廿壱.だけど涙が出ちゃう。女の子だもん
夕方、結界を張り終えた後、俺は墨との関係改善を図るべく、スキンシップを深めていた。といってもやっていたのは、縮こまる墨を捕まえて、仰向けにして足を開かせてお腹のモフモフに顔をうずめていただけだ。
俺(ああ、癒される)
墨(…)
しばらくモフモフで癒されていると、雪が夕飯を持ってきた。ところが、俺の部屋に入ると驚きのあまりにしばらく硬直してしまった。
(…、あ、しまった)
居住結界を張り終えたので、俺は自分の部屋の調光機能を使って、電球色の色味で部屋全体を薄明るくしていた。その光は結界の目隠し機能で外に室内の光が漏れることはないが、一歩室内に入れば数千本のろうそくに匹敵する明るさで部屋の隅々まで照らされている光景を見ることになったのだ。
明るい部屋というのは、電気が普及している現代から来た俺にとっては当たり前の光景だが、平安時代の雪には信じられない光景だった。さらに、鴨居をくぐった途端に、何の建具もないのに突然明るくなったことも、雪の驚きに拍車をかけていた。
(やば)
俺は、慌てて立ち上がると、茫然自失して今にも倒れそうな様子の雪から夕飯のお膳を取り上げると、雪はそのまま床にへたり込んでしまった。
俺「雪? 大丈夫? 雪?」
雪「…、竹姫さま、これは一体?」
俺「あー」
(どう答えたものかな………)
雪「…、竹姫さまは、やはり天上界のお方だったんですね」
俺が答えに窮していると、雪は何か納得したように言うと、やや熱を帯びた目でこちらを見上げてきた。
(ああ、このまま押し倒したくなるほど可愛い、…、って、天上界って何?)
雪「お仕えする最初の時に、竹姫さまは普通ではない生い立ちの方とお聞きして、その後、竹姫さまの聡明さ、お美しさ、そして何より成長の速さに、ただならぬ方とは存じておりましたが、このような不思議のことをなさるというのは、もはや疑問の余地はございません」
俺「あ、えと…」
雪「雪は、竹姫さまにお仕えできて、幸せでございます」
雪はそう言うと、頭を床に付けて平伏してしまった。ってか、この流れでそうなるの? そうなるのか!?
俺「雪、お顔を上げて。確かに私はあなたとは少し違う生まれだわ。でも、それがどうしたというの? 私は雪のことが人間として好きなのよ。あなたと私はお友達なの」
俺がそう言うと、雪は驚いて顔を上げ、
雪「もったいないお言葉です」
といって、涙を流して泣き始めてしまった。
(どうしよう。女の子の涙とかどうしたらいいのかわからないよ)
天照も去り際に涙を見せていたものの、あれは目尻にキラリと光る程度だったのだが、目の前の雪は大粒の涙をボロボロと落として泣いている。しかも、泣いている理由が全くわからない!
(大ピンチじゃん!?)
ろうそく1本の明るさがおよそ1カンデラで、100W白熱電球がおよそ120カンデラになります。部屋に10個の白熱電球を灯す場合、1200本のろうそくを灯すのと等しくなります。平安時代の寝殿造の屋敷は、現代の住居よりもずっと広いことを考えると、現代の住居の照明の灯った部屋を実現するには最低でも数千本のろうそくが必要になります。