と交流があった頃は輸入品として団茶という形態のものが嗜まれていましたが、遣唐使の廃止と共に衰退し、鎌倉時代になって栄西が中国から持ち帰って広めるまではお茶を飲む習慣はありませんでした。
男色は、仏教と共に日本に渡ってきたと言われています。仏教では女色が罪とされていたのですが、男色については特に何もなかったため、僧侶の間で男色が行われたのだそうです。当時の仏教は先進国である中国から輸入されたかっこいい文化だったので、そこで流行していた男色も好意的に受け取られたようで、平安時代には僧侶だけでなく貴族の間にも流行したようです。
男色はその後、歴史を経ると共に武士や町民へと徐々に広がっていき、江戸時代には町人文化にしっかりと根付いたようですが、江戸中期から風紀粛清で取り締まられるようになって衰退し、明治時代になって一時的に法的に禁止されたこともあり、異端視されるようになったそうです。