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【今は昔】転生!かぐや姫【竹取の翁ありけり】 作者:七師

第1章「天照」

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廿玖.会いたくて会いたくて

 その後、天照は勢い良く立ち上がって、一瞬重くなった空気なんて始めからなかったように、にこにこしながら木刀を振り回し始めた。そして、凶器を振り回す天照を恐れた墨が、部屋の隅に逃げ込んでうずくまっているのを見つけて大喜びでモフモフしたり、木刀に切り裂かれたふすまを見つけて花の形に切った紙を張って修復したりした。


 俺もなんだかんだで楽しそうにはしゃぎまわる天照を、生暖かい気持ちで眺めていた。まあ、木刀を振り回すのは勘弁して欲しかったが。


 天照『夜遅くなっちゃったし、そろそろ帰るよ』

 俺『雨降ってるし、暗いけど大丈夫か?』

 天照『これでも神様だから、雨も暗闇も平気だよ』

 俺『それもそうか』

 天照『今日、遊んでくれたお礼に、この服をあげるね』

 俺『へ?』


 そういうと天照は、立ったままワンピースのボタンを外して袖から手を抜き始めた。


 俺『わーっ。ちょっ、待て待て。そういうことは物陰に行ってやってくれ』


 天照はワンピースの袖から両手とも抜くと、そのままワンピースを真下に落とした。すると、その瞬間、天照の身体から強い光が放射され、俺はあまりの眩しさに目をつむってしまった。


 まぶたを透過してくる光が弱まったのを感じ、俺は恐る恐る目を開けた。すると、最初に出会った時と同じ、袿に羽衣という扮装いでたちになった天照が、淡い光を放って宙に浮いていた。


 天照『服と一緒に紙も少し置いておいたから、必要になったら使ってねー』

 俺『おま…、天照ちゃんはどこに住んでるんだ?』


 天照は黙って上を指さした。


 俺『天井?』

 天照『あたしは太陽の神様だから、昼間は太陽と一緒にいるんだゾ。で、夜は高天原たかまがはらってところにいるんだ』

 俺『高天原ってのがおま…、天照ちゃん…、呼び捨てじゃだめか?』

 天照『…まあ、仕方ない。許してつかわそう』

 俺『はー。ありがたき幸せ。…、でさ、高天原ってのが天照の家なのか?』

 天照『家って感じのとこじゃないけどね、あそこは…』


 (家って感じじゃないってどんなところだろう? 城? いや、もしかすると秘密基地的な感じ?)


 天照の裏のありそうな表情に、俺は天照に似合いそうなぶっ飛んだ家のイメージを想像してみた。日本の最高神だけに、何かとてつもない日本のような…。


 天照『あー、でも、会いたくて会いたくて震えるようなら夜の上賀茂神社に来てねっ! あそこなら姫ちゃんが来たことがすぐわかるし、あたしもすぐに行けるから』

 俺『ん? まあ、気が向いたらな』


 (こいつの現代に関する知識は一体どこで身につけたんだろう、本当に)


 と思ったら、急に身体が宙に浮いて、天照との距離が意思とは無関係に縮まった。よく分からないが、天照が何か魔法を使ったのだろうか。


 天照『きっと気が向くよね。会いたいって願っても会えないような関係じゃないんだよ?』


 そう言いながら、天照は俺の手を握りしめて、そのままどんどん力を込めてきた。見た目には純情な美少女が別れを惜しんでいる様子にしか見えないが、実態はそんな甘酸っぱいものではない。


 俺『ちょっ、ちょっと、…、あ、い、痛い痛い痛いっ!』


 ほ、骨がきしむ。天照、どんだけ握力があるんだ。しかも、宙に浮いているから足を踏ん張ることもできなくて抵抗もできない。


 天照『会いたいよね(ニコッ』


 天照は天使の微笑みを見せるが、俺には悪魔の微笑みにしか見えない。


 俺『はい。会いたいです。会わせてください。お願いします…』

 天照『仕方ないなー。そんなにお願いされたら、断れないなー。なるべく早く来てね』

 俺『はい。必ず行きます、天照様…』


 ようやく解放された俺の手は、真っ赤を通り越して真っ青になっていた。神経も半分くらい麻痺していて、指先の感覚がない。


 天照はすっかり上機嫌になって、手を思いっきり振りながら消えていった。

高天原は天上界で神様が住んでいるとされているところで、天照大御神はそこを治めているとされています。


人間が住んでいる地上界は葦原中国あしはらのなかつくにと呼ばれ、さらに地中には死者の国であるの国、別名、黄泉よみの国があります。

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