前々回と前回の投稿では、オーストラリア国立大学の教授やアメリカのネブラスカ大学医療センターの教授が推定した新型コロナウイルスによる死亡者数について紹介した。
感染者が世界で11万人を超え、死亡者数も4000人を超えるのを目前にしている今、死亡率はどうなのか?
死亡率については、感染を自覚していないため検査を受けていない人や検査を受けたくても受けられない人もいることから、どれだけの感染者が潜在しているか不明なので、知ることは難しい。しかし、誰もが非常に気になるところだろう。
無症状の感染者は多くない
その死亡率を、WHO(世界保健機関)は先日、3.4%に引き上げた。
なぜなのか疑問に思っていたのだが、その理由について、感染症研究で著名な国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファーシ博士が先日、米議会で、こう明かしていた。
「WHO側と話したのだが、考えられていたほど無症状の感染例が多くないということだ。だから、彼らは死亡率を引き上げたのだと思う」
検査件数の約10%が陽性
また、ファーシ博士は、トランプ政権が検査キットを検査機関に行き渡らせていないため、ウイルス検査が進んでいない現状にフラストレーションを感じていた。
「どうしていいかわからない。十分な検査をして分子(感染者数)がわかったら、困ったことになるだろう」
アメリカでも、日本同様、検査件数が少ないことが問題なのだ。
米誌「アトランティック」の3月6日(米国時間)の報告によると、アメリカでの検査件数は1895件で、その約10%が陽性だったという。
先日、新型コロナ対策担当のペンス副大統領は「いかなるアメリカ人でも検査を受けられるようにする。150万個の検査キットをラボに送る」と豪語したが、実際には十分に行き渡っていないのである。日本同様、検査件数が非常に少なく、新型コロナの症状を見せていても、検査を受けられない人々がアメリカには多数いるのだ。
しかし、検査件数が増えたら感染者数は増加するものの、死亡率は低下すると多くの専門家が予測している。
以下は、筆者がジョンズ・ホプキンス大学のデータを元に割り出してみた、感染例が100例以上ある国々の死亡率(米国時間2020年3月9日、午前10時13分時点)だ。
国名 死亡率 (死亡者数/感染者数)
全世界 3.5% (3892/111,397)
中国 3.9% (3120/80735)
韓国 0.7% (53/7478)
イタリア 5% (366/7375)
イラン 3.3% (237/7161)
フランス 1.6% (19/1209)
スペイン 2.6% (25/979)
日本 1.4% (7/511)
アメリカ 3.7% (22/600)
スイス 0.5% (2/374)
イギリス 1.1% (3/280)
オランダ 1.1% (3/265)
香港 2.6% (3/115)
(注)ジョン・ホプキンス大学のデータは、「ダイヤモンド・プリンセス号」で感染した人の数と日本の感染者数を別々に扱っているため、上記の日本人感染者数の中には「ダイヤモンド・プリンセス号」で感染した人の数は含まれておりません。
上記からわかるように、検査件数が多い韓国での死亡率は0.7%だが、検査件数が少ないアメリカの場合、死亡率は3.7%と高い。
感染者数を倍にしたくない
検査件数が少ない背景には、増やすことにより感染者の数を大きくしたくないという為政者の計算があるのかもしれない。
例えばそれは、トランプ大統領の発言に如実に表れている。
集団感染が起きた、サンフランシスコ沖の「グランド・プリンセス号」の乗船者たちを下船させる措置についてトランプ大統領は反対し、こう言及したのだ。
「こちらには落ち度はないのに、一隻の船のために感染者の数を倍にしたくはない」
この発言に対し、専門家からは「国民のことより、数を気にしているのか」という批判の声が上がった。
高齢者は手遅れになる
日本の検査件数が少ない問題についても、アメリカのメディアは批判している。
米紙ニューヨーク・タイムズは「日本同様、高齢者人口が多い韓国やイタリアは迅速に検査規模を拡大して感染者の治療や隔離を行なったが、日本は検査には制限があり、高齢者は2日間高熱が続かないと検査を受けられない、それでは手遅れになるかもしれない」と非難。
また、同紙は「もし、日本が韓国と同じくらいの数の検査をしたら、実際の感染者数はどれほどになるだろう。見つかっていない感染例がどれだけあるのか」という専門家の皮肉な声も紹介している。
たったの6647件
安倍首相は先日「かかりつけ医など身近な医者が必要と考える場合は、全ての患者が検査を受けられる十分な能力を確保する」と述べたものの、検査件数が増えているかは疑問だ。厚生労働省によれば、3月6日(日本時間)までに実施された検査はわずか6647件。
この検査件数の少なさにもかかわらず、新型コロナウイルス対策に関する政府専門家会議は3月9日(日本時間)、日本の感染状況について「爆発的な感染状況には進んでおらず、一定程度持ちこたえている」と判断した。
検査件数を増やせば、感染者数が増えるのは必至だ。しかし、死亡率は下がることになるだろう。死亡率の低下は、今、“新型コロナ・パニック”に襲われて右往左往している国民の心を多少なりとも落ち着かせることにつながるのではないか?
何より、検査件数を増やすことで、感染した高齢者や病弱な人々を迅速に発見でき、早期に治療することができるはずだ。
インフルエンザの10倍死亡
ところで、前述のファーシ博士は、新型コロナの死亡率についてこう話している。
「季節性インフルエンザの死亡率は約0.1%だが、新型コロナの死亡率が(WHOがいう3.4%から)1%まで下がったとしても、季節性インフルエンザの10倍も死亡するのです」
検査件数が増えても、季節性インフルエンザよりは高いと予測されている新型コロナの死亡率。それだけに、日本もアメリカも、検査規模の大幅拡大を図ることが急務だ。
(表記のお詫びと訂正)
上記、ジョン・ホプキンス大学のデータで、日本の死亡者数を17としていましたが、正しくは7でした。この訂正に伴い、死亡率も3.3%から1.4%に訂正致しました。筆者の不注意により、表記ミスで読者の皆様を混乱させてしまいましたことを、心よりお詫びを申し上げます。