3月11日放送 震災特集 「福島を知る」作文全文

3月11日にNHK甲府のNewsかいドキで放送した、山梨県北杜市の塚田愛由希さん(中3)が「福島の今」を知ってほしいと書いた作文です。
この作文は令和元年に甲府地方法務局が山梨県内の中学生を対象とした作文コンクールで最優秀の甲府地方法務局長賞に選ばれました。

「福島を知る」

塚田愛由希

皆さんは東日本大震災が起きてから、福島県に行ったことがありますか。

私は、小学校五年生の時に見たテレビ番組をきっかけに、原発事故や廃炉のこと、そして福島のことについて調べてきました。
中学生になってからは、実際に何度か福島に行きお祭りや観光地巡りも楽しんでいます。

福島県でも特に海側の「浜通り」という地方では、まだ震災や原発事故の影響が残っている場所もありますが、震災当時の映像や写真から見ると、復興は進んでいると感じます。避難解除された地区には、新たな商業施設やコミュニティ施設が立つ場所もあり、戻ってきた人々は色々な思いを持ちながらも、地域を大事に思って住んでいるのだなと感じます。
一昨年の冬、楢葉の天神岬スポーツ公園のイベントでは、地元の中学生たちが大人と一緒にすいとんを作って、訪れる人たちに無料で配っていました。私もいただいて、心も体も温まりました。
私はそんな、食べ物が美味しくて、人の優しさを感じる福島が大好きです。

しかし、そんな福島県に住む人々や、避難した人々が、偏見や風評被害で苦労していることを、時々耳にします。

これは一昨年、福島県の方から実際に聞いた話です。
ある時、福島県産の桃をPRするために他県に行った人が試食販売していたときのこと。一人のお客さんが「美味しい。どこ産。」と尋ねてきたので、喜んで「福島です。」と答えたそうです。すると次の瞬間、お客さんは桃を吐き出して去っていってしまったようなのです。
私は「風評被害」という言葉は福島に行く前から知っていましたが、実感があまり無かったので、この話を聞いて、初めて重く感じました。

もう一つは、私が福島旅行に行ったことを地元のある場で話したときのことです。一人の小学生がこう聞きました。
「浜通り地方に行ったら火傷するんじゃないの。」
その子は放射線と熱線を同じと捉えているのか、原子爆弾のようなイメージで言ったのだろうと思います。私はすぐに「そんなことはないんだよ。」と答えましたが、正直少し驚きました。

なぜ、そうしたことが起きるのでしょうか。私は、原因の一つに放射線への知識不足や、福島の今についての関心の薄さがあるのではないかと考えます。もちろん、関心を持った上で食べない、行かないという意見もあるでしょう。しかし、「よく分からないけどなんとなく怖いから、福島に行くことや、福島県産の物を食べるのは不安」という人も、まだいると思います。

ところがもう少し探ってみると、それは「よく分からないけど」というより、「よく分からないから」起きる不安ではないでしょうか。
例えば、放射線は人から人へ移ることはありませんが、移るものと思い込む人も実際にいたのです。そしてそれが、福島からやってきた人や物への警戒心となり、避難してきた子たちへの差別やいじめにつながったことは、メディアの報道にもありました。私達の中の情報が更新されないままでいると、知らず知らずのうちに誤解や偏見を生むことがあります。さらに深刻になると、差別、いじめなど人権に関わる問題に発展するのです。

しかし、みんなが放射線について基礎的なことを学べば、見え方が変わるのではないでしょうか。また、福島県産の農作物、水産物などが放射能検査により安全性が認められた上で店に並んでいることや、福島で普通に暮らしている人々がいること。そして復興が進む場所についてもっと伝える場があれば、捉え方が変わるのではないでしょうか。

まずは、大人から子どもまで正しい情報を得て、正しい知識を持つこと、自ら学ぼうとすることが大切だと私は思います。

実は私の母も、なんとなく福島県産の食品を購入するのを避けていた時期があったそうです。しかし、福島のことを親子で調べるにつれ、食品がしっかりと検査されていることや、放射線の数値についての理解も深まり、今では福島県産のものを、美味しいからと積極的に買うようになりました。少しでも正しく知ることが、差別や風評被害を無くしていくスタート地点になります。

私は、実際に原発事故の被害に遭ったわけではありません。被害に遭われた方々にしか分からない大変な苦労や心境を経験することもできません。しかし、全てを理解することはできなくても、自分で学べる知識はしっかり学び、それを周りの人に伝えていけたらと思います。

最後に、福島はとても良い所です。機会をつくってぜひ一度、行ってみてください。実際に足を運んでみるからこそ分かることが沢山あります。

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