昔、それも気の遠くなるような遥かな昔。まだ、人が神と共に在った時代のこと。


ルオンノタルと呼ばれるその大陸には、百余りの国々と王が在った。彼らは、永い間、互いに覇を競い合った。

人の世の常ではあるが、戦いに勝利した者は領土を拡大し、富を増やしたが、一方で、戦いに敗れた者たちは、領土ばかりか、愛しい人を失った。


そうやって、ひとつの国が滅べば、またひとつの国が興る。人は、それを当たり前のように繰り返した。


体勢に翻弄されるだけの、か弱い存在の民衆もまた、すっかり、この状態に慣れきっていた。なぜ、あらゆるものを犠牲にしてまで、奪い合うのか。それは、誰にもわからなかった。けれど、人は欲することをやめない。


それでも、世界は、ある種のバランスの上に成り立っていた。

しかし、あるとき、ひとりの王が現れた。


王の名はレオン。


レオンは、ルオンノタル大陸の西方にある小国、アッカドの王族として生まれた。


数多ある国々の中でも、取るに足らない小国でしかなかったアッカド王国であったが、レオン王の即位に伴い、瞬く間に領土を拡大した。


レオンは自らを光の王であり、唯一神ラトスの御使いであると名乗った。そして、人は唯一神のもと、在るべき姿に帰するべきだとして、ルオンノタル大陸統一の大義を掲げた。

やがて、信仰に根づいた大義は、強大な力を持つようになっていった。アッカド軍は、呼応して立ち上がった民衆をも取り込み、一気に膨れ上がった。そして、その勢いは留まるところを知らず、何百年も続いた勢力図をあっさりと塗り替えた。


こうして、覇王レオンは、ルオンノタル大陸の統一を成し遂げた。


ただし、守護聖竜の信仰によって成る、スノリエッダ、セントヘレナ、ミッドガルド、ヴィンセントだけは、中立を守った。


覇王レオンは、己こそが王の中の王であり、人の世にあっては、唯一神ラトスの御使いであることを示すため、「皇帝」を名乗った。


こうして、覇王レオンによる施政が行われ、統一された国土は、ラインフェルス帝国と名づけられた。


やがて、レオンによる大陸統一から、さらに永い年月が流れた。


大陸の西、アッカド。今は、始皇帝レオンの故郷として、その名を残すだけだが、この地にひとつの歪みが生まれた。


ロンギヌス…。


それは、唯一神ラトスに仇なす存在として、異端者として、歴史上、何度も姿を顕しては、帝国に粛清されてきた。


彼らは、何の前触れもなく、突如、湧き出でるように顕れた。それが常だった。


やはり、何ら予兆さえもなく、アッカド地方の古都ネルソンの貧民街を根城とする賊徒の長、ブラックモアが帝国に弓を引いた。はじめは、辺境の取るに足らない小さな蛮族の蜂起だと、帝国民は考えた。


しかし、後に事態が只事ではないことを知ることになる。なぜなら、彼らは、自らをロンギヌスと名乗ったからだ。異端の信仰とは、時として、体制に対する憤懣の顕現であり、やがては利害が一致する者を呼び、勢力を拡大していった。


それは、永き太平により緩慢となっていた帝国軍の隙を突いた形となった。


そうして、ほころびが広がるように、ブラックモアの軍勢は勢力を広げた。皮肉にも、それは、かつて覇王レオンが辿った道でもあった。


ブラックモアとそれに付き従う4人の黒騎士、オズホーン、ディオ、クラウス、ジョシュアの戦いぶりは鬼神を思わせ、次々と帝国兵を血祭りにあげていった。


こうして、アッカドを中心とする大陸西方を掌握したブラックモアは王を名乗り、ディオニス王国を建国した。


異端者ロンギヌスによる建国は、歴史上、初めてのことであり、それを許した帝国の威信は失墜した。


そんな折、ラインフェルス帝国では、皇帝テイトが崩御し、皇太子アスタロトが即位した。


若干18歳ながら帝位に就いたアスタロトだが、かつてのレオンを思わせる豪腕で帝国軍を再編した。皇帝アスタロトは、気性の激しい性格ながらも、極めて合理的な思考の持ち主で、能力至上を公言し、才を愛した。


これにより、才ある者は重用され、逆に、処世にばかり長けた無能な臣は、政界から一掃された。そうして、臣下の心に畏敬を植えつけていった。


また、自ら先陣に立ち、ディオニスとの戦いにも赴いた。


こうして、ラインフェルス帝国とディオニス王国は、激しい戦いを繰り広げた。


一方、覇王レオンの治世より中立を守る、風のスノリエッダ、火のセントヘレナ、水のヴィンセント、地のミッドガルドにも動きがあった。


皇帝アスタロトは、古よりの盟約を承知しながらも、唯一神ラトスに仇なす異端者を粛清するという大義のもと、四聖国に挙兵の檄を飛ばした。


もちろん、レオンの世の如く、彼らは沈黙を守るものと思われた。しかし、大陸東方のミッドガルド王国が、突如、ヴィンセント王国に攻め入った。それには、誰もが目を疑った。


こうして、覇王レオンによる、大陸統一以来、ふたたび、ルオンノタル大陸は戦渦に包まれた。