廿肆.襲撃
今日のネタは投稿前に若干ドキドキしています。
丑の刻。
不意に目が覚め、俺は憮然として目を見開いた。
(あれ、ふすま閉め忘れたっけ?)
寝る時にきちんと閉めたと思ったが、外の雨音がやけにうるさい。どうやら締め忘れたらしい。
(なんか、妙な気分だな。何か大事なことを忘れているような…)
とりあえず、俺はふすまを締めるために起き上がって、寝ぼけ眼のままふらふらとふすまに向かって歩き出す。寝返りを打って着崩れた小袖の隙間からそよ風が体温を奪うのがすこし気持ちいい。
(雨、まだ降ってるな)
昨日は午後から雨が降り始め、寝る頃になっても小雨のまま止む気配はなかったが、まだ降り続いているようだ。
月明かりがなくても俺の目は暗視スコープのように周囲を見ることができる。俺はふすまを締め、半覚醒のまま、命の危機的な何か忘れているような気がしていたものの、思い出せないので再び眠りにつこうと畳の方に足を向けた。
その時、不意に殺気を感じ、慌てて後ろを振り返ろうとして、何か柔らかいものを踏んでそのまますっ転んでしまった。
墨「みぎゃっ」
俺『いだっ!』
腰を強かに打ち付けて、目から火花が飛び散ると思った刹那、俺の頭があったあたりを何かがものすごい速度でブンッと通過して、そのまま眼の前のふすまにサクッと刺さった。
ふすまに刺さった何かが引き抜かれると同時に俺は後ろを振り向いた。そこには、木刀を持った何者かが仁王立ちになって立っていた。一瞬のことで顔まで確認できなかったが、圧倒的で破壊的なオーラを感じた。
俺『ッッッッ!』
賊は手に持った木刀をものすごい勢いでブンブン振り回して追いかけてくる。それを俺は紙一重で躱しながら部屋中を逃げまわった。木刀がふすまに触れるたび、木刀で切られたとは思えないほどの鋭利な傷がふすまに生まれる。
(ヤバい。殺される!)
避け切れないと悟った一撃が、俺の頭の上に襲いかかったその時、俺は反射的に手を木刀に向かって伸ばしていた。
バチン
(…、あれ? えー!?)
俺の手は、奇跡的に賊の木刀を両手で側面から押さえ込んでいた。いわゆる真剣白刃取りだ。真剣ではないが。
俺『ぐぬぬぬぬ』
そのまま、俺と賊は木刀を挟んでの力比べになる。なんとか俺は後ずさりしながら立ち上がったが、賊の力が強くて押し返すことができない。しかし、俺も押し負けるつもりはなく、力比べは膠着状態になった。
(こいつ、小柄なのになんて力だ)
俺ももちろん小学校低学年体型なので小柄だが、目の前の賊も一般的な成人男性と比べるとはるかに小柄だ。しかも、この時代ではあまり見ない変わった服を着ている。
均衡が破れたのは一瞬のことだった。
賊『…、は、は、はっくしょんっ』
急に賊の力が抜けて、俺は勢い余ってたたらを踏んで、そのまま前のめりになって、賊を巻き込んで畳の上に盛大にこけた。
俺『居室、明かり、ON』
賊の勢いが削がれた隙に、合言葉を言って部屋の明かりを付け、すぐさま立ち上がって俺は叫んだ。
俺『天照ーっ!』
天照『…』
俺『なんのつもりだーっ!』
丑の刻は、午前2時前後です。
平安時代は現代と同じく定時法です。日の出日の入りに合わせて時刻が変化する不定時法の導入は室町時代まで待つ必要があります。不定時法をきちんと運用するには、季節によって基準となる時計を入れ替えることが必要になるので面倒なのです。
ところで、平安時代の時刻は、十二支を使う48刻法の他、50刻法や100刻法という方法も並行して利用され、若干カオスな感じになっています。
いや、お前、もっと他に言うことがあるだろうって? その件につきましては、後ほどくぁwせdrf…