卅陸.死闘の余韻
羽は一際強く輝いた後、淡い虹色の光に包まれた。俺と式神と墨と三羽烏はただ茫然と光りに包まれる羽を見つめていた。昔、歴史の授業で聞いたことのある玉虫というものが、もしかしてこんな色をしているのだろうか思うような輝きだった。
すぐに光は弱まっていき、羽は虹色の淡い輝きを残して落ち着いた。俺は余韻に浸る間もなく叫んだ。
俺『居室。湿度、30%。室温、25℃』
すぐに部屋の蒸し暑さは消え去って体中の汗が引いて行く。俺は式神の柄杓を奪い取って水を飲む。飲む。飲む。
俺『プハー。生き返った』
式神『あ、間接キス』
俺『うるさい。終わったからさっさと帰れ。…、いっ』
式神はいつの間にか天照のヅラを取り出してかぶり、靴下を履こうとしていた。って、これはヤバい。似合いすぎる。
俺『さっさと消えろーーーー』
俺はチート能力を限界まで振り絞って人間の目には捉えることが不可能な速度で例の箱を手に取り、返す刀で箱を式神に当てて型紙に戻した。
(危なかった。あのまま逢坂大河のコスプレで
ようやく落ち着いて、左手に持つ虹色に輝く羽を見た。どうやら本当に完成したらしい。虹色の光は魔法が成功した証で、時間と共に消えてすぐに元の黒い羽に戻ってしまう。黒い羽に戻った後も虹色の光沢を持つが、今のように発光することはない。だから、この光が見られるのは今のうちだけだ。
俺(カラスはもう帰っていいや。墨は雪を呼んで…って無理か。俺が行くか)
俺は鍋を火から上げて桶の水につけて冷やすと、水が入ったままの桶の縁に両手を揃えてひょいと持ち上げた。そのまま廊下に出て雪の部屋に向かう。
俺「雪ー」
雪「た、竹姫さまっ!」
雪は部屋から出てくると、俺が桶を持って歩いてきたのを見て慌てて駆け寄ってきた。
雪「竹姫さま。後は私がやりますから、こちらに置いて部屋にお戻りください」
俺「いいよ、私が持ってく。どこまで持ってけばいいの?」
雪「いけません。竹姫さまは貴い方ですから、そのようなことをなさっては困ります」
雪がいつになく恐い顔をするので仕方なく桶を床に下ろした。それを雪が持ちあげようとするが、俺が軽々持ち上げていたのを見たせいか、片手で持とうとして持ち上がらなかった。まだ水がたくさん入った桶だから仕方ないが、雪は不思議そうな顔をしている。
雪に部屋にもどれと言われたので、俺はそのまま部屋に戻って、雪は腰を入れて両手で持って桶を運んでいった。少しして戻ってきて火桶も回収していく。雪は本当に働き者だ。
雪がいなくなってから、俺はできたばかりの法具を手に取った。もう虹色の光は消えてしまっているが、光を反射させると虹色の光沢がある。これは「八咫烏の羽」という法具で、何に使うかは使ってみてのお楽しみだが、今日は雨が降っているので使えない。
(この雨じゃ、上賀茂神社に行くのも当分先かな)
天照には悪いけど、天候には勝てない。梅雨があけるまではなかなか行けそうにないが仕方ない。しかし、たまの
(まあ、今日は夜は家でゆっくりだから、墨とじっくりいちゃいちゃできるかな)
墨「に゛ゃっ!!?」