肆拾.ダイナ○ン
従者「これは、
後ろを振り返ると、
(またややこしいのが増えた。しかもなにげに囲まれた?)
中納言「たまたまそこを通りかかったら、
(げっ? この牛車は関白のか!?)
さっさと逃げておけばよかったと後悔しきりだが完全に後の祭りだった。まあ、いざとなれば力づくでも逃げられるからもう少し成り行きに任せておこうと腹をくくって中納言の出方を見ることにした。
ところで、中納言って何? お菓子? 美味しいの? という疑問を持っていませんか? そこのあなた。昔、戦隊物にそんなのがあったなーとか、それはダイナ○ンですから。違うよ。全然違うよ!
一口に貴族といってもその中には序列があって、上流貴族にあたる方々はスーパー貴族と言ってもいい貴族の中の貴族なのだ。
ところで、貴族の序列は位階と官職の二重構造になっていて、位階は正一位から始まって従一位、正二位と続き、最後には少初位下までの階級を表すもので、官職はその名の通り宮廷での役職のことなのだが、公卿というのは位階で従三位以上、または官職で参議以上、つまり
つまり中納言とは、貴族の中でも上から数えて10指に入るスーパー貴族なのだ。
そして関白とは…。亭主関白なんていう名前だけのその実態はATMなんてものとはわけが違う。帝の代理人であり、その権威、権力は時に帝をも凌ぐ。今や上流貴族の大半を占めるに至った一族、藤原氏の
関白「おや、中納言殿とな」
牛車の
関白「こんなところから失礼します、中納言殿。して、そちらのものが私の邪魔をしているものか。なんだまだ子どもではないか」
従者「おい、お前。頭を下げろ。関白殿と中納言殿の御前だぞ」
関白「まさに礼儀を知らない下賎なものだな。さっさと片付けてしまいなさい。中納言殿、ご好意は痛み入るが、これは私どもの方で十分なので、どうぞ先をお急ぎください」
なんか、この関白の態度はむかついた。確かに爺は最近ようやく下級貴族になったばかりだし、俺は現代からやってきたただの庶民だ。でも、物でも見るようなあの目は何だ。
中納言「そのことなのですが、この者のこと、私に任せていただくわけにはまいりませんか?」
関白「…というと?」
中納言「この者の身柄を私が預かるということで、この場を収めていただけないかと」
(えっ? それって俺をこの場から助けてくれるってことか? なぜ?)
中納言の発言の真意が分からず、俺は困惑する。が、話は俺を無視して先に進んでいった。
関白「ふむ。そのものは中納言殿の縁者か何かですかな?」
中納言「いえ、そういう関係ではありませんが、先程より見ていて少々情が移ってしまいまして」
関白「ほう…」
関白の顔にニヤリというようなふうに口元に笑みが浮かび、目が細くなった。その目の奥から舐めるような視線が来る。あからさまに何かよからぬことを思いついたようで俺は背中に鳥肌が立った。
関白「確かにこの者、よく見ると美しい顔をしているな。中納言殿のお眼鏡に適ったというわけか。くすくす」
(ちょっと待てっ!!! この時代って、確か男色が流行ってるんだよな…)
関白というのは平安時代になってから新しく作られた職で、正式な官職ではありませんでした。政治的な実権を掌握していたのも平安時代の一時期だけで、知名度に比べるとその実態はそこまででもないようです。しかし、天皇に継ぐ権威と伝統に加え、ザ・貴族、藤原氏の氏の長者としての権力があり、貴族の筆頭であることは間違いありません。
なお、時代設定は院政が開始される前、まさに関白が天皇と伍して権力争いをするような時期ということになっていますので、名実ともに関白が天皇と並ぶ政治の最高権力者です。
ところで、位階で六位以下は通常は貴族とは言わず、五位以上を貴族と言います。前に翁が出世して貴族になったとあったのは、従五位下に任じられたという意味でした。雪が必要以上にへりくだるのも、雪の実家が貴族ではないからというのもあります。
「俺」が着ているのは狩衣ですが、平安時代中期では狩衣は私服で公務の際に着ることはできません。公務の際の正式な装束は束帯とそれを略した衣冠で、特別な許可なしにはこのどちらかを着る必要がありました。しかし上流貴族はそれを更に略した直衣という服を着ることが許されたので、公務では通常直衣が着用されました。
束帯、衣冠、直衣のいずれにしても、頭には冠をかぶりました。烏帽子は私服の際に使われるもので、公務では冠と決まっていたためです。ただし、直衣は狩衣と並んで私服としても使われたため、その際には烏帽子と合わせるのが普通でした。